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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~雷の精霊ヴォルト編~
158/302

第156話 「ユリア復活!」

 死んだ・・・、そう思った。

しかしオルフェの腕を掴む感覚はあったし・・・、わずかに甘い香りが鼻を刺激する感覚もあった。

助かったのか? と思ったアギトが、そっと目を開けた時。


「アギト、オルフェ!! 早くこっちに来なさい!!」


 威勢のいい声が聞こえる・・・、少し荒っぽいが・・・どこか安心出来る声。

声が聞こえた方に目をやるとそこにはジャックとミラを保護したユリアが・・・、ふらふらになりながら立っている。


「ユ・・・、ユリア!?」


「ぼさっとしてないで、さっさとこっちに来るの!!」


 呆けているアギトに喝を入れると、ユリアは胃から何かが込み上げてきたのか・・・片手で口元を押さえる。

慌ててオルフェの腕を掴んだまま走って行くと、アギトはふと・・・オリウェイルの方を振り向いた。

するとオリウェイルはさっきまでの荒々しさが嘘のように消え失せており、どこか放心状態のように見える。

走ってユリアの元に辿り着くと、まずはオリウェイルの目の届かない場所まで避難する必要があった。

全員揃うとすぐ近くに馬車があり・・・、それに乗り込んでその場を後にする。

体調のすぐれないユリアに代わりジャックが手綱を握ると、そのまま首都方面へと向かった。

客車に乗り込んだアギト、ユリア、オルフェ、ミラは・・・殆ど無言で座っている。


「ユリア・・・、どうやってオリウェイルを大人しくさせたんだ?」


 アギトが最後にオリウェイルを見た時、どこか放心状態だったのを思い出してユリアに聞く。

するとユリアは・・・いつもの笑顔はなかったが、乗り物酔いが少しはマシになっている様子で答えた。


「あぁ・・・、これを使ったのよ。」


 そう言うとユリアは、羽織っていたコートのポケットから何かの粉末が入った小瓶をアギトに見せた。

よく見ると何かをすり潰したような・・・黄色い粉末が入っている。

何の粉かわからない・・・という反応を見て、ユリアが説明した。


「それはシグレイルの花粉よ。

 多年草の一種でレムグランドではそんなに珍しくない花なの・・・。

 オリウェイルはこの花の花粉の匂いが大好きなのよ、だからこの花粉を風の魔法で飛ばして・・・オリウェイルに

 嗅がせた・・・ってわけ。

 あの周辺、甘い香りが漂ってなかった?」


 思い出してみれば確かに、オリウェイルが大人しくなった時・・・妙に甘い香りがしていた。

あの香りは、花粉が周囲に散布されていたからなんだと・・・ようやく理解する。

ともかく・・・、ユリアが来てくれたおかげで大事に至ることがなくて安心したが・・・アギトは素直に喜べそうに

なかった。

ユリアから説明を受けた後は・・・、まるで別人のように大人しくなり・・・押し黙ってしまう。

そんなアギトの心境を察してか、ユリアはふっと柔らかく笑みを作ると目の前に座っている3人に謝った。


「あたしが体調管理出来てなかったばっかりに・・・、あんた達に迷惑かけちゃったわね。

 怪我がなくて何よりだったけど、全部あたしの責任だわ。

 ・・・ホント、ごめんね。」


謝るユリアに、アギトは余計に居心地が悪くなる。


 ユリアのせいなんかじゃない・・・。

もとはと言えばアギトが自分の力を過信して、自分に任せろと言ったのに・・・オルフェ達をちゃんと守り切れなかった。

ユリアに「大丈夫だ」と胸を張って言ったのに・・・、このザマはなんだろう。

そう思うと悔しくてたまらなかったのだ。


アギトの落ち込んだ表情を見て、ユリアは言葉を付け足す。


「でも・・・、よくやったわ。」


「・・・え!?」


 三人とも、きょとんとした。

まさか褒められるとは・・・、夢にも思わなかったからだ。

ユリアの顔にいつもの笑顔が戻って、ほんの少しだが・・・胸の奥につかえていたものが取れたような気持ちになる。


「だってスゴイことじゃない!

 あんた達子供だけで、酔い止め薬に必要な材料を揃えてしまうんだもの!

 オリウェイルなんて魔物を相手にして・・・、普通の大人でも悲鳴を上げて逃げ出すところなのに。

 まぁ・・・、オルフェの取った行動は褒められたものじゃないけど・・・。

 アギトにはホント・・・、これでもすっごく感謝してるんだからね!?

 うちの弟子どもを助けてくれて・・・、ホント感謝してる。

 ・・・ありがとね。」


 ユリアに面と向かって褒められて・・・、今度は恥ずかしさの余り全身がむずかゆくなってきた。

顔を真っ赤にしてそっぽを向くと、アギトは照れながら曖昧に返事をする。

大人からこんなに感謝されたことなんて・・・、もしかしたら一度もなかったのかもしれない。

いつもなら調子に乗るところだったが、ユリアに褒められることがこれ程嬉しいことだとは思ってもいなかったので

反応に困ってしまっている。

照れ隠しで窓の外をずっと眺めるアギトを見て、ユリアは微笑ましそうにしていた。

すると・・・、腑に落ちないオルフェが和やかなムードをぶち壊す。


「先生・・・、僕はオリウェイルを倒す為の魔法を発動させようとしてただけです。

 それの何がいけないんですか。」


 一気に場の雰囲気を壊した一言に、隣に座っているミラが恨めしそうに睨みつける。

しかしその言葉にはユリアではなくアギトがキレ気味で答えた。


「あのなぁ・・・、まだわかんねぇのかよ!?

 いくらお前の魔法がすごいって言ってもだな・・・、あんな間近で呪文の詠唱に入るヤツがいるか!?

 オレやジャックがいなかったら今頃お前は、全身をオリウェイルの爪でズタズタに引き裂かれてるとこ

 だったんだぞ!

 魔術使いなら仲間との連携を考えたり、敵との距離感を測ったりしねぇと戦局が一気に変わるんだからな!?」


 自分で言いながら殆ど全部・・・、アギトの師匠であるオルフェから教わった言葉そのままだったことに

気付くが、それは当然黙っておくことにする。

言っても理解出来ないだろうことは、十分にわかっていることだから・・・。

しかし今目の前にいるオルフェはアギトが言った言葉を、理解しているのかしていないのか・・・。

まだ不満そうな顔で納得出来ない様子だった。


「そんな理屈・・・、当然わかってるに決まっているだろ。

 でもあの時、僕の詠唱のスピードなら・・・あのまま敵に背を向けて逃げる必要もなく魔術で一掃出来たんだ。

 それをお前が余計な口出しや手出しをするから、詠唱が遅れたりして余計に状況が悪くなったんじゃないか。」


「おーまーえーなーっ、助けてもらっといて・・・そゆこと平然と言っちゃうかコラ!?」


「僕は間違ったことは言ってない、邪魔してきたそっちが悪いんだからな。」


「んだとテメー!! お前みたいなインテリメガネなんか助けてやるんじゃなかったぁーっ!!」


「お前の助けなんか最初からいらないって言ってるんだ、もう僕に構わないでくれよ。」


「あ〜っあ〜っ、もうヤメーーっ!! あんた達うっさい! 喧嘩両成敗よ!!」


アギトとオルフェの間髪入れないののしり合いに、ユリアが仲裁に入った。 半ば面倒臭そうに。


「全く・・・、あんた達二人ってどうしてこうも相性が悪いのかしらねぇ!?

 二人とも同じ火属性だから気が合うのかとも思ったけど・・・、逆ね。 

 より一層火力が増すだけだわ・・・。

 とにかく! オルフェ!?

 アギトの言うことも一理あるんだから、あんたはまず・・・人の話をきちんと聞く姿勢を身につけた方がいいわね。

 これから先も魔術メインで行くつもりなら・・・敵との距離感や、接近戦に持ち込まれた時の為の武器を装備する

 ことでも考えておきなさい。

 自分の魔術に過信する余り、自分以外の仲間を駒として見ることは良くないわ。

 同じパーティーメンバーなんだから・・・、お互いの信頼関係を築くことを考えて行かないと後で痛い目を見る

 のは自分自身であることを肝に銘じておくように・・・、いいわね!?」


 自分の師であるユリアの言うことならば聞く耳があるのか、オルフェは不本意そうに見えるが一応大人しく頷いた。

その素直な態度が余計癇に障るのか、アギトは「けっ!」と・・・オルフェとは正反対の方向を向いて無視を決め込む。

そんな二人の態度を見て、はぁ〜〜っと深い溜め息が聞こえて来たのは言うまでもない。



 馬車を走らせている間、せっかく酔い止め薬の材料を揃えたということもあり・・・調合にかかった。

殆どユリアが自分で作ったようなものだが、材料を揃えた子供達にお礼を言って薬を飲む。

それからしばらくして薬が効き始めたのか・・・、だいぶユリアの顔色が良くなったのでジャックと運転を代わる。


 馬車を再び走らせてから、およそ3時間程度で首都に到着した。

あまりに早い到着に驚くアギトだったが、そもそもユリア達と出会った町・・・サイフォスが具体的にレムグランドの

どの位置にあるのかわかっていなかったので、首都との距離感がつかめていなかったのだ。

ジャックに聞くと、サイフォスは首都に一番近い都市であり・・・片道5時間程で到着する距離だという。

以前馬車で首都に向かった時には数日要したので、その感覚が抜け切れていなかった。


 久々の首都に、アギトは少し興奮気味だった。

考えてみれば以前首都に来た時は、修行の代償である地獄の筋肉痛による苦しみで首都到着どころの騒ぎではなかったのだ。

あの時は激痛に耐えることしか頭になかったので、到着した時の喜びや驚きといった思い出はないに等しい。

馬車の窓から顔を出すと、そこには以前見たような華やかさはなかったが・・・それでも異世界にある大都市!という

感じがしてテンションが上がって来る。

道行く人・・・、行商人や旅人・・・それに貴族。

大体着ている服装で、その人物の職業・・・もしくは身分がすぐにわかる。


 馬車はそのまま王城のある所まで走って行くが、・・・なぜかジャックは浮かない表情で暗くなっていた。

さっきまでオルフェ達とダベったりお菓子をつまんだり、ミラの世話を焼いたり・・・色々和ませていたはずなのに。

・・・お腹でも痛くなったのだろうか?

アギトはなんとなしに、そう思っていた。

すると御者台の方からユリアがジャックに声をかける。


「ジャック・・・、あたしはこのまま王城に入るけど・・・あんたはどうする?

 あたしとしては弟子としてこのまま一緒に行きたいところなんだけど・・・、ここはあんたに任せるわ。」


 ユリアらしくない言葉だった。

アギトは何となく、ユリアという人物は回りが何て言おうと自分の我を通す人物だと思っていた。

それを・・・、まるでジャックだけは王城に連れて行かず外で待たせる・・・と言ってるように聞こえる言葉だったのだ。

わけがわからないまま・・・、アギトは客室の中にいる3人に目配せをする。

誰一人として、一緒に行こう・・・とは言い出さない。

やがてジャックが口を開く。


「・・・オレ、外で待ってるよ。」


「え・・・、なんで!? ジャックも一緒に行こうぜ!!」


 誰も言わなかったので、アギトがたまらず本音を口にした。

しかしジャックは苦笑しながら・・・、無理に笑顔を作るようにアギトに微笑みかける。


「いや、いいんだ。

 先生に迷惑はかけられないし・・・、面倒事を起こすわけにはいかないからな。」


 それだけ言うと・・・、馬車が止まって客室からジャックが降りて行った。

自分の手荷物だけ肩に引っ掛けると、手を振ってアギト達を見送る。

ユリアも申し訳なさそうな顔になりながら・・・、そのまま馬車を走らせた。

腑に落ちないアギトは、ジャックの一番の親友であろうオルフェを問い詰める。


「なぁ!! なんで誰も一緒に行こうって言わねぇんだよっ!?

 あれじゃジャックが可哀想じゃんか、・・・なんか仲間はずれみたいで気分ワリーぞっ!!」

  

感じたまま・・・、そのままの感情で怒りをぶつけるアギトにオルフェが不快な表情で言葉を遮った。


「事情も何も知らないヤツが、偉そうに言うなよ。

 出来ることなら僕だってジャックを置いてけぼりになんてしたくないさ、・・・仕方ないことなんだよ。」


「仕方ないってどういう意味だよっ!?

 まさかジャックがアビス人だからとか言うんじゃねぇだろうなっ!?」


「・・・残念だけど、その通りよ。」


 ユリアが答えた、その声は・・・真実を物語るようなハッキリとした、断言したような口調だった。

アギトは眉根を寄せて、言葉の続きを待つ。

納得出来ない・・・、納得いかない・・・、そんな気持ちで・・・。

ユリアは前を見据えながら続ける。


「ここは・・・、君が思ってるような生易しい場所じゃないのよ。

 特に王都に住む貴族なんかは、アビス人のことをただの奴隷としてしか見ていないの。

 首都の裏通りやメインストリートに出れば、それが大袈裟じゃないことは・・・イヤでも理解出来ると思うわ。

 ここでは今でもアビス人の奴隷制度が根強く残っていて、戦争の捕虜として連れて来られたアビス人や・・・

 その子孫が貴族に奴隷として飼われている・・・。

 丁稚奉公でっちぼうこうとしてだけではなく、肉体を痛めつけるだけの暴力のはけ口にされたり・・・。

 人身売買は当然のことで・・・見世物として酷い仕打ちを受けたり、とにかく酷い扱いを受けているわ。

 だからアビス人の人身売買を行なっているヤツらから身を隠す為に・・・、ジャックには別行動を取って

 もらうことにしたの。

 まぁ・・・、あたしの用事があるのは王城だから・・・ジャックがアビス人だとわかれば門前払いされて

 しまうんだけどね・・・。

 一応ジャックにはグリム家の使用人という身分証明と、あたしが持たせた身元証明があるから・・・。

 法外な連中にさえ捕まらなければ、首都の玄関周辺なら・・・多少は安全ってことになるはずよ。」


 そういえば・・・、ジャックは最初『奴隷』としてオルフェの元へ来たと・・・言っていた気がした。

レムグランドの敵国、アビスグランドの人間だから・・・。

だから非人間的な扱いを受けると・・・?


「・・・胸クソわりぃ・・・っ!」


 ぼそりと、呟いた。

両手のこぶしをぎゅっと握って・・・、胸の奥から込み上がって来る怒りを押し殺すのに精一杯になっていた時。

アギトの隣で、オルフェが小さく・・・、本当に聞こえるか聞こえないか・・・それ位小さな声で・・・。

「・・・僕だって。」 と、聞こえた気がした。





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