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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~雷の精霊ヴォルト編~
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第148話 「試練開始!?」

 雷の精霊ヴォルトの祭壇を守る護人もりびととしての使命を持つカトルの案内により、アギト達は遂にヴォルトの祭壇へと

辿り着いた。

教会から続く地下道は複雑な迷路になっているが、カトルの正確な案内のおかげでトラップにかかることも魔物に遭遇することもなく最短ルートで通ってこれた。

時間にすればおよそ2時間程で到着したので、楽勝に感じたアギトは余裕の笑みを浮かべている。


「なんか今回の精霊って、あんま試練的なものがない感じだよな!?

 本当だったらイフリートの時みたいに、ぜってーこの迷路で散々迷わせてさ・・・ようやく祭壇に到着しましたー!って感じだと

 思うんだけど、カトルのおかげでそんな風でもねぇし。

 案外契約もすんなり交わしてくれるんじゃね?」


両手を頭の後ろに組みながら、調子に乗り過ぎたアギトは口笛まで吹き出す始末だった。

それを怪訝な顔で見つめるザナハが叱りつける。


「ちょっと!

 崇高な精霊の祭壇の前で、失礼な態度を取らないでちょうだいよね!

 もしこれをヴォルトに見られたりして機嫌を損ねてしまったらどうすんのよ!」


「だーいじょーぶだって!

 精霊ってアレだろ?祭壇の部屋へ入ってから姿を現すもんじゃねぇの?

 だったら今は見えてねぇだろ。」


『いやマスターよ、精霊は人間のような視覚を持ち合わせていないのだ。

 祭壇に入ったから見えるとか、そういった具合で捉えていると痛い目を見ることになるぞ!?

 ここは神子殿の言う通り契約を交わすまでは、自重するべきであろう。』


頭の中で聞こえて来るイフリートの声に、アギトは普通に返事をする。

アギトとイフリートのマナがまだ完全に融合出来ていない為、契約を交わした後も未だにアギトの精神世界面アストラル・サイドにイフリートが住み着いている。

そのことはメンバー全員が周知していることなので敢えてつっこみはしなかったが、カトルだけはアギトが突然大きな独り言を呟きだしているので、心配そうな・・・哀れそうな目で見つめていた。


「なんだよイフリート、お前ヴォルトのこと何か知ってんのか!?」


目の前に姿を現しているわけではないので、アギトは適当な場所に目を泳がせながら質問する。


『いや、我はヴォルトとの面識はあまりないのだが・・・。

 精霊というのは皆、己を至高の存在と認識している節がある・・・我とてそうだ。

 我々に遠く及ばぬ人間に軽く見られたとあっては、それは精霊にとって己の自尊心を傷付けるに値する侮辱・・・!

 ヘタに刺激しない方が身の為だと忠告したまでだ。』


人間如き下等生物が精霊に逆らうな・・・、そう捉えたアギトは面白くないと言わんばかりの顔で口をへの字に曲げた。

アギトはこう考えていた。

フィアナに襲われて傷付けられている自分の護人を守る為に、ヴォルトはその力を使って救った・・・。

人間の為に救いを差し伸べるような広い懐を持っているのならば、きっと過酷で凄惨せいさんな試練を与えたりはしないだろうと・・・そういった甘い考えで軽く口に出したつもりだったのだ。

しかし先程のイフリートの口ぶりでは、精霊の殆どが人間を下等扱いしているように感じられたので機嫌を損ねたのである。


『マ、マスター・・・!?

 我はマスターのことを下等生物だと認識してはおらんぞ!?

 お主はこの我が認めた存在・・・、しかも双つ星の戦士なのだ!

 他の精霊がマスターを侮辱しようものなら、この我が全力を持って灰塵かいじんと化すから安心するがいい!』


どうやらアギトの思考を読み取って慌ててフォローしているつもりらしいが・・・、かえってアギトの神経を逆なでする結果になってしまっている。


「うっせー、ちっと黙ってろ!」


『が〜〜ん!』


わざとらしいリアクションの効果音を口に出してショックを受けていることをアピールするイフリートに、アギトは余計に苛立ちが募った。

何か重要な会話でもしているのかとアギトの独り言を黙って聞いていたが、どうやらただの世間話と捉えたオルフェは完全にアギトを無視して精霊の祭壇がある扉の開け方をカトルに聞いている。


「扉は普通に開きます。

 そもそもこの地下道の複雑な迷路が試練のひとつになっているので、ただの侵入者では辿り着けないようになっているんです。

 ここまで辿り着ける者は護人に案内された神子一行か、自力で辿り着くことが出来た真の戦士か・・・どちらかになりますから。

 それじゃ、開けますね?」


カトルが扉に手を触れると、不思議と黒くくすんでいた扉が手の平を当てた部分を中心に外側へ向けて光が点滅していく。

まるで護人の手の平が扉を起動させる為のスイッチのように、扉全体が点滅するとゴゴゴッと扉が開いて行った。

扉が開く音でようやくイフリートとの口喧嘩を中断して注目するアギト、「おお〜〜っ!」と声を上げながら中を覗こうとする。


すると・・・!


一瞬目が眩むほどのフラッシュが・・・開いた扉の奥から光ったように、アギトは驚いて思わず両目を閉じた。

その光は相当強かったのか、両目を閉じてもまだ外が眩しく照らされているようにまぶたの向こうが明るく感じられる。

両手で瞳を覆いながらゆっくりと目を開ける、仮にものすごい光に照らされている状態ならば覆った両手で保護しているから

視力がやられることはないだろうと思ったのだ。

両目を開けてみても、どうやら先程の強い光は一瞬だけだったみたいでゆっくりと両手を離して・・・辺りを見回す。


「・・・は?」


どういうわけか・・・、目の前にはいつの間にか草原が広がっていた。

綺麗な花が咲いている真上をモンシロチョウが飛んでいて、空を見上げれば一面青空で・・・鳥が飛んでいる。

きょろきょろと仲間を探すが、回りには誰もおらず・・・アギト一人きりだった。

両手を組んで、首を傾げる。


「もしかして・・・、ヴォルトの試練が始まってるとか!?」


そう思いついた途端、アギトは唐突に慌てだす。


「ちょっと待てーーいっ!!

 今回ヴォルトと契約を交わすのはザナハの方だぞ、オレはノリでついて来ただけだっつの!!

 なんでオレまで試練受けさせられてんだよ、聞いてねぇし!!

 おーーいっ、ヴォルト聞こえっかーーっ!!?

 オレは確かに光の戦士だが、今回お前と契約交わすのはオレじゃねぇぞーーっ!?

 だから早くここから出してくんねぇかなぁー!?

 お願いしまぁーーっす!!」


イフリートの言葉を思い出し、後半は態度を控えてみた。

しかし・・・、一向に返事がないだけではなく・・・回りの景色も変わることはない。


「・・・シカトかよ!?

 今回もやりづれぇ性格の持ち主か!?」


小声で悪態をついてみるが、そのことで自分に何か危害が加わるような気配は見受けられなかった。

広い草原の中・・・一人取り残されて途方に暮れるアギトは、思わずイフリートに助けを求める。


「おいイフリート〜、お前からも言ってやれって。

 試練はザナハだけでいいからってさ・・・、つーかお前さっき何もつっこまなかったよな!?どうしたんだよ。

 いつもだったら、マスター!やりづらい性格とは我のことではあるまいな!?・・・とか言ってそうなのに。」


イフリートのものまねをしながら大きな独り言を呟くが、それでもイフリートからの返事がない。

自分の精霊からもシカトされたと思ったアギトは、ぴきっと血管が浮き出る。


「おいイフリート?

 お前まで何シカトぶっこいてんだよ・・・、今は喋ってもいいんだよ! 

 いい加減空気読めって言ってんだろうが!

 なぁ!?おいイフリート、聞いてんのかっ!?返事しろっつってんだよ!!おーーーいっ!?」


シ〜〜〜〜〜〜ン。


アギトは目をしょぼしょぼさせながら、口をつぐませる。

遠くから小鳥のさえずりが聞こえてきて、更に孤独感が襲ってくるような感覚になってくる。


「もしもし?イフリートさん?

 もしかして試練中はイフリートさんもご使用になることが出来ないということなんでしょうか?

 もすぃもすぃ〜〜っ!?」


だがしかし・・・、沈黙は続く。

ぽつんっと置き去りにされたような思いになって、アギトは無性に寂しい気持ちになってきた。

このままここで独り言を呟いていても何も起こらないとようやく理解したアギトは、試練の主旨がどんなものなのか調べる必要があると考える。

というより、とにかくこの場から離れる理由を作らなければ更なる孤独感に襲われそうな気がしてならなかったのだ。

右を見て、左を見て、360度全て自然の中・・・それだけはハッキリとした。


「・・・で?

 主旨や目的を先に教えておかないでどうするよ。

 普通、伝説の剣を取って来い!・・・とか、この町の事件を解決してみろ!・・・とか、何かあんだろ。

 いきなりこんな何もないところに放り出して、何をしろっていうんだよ・・・無理があるだろうが。

 つーかヴォルト、説明省き過ぎ!つか対面も会話もしてないのにいきなり試練だなんて失礼過ぎ!」


ぶちぶちと文句を言いながら、アギトはなんとなく目的がないまま歩き出した。

とりあえずこのままどこかに移動していれば、それとなく試練に必要なヒントが出て来るだろうと運任せに行動し始めたのだ。


「だってさ〜、何したらいいのかわかんねぇんだったら行き先もわかんねぇままだし、しゃあねぇじゃん!」


誰もつっこんでくれないので、自分で言い訳がましく理由を述べる。

とりあえず回りの景色や物音に注意を払いながら、てくてくと歩き続けた。

魔物は出そうにない、・・・それどころか人間も出て来る気配がなくて不安になってくる。


「まさか人間が絶滅した世界で、どうやって生き残るか・・・っていう試練じゃねぇだろうな!?」


回りに誰もいないと、独り言が増えて来る。

不安をかき消す為にアギトは独り言を言っている自覚すら無くなって来た頃、遠くから馬車の音のようなものが聞こえて来た。

馬車はかなり乗り続けた経験があるので間違いない。


「ラッキー!人間ちゃんといるじゃんか!」


急にぱぁ〜っと表情が明るくなるが、一瞬にして暗い顔に戻る。

馬車の音・・・、ものすごく急いで走らせているように聞こえて来る。

まるで何かを追いかけているのか、はたまた何かから逃げているのか・・・?

ともかく、こちらに向かって走って来る馬車の音は普通のスピードで走っているようには聞こえなかった。

この馬車は何かがおかしい・・・、そう感じ取ったアギトはどこかに隠れて様子を窺うようにしようと隠れる場所を探すが、見晴らしの良い草原を歩いていたので回りには何もない状態だった。

つまり、向こうからはアギトが丸見えの状態である。


「ど・・・ど・・・、どうしよう!?

 もし盗賊とか、盗賊に襲われている最中の馬車とか、デカイ魔物に襲われているとか・・・そんなヤバめな感じだったら!?

 このままじゃオレまで見つかっちまう!!」


おろおろしている間に、馬車は林の中から突然飛び出すように向かってきた!

けたたましい程の蹄の音が思い切りアギトの方めがけて走って来る、アギトは突然飛び出してきた馬車に驚いて馬車の軌道を確認しようとする。

だが、馬車の手綱を持って操作している御者はアギトの姿を確認するとものすごい勢いで馬車を止めてしまう。

手綱を思い切り引いて、馬がいななきながら前足を上げて・・・思わず馬に蹴り飛ばされるのかと思った。

大きな黒馬の勢いのせいでアギトは地面に尻もちをついている。


「どうどう!!」


声は女性のものだった。

馬を鎮めさせると、馬車を操っていた女性が御者台から降りて馬をさすって落ち着かせる。

美しいピンク色の長い髪、身長はおそらく170はありそうな・・・女性にしては長身だった。

白くも黒くもない普通の肌色をしていて、よく見れば瞳の色は水色・・・淡い色の口紅をつけている。

落ち着いた物腰で、尻もちをついたアギトの方へ近付いてきた。

放心状態だったアギトは、女性が近付いてきてもすぐに反応出来ずにいる。

恥ずかしながら・・・、どうやら腰が抜けてしまっているようだった。

その女性は柔らかく微笑みながらアギトに手を差し伸べて来た。


「驚かせちゃったみたいね、ごめんごめん!

 立てる?僕?」


優しい笑顔で子供扱いしてきた女性に、アギトはカチンときた。


「オレはガキじゃない!」


見ず知らずの、腰を抜かした自分に手を差し伸べて来た女性に向かって失礼なことを言っている・・・。

それは十分わかっているのだが、どうも子供扱いされるのは好きじゃなかった。

ほんの少しだけ悪いと思ったのか・・・、口では悪態をついたものの・・・体は素直に女性の手を取って立ち上がる。


「その元気があるなら、大丈夫ね!」


女性はアギトの態度に全く怒る気配がなく、むしろ大人な対応をされて・・・余計自分がガキみたいだったと自覚させられる。

アギトに怪我がないということがわかると女性が再び馬車に戻ろうとした時だった。


どどぉーーーーーーん!


先程女性の馬車が出て来た林から、ものすごく巨大な魔物が姿を現した!

全身黒い毛に覆われていて、頭には大きな角、巨大な牛のような体格で木々を体当たりでなぎ倒して突っ込んできたのだ。

アギトは一瞬にして理解する。

この女性が慌てて馬車を走らせていたのは、この強大な魔物から逃げていたのだと。

アギトは瞬時に剣の柄に手を走らせるが・・・、正直なところ情けないことにアギトは怖気づいていた。

確かに以前ドラゴンと一戦交えたことがあったが・・・、今回はあの時とは勝手が違いすぎる。

相手は獰猛な魔物、向こうが手加減などするはずがなければ・・・言葉さえ通じない。

そんな巨大な魔物と一人で戦ったことのないアギトは、敵を前に勝つ自信を喪失してしまっていたのだ。

サポートしてくれる仲間がいない、回復魔法を使ってくれる味方もいない、・・・そしてイフリートもいない。

剣の柄を握ったまま、鞘から引き抜くことが出来ず後退していると・・・アギトの横から女性が前に進み出ていた。


「ちょ・・・っ、危な・・・っ!」


そう叫ぼうとした瞬間だった。

ピンク色をした長髪の女性は、どこに携帯していたのか・・・片手を薙ぐと手の平に細長い杖が握られていた。

一瞬、光の収束と共に杖が現れたように見えて、アギトはこの現象をどこかで何度も見たような記憶があった。


「天地焦がす激しきいかづち、我が名に応え敵を討て!

 サンダーーヴォルト!!」


声と共に・・・魔物の頭上に雷雲が突如として現れると、魔物めがけて落雷し何百万ボルトという電流が流れて焼き尽くす!

唸り声と共に巨大な魔物は、あっけなく・・・どずんと地面を揺らして倒れた。

いとも簡単に・・・、あっさりと巨大な魔物を倒してしまった女性の背中を見つめながら・・・アギトは一瞬何が起きたのか把握出来ずにいた。


「やれやれ・・・、捕獲失敗っと。」


明るくそう言うと、女性は頭をぽりぽりと掻きながら振り向き・・・アギトに笑顔を見せる。

呆然とするアギト・・・、もはや何と言ったらいいのか、どんなリアクションを取ったらいいのかわからない。


「さて・・・、と。」


そう笑顔のままアギトの目の前に顔を近付けると、とても良い香りがして・・・心臓がドキドキしてくる。


「君、さっき諦めたでしょ?」


「・・・へ?」


何を言ってるのかわからないアギトは、思わず情けない声を出していた。

人差し指を立てながら横に振り、その女性は「チッチッチッ!」と舌打ちを三回。


「実力はあるのに、相手の姿に圧倒されて攻撃を躊躇った。

 そんなこっちゃ相手にナメられるか、先制攻撃のチャンスを失うか、ヘタすりゃ一瞬で死んでたわよ?」


アギトは目をパチクリとさせて、女性の言葉をただ・・・聞いていた。


「ま、どんだけの実力があるのかまではわからないけど・・・。

 あそこで君が魔物をぶちのめしてたら、それはそれでこっちが困ることになっちゃうんだけどねー。

 ともかく・・・、アレは焼いちゃったからもう解剖実験には使えないし・・・また最初からやり直しだわ。

 そんじゃ、どこの誰かわかんない君。

 縁があったらまたどこかで会いましょ!それじゃあね、戦士君!」


思考は戸惑ったままだったが、女性の最後の一言でアギトはハッとする。


「ちょっと待って!今・・・っ!」


今、確かに自分のことを「戦士」と言った。

この女性は、アギトが戦士であることを知っている!

もしかしたらこの女性が、ヴォルトの試練をクリアする為の鍵となる人物なのかもしれないとアギトは推察したのだ。

呼び止められて振り返る・・・、きょとんとした顔は年齢よりも幼く感じられた。

しかし、呼び止めたもののアギトはこの後の台詞を考えていなかった。

まさかありのままを話すわけにはいかないだろう、ヘタしたら頭のおかしい子供だと思われるかもしれない。

ここはさりげなく迷子のフリをした方が無難かもしれないと考えた。

状況がわからない以上、今はしらばっくれておいて・・・少し様子を窺った方がいいかもしれないと思ったのだ。


「あの・・・、実はオレ・・・道に迷って。

 悪いけど近くの村か町まででいいからさ、一緒に馬車に乗っけてもらえないかなぁ〜って。」


姿勢を正してアギトは嘘をついた。

アギトの嘘に気付いたのか、それとも気付いていないのか・・・よくわからないが女性は笑顔のまま承諾してくれた。


「そうよねー、この辺何もないから・・・ここで一体何をしてんのかなって思ってたところなのよ。

 後ろの客車に乗って!

 あ・・・、客車には妹が乗ってるから適当に挨拶しといてね。」


そう言うと、女性は適当な感じでアギトを馬車に案内する。

挨拶・・・という言葉を聞いて、アギトは一応自己紹介した方がいいかもしれないと思って馬車に乗り込む前に名乗った。


「あの・・・、オレ・・・アギトっていうんだ、よろしく。」


御者台に座りながら、女性はアギトの名前を聞くとにっこり微笑んで自分も名乗った。


「そう、よろしく!

 あたしはジュノユリアロス・メガロフレデリカっていうの・・・、恐ろしく長い名前っしょ?

 ユリアでいいわよ、アギト!」


自己紹介を終えて、アギトはふと・・・どこかで聞いたような名前だと思ったが、結局どこで聞いたのか思い出せなかった。

しかし、妹が乗っていると言われた客車のドアを開けて挨拶を交わした時・・・、その違和感はすぐに消え失せる。

ドアを開けると確かに中には、かなり年齢が離れているが女の子が一人座っていた。

金髪のロングヘア、白い肌に紫色の瞳、きりっとした瞳はまつ毛が長く・・・どこか気が強い印象を与えている。

赤い上品なドレスに身を包んだ女の子は、馬車の外でのやり取りを聞いていたのか・・・気が強そうな外見とは裏腹に、あっさりとした態度で話しかけて来た。


「話は聞こえてたわよ、・・・隣に座って!

 あたしはマリィミラベル・メガロフレデリカ。

 みんなはあたしのことをミラって呼ぶわ、だからそのままあんたもミラって呼んでいいわよ。」


一瞬にして、アギトの顔のデッサンは一流の分かりづらい芸術作品のように崩れ去っていた。


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