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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~雷の精霊ヴォルト編~
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第138話 「双つ星の伝説」

 オルフェの言葉に一同が騒然としていた。

ディアヴォロの眷族・・・、人間の負の感情に取り入って悪事を働く邪悪な存在。

黒いマントを見たザナハがあることを思い出す。


「そう・・・いえば、前にリュートがこんなことを言ってなかった!?

 火山地帯に向かってる途中に立ち寄った村で襲われた時、村人達をけしかけたマント男の話・・・。

 確かあの時、ディアヴォロの眷族かもしれないって話をしてたじゃない!!

 もしかして・・・、その時と同じ人物だったら・・・。」


「そいつがまだこの辺をうろついてるってことかよ!?

 冗談じゃねぇ、あいつめっちゃくちゃ気味が悪くてオレは二度と会いたくねぇし!!」


まるでストーカーされているような感じがして、アギトは全身に寒気を感じた。

オルフェは、ジッとマントを手に何かを調べているようだったが・・・突然マントが勢いよく炎を吹き上げて塵と化した。

いきなりマントが燃えて驚いたアギトは、ドキドキと心臓が激しくなるのを片手で押さえながら固まっている。


「お・・・おどかすなって!!

 マントが急に襲ってきたのかと思ったじゃねぇか・・・っ!!」


アギトの驚きっぷりに、ザナハはいじわるそうな笑みを浮かべる。


「なによ、あの程度でビビッちゃってさ・・・情けない。」


馬鹿にされたと思ったアギトは握り拳を突き付けながら大声で怒鳴る。


「んだとぉーっ!?

 お前はあの変態マント男に会ってないからそんなことが言えるんだよ!!」


ぎゃあぎゃあと口喧嘩を始めるアギトとザナハを無視しながら、オルフェ達は話を進めていた。

塵となったマントの次は槍・・・、オルフェはこの2つの証拠品を完全に消し去ってしまった。


「これらにはディアヴォロによるマーキングが施されている可能性が高い・・・。

 わざわざマントと槍を残していった意味を考えると、それが妥当ですが。

 もしこれらの証拠品を後生大事に持ち歩いていたら・・・、特に・・・このマントに付着しているマナで後を尾けられるかも

 しれませんからね。

 ここは処分しておいた方がいいでしょう。」


「そういうことは、先に言ってから処分しような〜オルフェ?」


苦笑しながらジャックがつっこむ、オルフェは「そうですか?」と全く気にも留めていない態度でさらりと返した。

ミラは難しい表情になりながら考え込んでいる様子だ。


「ディアヴォロによる妨害が始まっている・・・ということなのでしょうか?

 まさかアビスがディアヴォロを操っていると?」


「それはないでしょう、あれはとても人間の手で操れるような代物ではありませんからね。

 この戦争に乗じて・・・、力を増しているのかもしれません。

 我々ものんびりとしているわけにはいかない・・・というわけですよ。」


そう言いながらオルフェは、アギト達の方を一瞥した。

喧々囂々(けんけんごうごう)と口喧嘩を繰り広げるアギトとザナハを見て、大きく溜め息をつくオルフェ。


「・・・一致団結はかなり難しそうですが、そうも言ってられませんからね。」


この件に関しては後で考えることにして、早速馬車で移動を開始するようにミラが全員を促した。

馬車に乗り込む際、アギトはずっと心の奥に引っ掛かっていたことをオルフェに話す。

どうせ話してくれないのはわかっていたが、何も言わないのは気持ち悪いし・・・報告とか相談も含めて一応言った方がいいと

判断したのだ。


「なぁオルフェ、あの変態がオレに向かって言ったことなんだけどさ・・・。」


「会話したんですか?」


少し驚いた顔になったかと思ったら、すぐにいつものひょうひょうとした顔に戻っていた。


「うん・・・、会話っつーか向こうが一方的にわけわかんねぇことを口走っただけなんだけど。

 なんかさ・・・、オレのことを『双つ星の片割れ』だとか・・・何とかのオリジナルだとか言ってたんだ。

 これってどういうことなんだ?」


アギトはイフリートに言われたことを話さなかった。

イフリートからは『まだ話す時じゃない』・・・とか色々言われていたが、もしそれまでオルフェに話したら・・・その言葉に

便乗してオルフェも話してくれなくなるかもしれないと思ったからだ。

オルフェは全く微動だにせず、普通に馬車に乗り込むとソファに腰掛けて足を組んだ。

アギトも話を聞くまでは逃さない・・・とでも言うように、オルフェに続いて客車に乗り込むと真向かいに座る。

先頭車両にザナハとミラとジャックが乗り込んで、後方車両にはアギトとオルフェとドルチェが乗り込んだ。

全員乗り込んだのを確認すると御者がお互いに合図をして、馬車は歩き始める。

走り出してからしばらくオルフェからの返答を待ったが、落ち着きのないアギトはその沈黙の時間すらものすごく長く感じた。


「なぁ・・・、それもまだオレには話せないって言うのか!?

 いつになったら真実を全部話してくれんだよ、オレ達ってそんなに頼りないのかよ!」


イライラしたアギトがキレ気味で言葉を吐き捨てる。

両腕を組んだオルフェは、窓に視線をやりながら小さく溜め息をつくと・・・ようやく重たい口を開いた。


「双つ星・・・、この世界に伝わる伝説のことですよ。

 スピカとは青色巨星せいしょくきょせいの1つで、春の夜に青白く輝く一等星とされているのですが・・・君達の世界とは

 扱いが多少異なると思います。

 私達の世界では・・・双つ星とは君達のように、異世界から流星の如く現れる戦士のことを指すんです。

 勿論これまでにも何人か戦士が現れましたが、その殆どはレムグランド、アビスグランド、そして龍神族の里から誕生しているんですよ。

 必ずしも戦士の資格を持つ者が、異世界からやって来るとは限りませんでした。

 現にヴァルバロッサの実の息子であるジークも、この世界で誕生した闇の戦士の資格を有する者でしたから。

 君達二人はまさに伝説にあった通りの、双つ星の流星だったんです。」


アギトは驚いた、双つ星についての説明を聞いたからではなく・・・オルフェが最初から包み隠さず話したことにだ。

口をぽかんと開けたまま話を聞き入って、それからごくんっとツバを飲み込むと・・・話の続きを待った。


「双つ星は最後の希望・・・。

 聖なるスピカの側で輝く添え星と共に、この世界に降り立つ者・・・それこそが双つ星の戦士だという話しです。

 今までの歴史と、これまでの傾向から考えて・・・光と闇の戦士と神子。

 これら4人が揃う時代なんて、私が知る限り今までに一度としてありませんでした。

 一度に光と闇の戦士が揃うことは、双つ星が現れない限り有り得ないことなんですよ。

 そうですね・・・過去に光と闇の戦士が揃ったのは、初代の時以来・・・ずっとなかったと思います。

 それ故・・・、最後の希望と称されるようになったのです。」


「それが・・・オレと、リュートのことだって言うんだな?」


「君達二人はよく似ている、いえ・・・お互いの欠点を上手い具合に補う能力を持っています。

 アギトとリュート、君達二人は・・・二人でひとつの存在と言っても過言ではないでしょう。

 ですから親友のことはもっと大切になさい、君はリュートがいなければ足かせ同然なのですからね。」


「ぐっ・・・、結局言いたい事はそれかよっ!?

 オルフェに言われなくてもなぁ、オレ達はがっちりとした絆で結ばれてんだから心配いらねぇっつーのっ!!」


ふんっと鼻を鳴らして、アギトはそっぽを向いてしまう。

ははは・・・っと乾いた嘘笑いをしながら、オルフェはお茶の用意をしだした。


(二人でひとつの存在とは・・・、よく言ったものですね。

 双つ星の運命はひどく凄惨せいさんなモノ、君達二人は・・・いずれ私のことを殺したい程に憎むでしょうね。)


自嘲気味に微笑みながらお茶をカップに注いだ時、ドルチェはオルフェの手に・・・その小さな手をそっと添えた。

それを感じたオルフェは・・・、ほっと安心したような穏やかな表情に戻るとドルチェに微笑み返す。



馬車は進む・・・。

長い馬車の旅にようやく慣れてきたのか、アギトは魔物が出現した時には素早く駆け下りて参戦したり・・・食事休憩を取る際には

積極的に川の水を汲みに行ったりと、最初の頃に比べたらかなり使えるようになっていた。


「いやぁ〜、リュートがいない分よく働くようになりましたねぇ!

 やはり母親がいない方が、子供は苦労を知って急成長を遂げるものなんでしょうか!?」


オルフェは片手をかざして能天気にイヤミを言った。

ジャックとドルチェは焚き木を拾いに行き、ミラとザナハで食事の準備、御者の二人が料理をしている。

何もしていないのはオルフェだけだった。


「お前も働けよ・・・。」


重たい水瓶を持ってきたアギトが、白い目でオルフェに文句を言う。

しかしシートの上にどっしりと腰を下ろした様子を見ると、動く気はさらさらないという態度が窺えた。


「アギト・・・、年寄りはもっといたわりなさい。

 ごほっごほっ!!・・・あ、持病のしゃくが・・・っ!」


わざとらしい咳をしながら腰をさする仮病の演技に、アギトは更にムカつくだけだと察してそれ以上つっこまなかった。

てきぱきと食事の準備が進む中、オルフェは辺りの様子を窺いながらネリウス地方がもう目と鼻の先だと推測する。

地図を広げて現在地と、ヴォルトがいるとされている町まではあと一日ほど馬車を走らせれば到着すると計算した。


「大佐、どうぞ。」


ミラがそう言ってサンドイッチをオルフェに手渡す、地図に目をやったまま片手でサンドイッチを掴むとそのまま口の方へ持っていこうとした瞬間だった。


「・・・・・・中尉、これは一体何ですか?」


「サンドイッチです。」


オルフェが掴んでいるもの、それは食パンの間にレタスやトマトが挟まれているのはわかるとして・・・明らかに何かの足が

はみ出ていた。

何かの足を指でつまんで小さく揺らすようにくねくねさせると、オルフェはひきつった表情でもう一度尋ねる。


「中尉、これは何の足ですか?」


「・・・ヒキガエルですね。」


淡々と返すミラに、オルフェは頭を押さえて・・・目まいがしたかのようによろよろと崩れ落ちた。

そしてその手の隙間からジャック達をギロリと睨みつける。

そそくさと知らんぷりを決め込んで、ジャック達はあさっての方向を向きながらサンドイッチをむさぼっていた。


「わかりました・・・、自分の分は自分で作りますから・・・!」


そう言ってオルフェは惨めな思いを噛みしめながら、サンドヒキガエルイッチをバスケットの中に戻すと別の材料で新しいサンドイッチを自分で作り出した。

回りから小さく笑い声が聞こえる、オルフェはにっこりと微笑みながら・・・頭の中では復讐の算段を練っていた。



食事休憩も終わり、馬車は再び走り出した。

目的地には明日到着すると全員に告げて、ようやくこの長い馬車の旅が終わる・・・と安堵の表情が現れる。

だが出現する魔物は、今までの魔物と比べたら強力なものになっていた。

それは全員がわかっていたことだ、魔物の種類も生物系だったものから・・・よくわからないもの系になっている。

低空をふよふよと浮いているアンモナイトのような形をしたフォッシル。

巨大な食虫植物のような物体で、頭に4本の触手を生やしたスティンローパー。

ヘドロの塊のような物体に4本の足を生やしたような・・・どこが前か後ろかわからないヘドロータス。

そのどれもがHPが高く、なかなか倒すのに苦労した。

中には魔法を使ってくる知能の高い魔物もいて、魔法防御力が基本的に低いアギトは苦戦を強いられる。

目的地までもうすぐだとは言っても、魔物の出現率は高くなり、更に強いとくれば・・・それまでの道のりがとても長く感じられた。


雷の精霊ヴォルトがいる・・・とされている洞窟の近く、そこにはラムエダという町がある。

アギト達はひとまずそこを冒険の拠点に決めた。

この地域は商業が盛んだということもあって、宿屋の数もそこそこあった。

人数が多い・・・ということもあったので、とりあえずこの町で一番大きな宿に部屋を取ることにした一行。

ミラと御者二人で宿をとっている間・・・、アギト達は冒険の拠点となるこの町を把握する為に見て回ることにした。


「ヴォルトがいる場所は見当がついていますから、あまり不用意に精霊に関する情報を聞いたりしないように。

 中には契約の旅をする神子を快く思っていない者がいるはずですから、余計なトラブルは避けたいですしね。」


そう言うオルフェに、冷たい視線を送るアギトが小さくつっこむ。


「だったらその軍服をまず何とかした方がいいんじゃねぇのか!?

 それ着てるだけで思い切り国からの回し者じゃんか・・・、巻き込まれるのはオレ達の方だっつの。」


「そうですね・・・、それは困ります。

 では宿屋で着替えるまでの間は、この格好は軍人のコスプレだということにしておきますよ。」


「そんなあからさまな嘘に誰が引っ掛かるんだっつーの!!」


・・・と叫んだアギトの視線に映った店先には、軍服、バニーガール、白衣、その他諸々のコスプレショップがたくさんあった。

両手を後ろに組みながら先頭を歩きだすと、オルフェは嘲笑を浮かべながらついて来るように促している。


「・・・ムカつく!」


アギトはツバを吐くフリをしながら、イヤイヤついて行った。


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