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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~雷の精霊ヴォルト編~
139/302

第137話 「謎のマント男、現る」

 グレイズ火山・・・、イフリートと契約を交わしてからアギトはオルフェの許可を得て何度か足を運んでいた。

その為あまり久々という印象はない。

炎の精霊イフリートとのマナ融合をするには、同じ属性を持つ土地でマナコントロールをした方が効率が良いというのを聞いたので

アギトは2〜3度訪れていたのだ。

一人ではさすがに不安だったということもあり、グレイズ火山へ行く時には必ず誰かに付き添ってもらっていた。

しかし結局は完全な融合を果たすことが出来なかったので、アギトにとってニガい思い出しかない地域となってしまった。

今回は雷の精霊ヴォルトとの契約を交わす為に、ヴォルトがいると言われているネリウス地方へと向かうことになっている。

そこへ行くにはまず洋館の地下室にあるトランスポーターから、新たに魔法陣を描き加えた火山地帯にあるトランスポーターへと

移動しなければいけない。

そしてそこから先は、ネリウス地方まで地道に馬車を走らせるしかないのだ。


グレイズ火山に到着した時、町の復興作業が着々と進んでおり住民達が火山周辺に戻って来ていた。

軍人に対する視線は未だ冷たいものの、誠意ある行動に感謝してくれている者も少なくない。

家を建て直す手伝いをしているのは、レムグランド首都にいるアシュレイが派遣した労働者達だった。

首都からここまで移動するにもかなりの日数と労力があったというのに、彼等は到着早々懸命に働いてくれていた。

それはアギト達の目から見ても明らかである、イフリートが暴走してここら一帯がひどい有様だった頃にはとても人間が住めるような環境ではなかったのに、今ではそれなりに・・・「村」と呼べる程までになっていたからだ。

立ち寄ったついでにオルフェとミラが現地の兵士に状況を聞く為、一時パーティーから外れてしまう。

残されたアギト達も復興作業がどれだけ進んでいるのか様子を窺った。

派遣労働者達は主に住民達の指示の元、復興作業を進めている。

そのあちこちには軍服を着た兵士達が何人か目に入った、彼等は村の周辺に魔物が現れた時にそれを撃退する為・・・周囲の警戒を行っているのだ。

兵士の中には何人か見知った者もいる、ザナハは「神子」から「姫」という立場に早変わりして住民達や労働者、兵士達にねぎらいの言葉をかけながら激励していた。

ザナハのそんな姿を見て、アギトは珍しく感心している。

自分と対して年齢が変わらないはずなのに、自分の国民を思う心・・・その責任感。

一国のトップという立場や役割がどういうものか想像もつかないアギトだったが、ザナハの立ち振る舞いを見ていると・・・決して王子や王女という身分の者が、国民の税金で贅沢三昧出来るようなお気楽な生活をただ送っているわけではないんだと痛感した。

とてもじゃないが自分には出来ない・・・、そう思った。

アギトはそんな「公務」をしているザナハから少し離れて、なんともなしに辺りを見渡しながらオルフェ達が戻ってくるまでブラブラする。


「・・・っつってもなぁ、ここには何度か来てるから特別何かしたいこととか見たいもんとかあるわけじゃないし。

 オルフェ達がすぐに戻って来るかもしんねぇから、マナコントロールの修行を始めるわけにもいかねぇし・・・。」


ぶつぶつと独り言を呟きながら、アギトはどんどん村から離れて行ってることに気付いていない。

気がついた時には、すでに回りには復興作業をしている住民達の姿はなく・・・がらんっとした荒野が広がるだけだった。

ぼんやりしていたアギトはきょろきょろと回りの変化に今頃気づいて、慌てて引き返そうと踵を返した時だ。


『マスター、後ろっっ!!』


アギトの視界からしか視覚出来ないはずのイフリートが、突然叫んだ。

頭の中に大きな声が響いて、その痛みと驚きに体が無意識ながら反応して横に跳ぶ。

するとさっきまで自分がいた場所に、ガッと何か固いものが地面に突き刺さる音がして振り向くと・・・そこには槍のようなものが突き刺さっていた。


「なっ・・・、なんだぁっ!?」


どこから飛んできたのかアギトは、後方に視線をやると・・・陽炎のゆらめきのなかに人影を見つけた。

イフリートの暴走による異常なまでの気温上昇はなくなっているが、それでもこの辺りは熱帯地方となっており気温は未だにかなり暑い方だ・・・。

にも関わらず、その人影はこんな暑い中・・・全身を覆うように真っ黒いマントを頭からすっぽりとかぶっていて、顔が見えない。


「誰だっ、いきなり槍なんか投げたら危ねぇだろうがっ!!」


アギトはそう叫びながら、地面に突き刺さった槍を手に取って抜き取ろうとした。

槍の柄部分に手をかけた瞬間、アギトは慌てて槍から手を離す。

槍の柄は・・・、こんな気温の中では考えられない位にとても冷たかったせいだ。

ひんやりとした槍を改めて掴んで引き抜くと、アギトはマントを着た人物に向かって睨みつける。

しかしその人物はその場から微動だにせず・・・槍を取り返しに来ようとも、再度何か攻撃を仕掛けようともしてこなかった。


「誰だって言ってんだよっ!!」


イラついたアギトがもう一度怒鳴るが、アギト自身にも異変は起きていた。

これだけ暑い地域だと言うのに寒気が治まらない・・・、それどころか背筋が凍るように全身に鳥肌が立っているようだった。

あのマントを見ていると、まるで殺気に溢れたオルフェに睨まれているような・・・そんな恐怖感に支配される感覚だ。


気味が悪い・・・。


アギトは直感的にそう感じた。

どこの誰かわからないが、あれはとにかく何かヤバイ感じがする・・・。

ごくりとツバを飲みながらアギトはマントとの距離が縮まらないように、ずっと見据えたまま睨み続けた。


『マスター、アレには関わらない方が良いかもしれんぞ・・・。』


「・・・?どういうことだ、イフリート・・・!?

 あいつのこと、何か知ってるのか!?」


アギトはマントに聞こえないように、小声でイフリートに語りかけた。

本当なら心の声だけで十分イフリートと会話をすることは可能なのだが、動揺したアギトはそれに気付かない。


『知っている・・・というよりも、何と言ったら良いのか・・・とにかくヤツからは全く生気が感じられんのだ・・・。

 まるで死体が動いているような・・・、そんな違和感をヤツから感じられる。

 マスターが本能的にヤツに対して感じている寒気も、恐らくその違和感を肌で感じているせいだろう。』


「・・・死体っ!?・・・マジかよっ!?

 こっからはアイツの顔は見えねぇけど、確かにアイツは自分の足で立ってこっち見てんだぞ!?

 ゾンビ!?・・・えっ、なに!?あいつゾンビなのかっ!?」


慌てふためくアギト。

目の前にいるマント人間がゾンビだとわかった途端、アギトは今まで見たゾンビ映画を必死で思い出そうとしていた。

ゾンビと遭遇して助かった人間が取った行動は・・・!?


「・・・ちょっと待てよ、もしかしていねぇんじゃねぇか!?

 そういやゾンビと戦う映画って大体ピストル持ってたよな・・・、オレ持ってねぇしっ!

 ゾンビ映画でハッピーエンドなのってオレ見たことねぇぞ!?

 パターンでいえば、全員死亡とか・・・結局助かりませんでしたとか・・・主人公もゾンビになって終わりとか。

 ロクなのねぇじゃん!?オレ、どうしたらいい!?

 ・・・待てよ、確かゾンビって火に弱いんじゃなかったっけか!?」


対ゾンビ策を思考錯誤している時、マント人間はゆっくりとアギトの方に近づいてきていた。

ふっと我に返ったアギトは後ずさりしながら、再度通告する。

もし一般人だったら・・・?

一般人に向かって炎系の魔法を放つわけにはいかない、そう考えての再度通告だった。


「止まれっ!!

 お前は一体何者で、何でオレに向かって槍を投げたかちゃんと説明しろっ!!

 でないとオレはお前を敵とみなして攻撃するからな、本気だぞっ!?」


しかしマントを来た人物に止まる気配はない、ゆっくりと・・・確実に歩を進めてアギトに近づいてくる!

仕方がない・・・、アギトは一番下級な魔法であるファイアーボールの詠唱に入った。

これなら威嚇には十分だし、何より・・・仮に相手が一般人だったとしても軽い火傷程度で済む・・・。


「ファイアーボーールっ!!」


アギトは相手が敵であることを望みながら、火の魔法を放った。

3つに分散した炎の球は真っ直ぐに目標に向かって行って、着弾と同時に爆発する・・・はずだった。


「・・・アイシクルっ!!」


マント人間は両手を大きく広げて魔法名を叫ぶと、頭上から無数の氷の塊が降って来てファイアーボールを全て打ち消した。

相手が魔法を放った時、マントの隙間から・・・一瞬顔が見えたような気がした。

・・・相手は男、目の前に氷の塊が降ったせいもあるかもしれないが、顔は本当に死人のように青白く、醜く歪んだ笑み・・・その瞳は見る者全てを凍りつかせるような冷たい眼差しだった。

だが恐ろしいのは相手の外見ばかりではない、・・・相手は氷の魔法を使える。

つまりそれなりの実力者、最も・・・レムグランドに住む一般人でないことは明らかだった。


「お前・・・、アビス人なのかっ!?」


アギトの言葉に、マント男はアギトを見下すように顔を上に向けて・・・マントの隙間からは顔の下半分が見え隠れする。

口元は不敵に・・・そして嘲笑するような笑みを浮かべて、初めて口を開いた。


「お前が・・・、光の戦士・・・だな?

 弱い・・・弱すぎる・・・、ヤツに比べたら雲泥の差だ・・・。

 これなら我が主の脅威に成り得ない、そう・・・君のような人間なら大歓迎さ・・・きっと我が主もお喜びになるだろう。」


その声はとても小さくてひそひそと囁くように喋っているにも関わらず、まるで頭の中に響いてくるイフリートの声のように・・・一言一句漏らさず、聞き逃すことなく全てアギトの耳に聞こえて来る。

言ってる意味はわからないが、確実に相手が自分達に害を為す敵だということだけは認識出来た。


「せいぜい精霊探しに奔走するといい、今ではかえって・・・その方が好都合だ。

 だが忘れるな・・・、お前達に僕を・・・我が主を倒すことは出来ない・・・不可能だ。

 我が主は絶対・・・、我が主は至高の存在・・・、我が主は神なのだ。

 ・・・お前ならわかるだろう?

 ふたつ星の片割れ・・・、聖なるスピカのオリジナルよ・・・。」


「なっ・・・、何言ってんだお前はっ!!

 主って誰だ・・・ルイドのことなのか!?

 待て・・・っ!!」


アギトの問いに答えることなく、その男はまるで熱に溶ける氷のように・・・マントが崩れ落ちて行ったかと思ったら、姿を完全に消していた。

危険かとも思ったがアギトは残されたマントの方に駆け寄ると、マントを手に掴んで・・・息を飲みながら勢いよくマントを掴み上げると、そこには乾燥してひび割れた地面しかなく・・・男の姿はどこにもなかった。

今見たこと、聞いたことが現実なのか夢だったのか・・・その区別がつかずに混乱しかける。

しかし手に持っているマント・・・、それに槍。

これらは確実に存在している、夢だとは思えない。

アギトは今あった出来事を報告しなくてはいけないと、マントと槍を無くさないようにしっかりと抱えて村に戻った。


「イフリート・・・、ヤツの言ってた言葉の意味・・・お前ならわかるのか!?」


しかしイフリートは黙し・・・答えようとはしない、しばらく沈黙が続いた後・・・ようやく問いかけに答えた。


『すまぬ・・・、今ここで我が語るわけにはいかないのだ。

 その答えは今後に関わること・・・、いずれわかることなのだが・・・きっと、恐らくその答えはルナが語るだろう。』


「ルナ・・・?

 光の精霊ルナのことか・・・?」


『真実を知るには、それ相応の負担が強いられるのだ。

 我にはそれしか言えん・・・、だがマスター・・・お前はお前を信じるがいい。

 お前は確実に・・・この世界に選ばれた者なのだ、その為の力も持っている!

 それは我が保障しようぞ、』


イフリートの言葉に素直に従えない自分がいた・・・真実を語ってくれないことには、アギトは自分自身の保証をされても何の意味もなかったのだ。

マントと槍を手に、アギトは一刻も早く今の出来事・・・そしてマント男のことを話す為に大急ぎで村へ駆け戻る。

村からそう離れていたわけではなかったので、村へはすぐに戻って来れた。


「オルフェーーっ!!」


大声を張り上げて、オルフェの名を叫び・・・探し回る。

アギトの様子に異変を感じたジャックがすぐに駆け寄って、アギトの肩を掴んだ。


「どうしたアギト・・・、そんなに慌てて!?」


「ジャック・・・っ!

 オルフェはどこだ?・・・まだどっかで兵士達に命令か何かしてんのかっ!?」


焦りの色を感じさせるアギトの瞳を見て、ジャックはオルフェがまだ馬車まで戻ってないことを告げた。

ジャックと話している間ですらきょろきょろとオルフェの姿を捉えようと、アギトは落ち着きのない様子で回りを見回している。


「何があった・・・!?

 お前さっきまでザナハ達と一緒にいたんじゃなかったのか・・・、みんな心配してたんだぞ!?」


「あぁ・・・、ぼんやりしててさ・・・気付いたら村の外れまで行ってて。

 そんなことよりオルフェがいないんだったら・・・、ジャック!!

 これ見てくれよ、これに何か覚えとか・・・異様な感じとかするか!?」


そう言ってアギトは両手に抱えていたマントをジャックに見せると、ジャックは怪訝な表情になりながらもそのマントを手に取って

広げてみたり・・・、臭いを嗅いでみたりした。

特に何も感じないのか・・・、今度は槍を見せてみる。

ジャックは武器に関して詳しいと聞いたから、マントよりもこの槍の方で何かわかるかもしれないとアギトは思った。

槍を手にして色々見回しながら・・・、少し不審な点でも見つけたのか・・・首を傾げながら答える。


「これをどこで拾った?

 マントの方はオルフェに任せるとして・・・、この槍は龍神族のものだな・・・。

 レムグランドでは出回ってない代物だ、取り扱われてるといったら・・・里か、アビス位だ。」


「さっき・・・、変なマント男に会ったんだ。

 ソイツいきなりオレにその槍を投げつけたかと思ったら、オレの魔法を氷の魔法で弾きやがった。

 そんで・・・、わけわかんねぇこと言ったら中身が消えちまって・・・。」


自分で言っててわけがわからなかった、当然ジャックも同じように思っているだろう。

アギトの頭がおかしくなった・・・と。

しかしアギトがジャックの顔を覗き見ると、その顔色は変わっていて・・・どこか緊迫した表情も読み取れた。


「とにかく・・・、今すぐオルフェと合流しよう。

 このマントと槍を処分するのはそれからだ・・・、いいなアギト?」


「え!?・・・うん。」


処分・・・、その言葉を聞いてアギトは驚いた。

そんなにヤバイものなのかと思ったからだ、ジャックはさっきとは打って変わって本格的にオルフェを探し始める。

アギトは必死で駆け回りながら仲間に呼びかけ、何事かと思いながら全員が出発用の馬車の前に集まった。

あいにくにもオルフェ達が一番最後に現れた。

ジャックが見つけて連れて来たのだが、オルフェの顔にいつもの笑顔がない・・・。

馬車の前に全員集まって、オルフェがみんなを見回すと開口一番にマントの主について語った。


「単刀直入に言います。

 このマントの主は、ディアヴォロの眷族のものでまず間違いないでしょう。」


その一言に、馬車の前にいた全員が驚愕し・・・そして絶句していた。



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