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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~炎の精霊イフリート編~
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第132話 「炎の精霊・イフリート」

不幸中の幸い・・・という意味も含めて、何とかイフリートの暴走を鎮めることが出来たアギト達。

しかしその戦いの最中さなかでリュートの消息が不明となり、素直に喜ぶことが出来なかった。

オルフェの言葉を信じるのならばリュートは恐らく・・・、再び敵対国であるアビスグランドに連れ去られたことになる。

アビスにとってリュートの存在は・・・、「闇の戦士」という存在は非常に重要な価値があるらしかった。

向こうでどんなことをさせられているのか・・・、そしてどういう扱いを受けているのか気になるところであったが、アギトは

依然と気にしている様子がなかった。


・・・リュートが生きている。

アギトにとって、それだけが何よりだった。

生きているのだから・・・、きっとまた会えると・・・そう信じられるから。


リュートの生存が第一となっていた為、すっかり存在を後回しにされていたイフリートはその自尊心を傷つけられて拗ねていた。

ザナハが小さな子供をなだめるように気を使うが、余計に図に乗って聞く耳を持とうとしない。

アギトから怒りの感情が消え失せて、いつもの生意気なアギトに戻っていたが・・・その顔はイフリートの態度に呆れていた。


「これが世界の自然を司る、精霊の態度か・・・!?

 見た目はまんまいい歳したオッサンのクセに、中身はただの器のちっせー小学生並じゃねぇか・・・。」


3メートル近くはありそうなイフリートを見上げるように、アギトが呆れ顔で言い放った。

精霊と言われる位なのだからもっと威厳があるように思えたのだが、今のイフリートの態度を見ていたらそんな有難みが消え失せてしまう・・・と言いたげだ。

オルフェ達も内心は、早くこんな暑苦しい火山口から出て涼しい環境にある洋館へと移動したい・・・と思っていた。

しかしここで更にイフリートの機嫌を損ねて、契約を交わすことが出来なくなってしまったら元も子もない。

ここは無理矢理にでも言葉巧みにそそのかしてちゃっかり契約を交わす流れへと持っていくしかない・・・と、オルフェが心の中で画策していた時だった。

アギトが腰に差していた剣を抜き取って、それをイフリートに向けて命令口調で豪語していた。


「おいイフリート!!

 お前何か勘違いしてんじゃねぇのか!?

 暴走していたとはいえ、オレはお前を力でねじ伏せた光の勇者なんだぞ!?

 オレはお前の力を上回ってなおかつ暴走も食い止めたし、精神崩壊から救ってやった・・・。

 今お前がこうして無事でいられるのも全部オレのおかげなんだぞ、その恩返しとしてオレと契約を交わす・・・ってーのが

 筋なんじゃねぇのか!?・・・仁義なんじゃねぇのか、あぁん!?」


傲慢にも程があった・・・、そもそもレム側が無為にマナ天秤を操作し続けてマナ濃度を偏らせたのが原因であり、そして

イフリートが増長したマナを抑制出来なくなって、現状の災厄につながったというのに。

しかし・・・、やはりイフリートはオルフェが証言した通りの性格であった。


『・・・う、うむ。

 確かにお前の言うことも一理ある・・・、しかし我は至高の存在なるぞ!?

 その我を前にして、そこまで言い切る豪胆さ・・・。

 気に入った!!

 少々不本意ではあるが・・・、成り行きとはいえこの我の力を超えて見事、力でねじ伏せたこと・・・認めてやろう!

 お前の願い通り、お前を我がマスターと認めて契約を交わしてやる。』


「え・・・、マジ!?」


やはり基本的に単純馬鹿だった。

アギトはてっきりイフリートが反論の言葉をかぶせてくると思って、更に次の言葉を考えていたのだが・・・ここまですんなりと

認められるとは思っていなかったのだ。

とにかくラッキーだったと思うようにして、早速契約を交わす準備に入る。


「えっと・・・、精霊との契約の交わし方って基本的に知らねぇんだけどさ。

 今ここですんの?・・・どうやって?」


アギトはオルフェに向かって質問したが、答えは返ってこなかった。

どうやら水の精霊ウンディーネと契約を交わした時もそうだったらしいのだが、オルフェ達は正式な精霊との契約の交わし方を

知っているわけではない。

契約を交わす手順は全てそれぞれの精霊任せであり、マスターとなる人物はその指示に従うだけなのだ。

アギトはイフリートの指示に従って向かい合わせに立つ。

精霊という存在に出会えただけでも貴重な体験なのに、更に契約を交わすとなってアギトの緊張はピークに達していた。

言われるがままアギトは右手を差し出して、何をされるのか・・・期待と緊張に満ちた表情でイフリートを見つめている。

回りで見守る仲間達も、緊張した面持ちでその様子を窺っていた。

イフリートは何やら言葉を並べたててきたが、聞いたことのない言葉で・・・何を言っているのかアギトには理解出来ない。

ぽかんとした顔で何となく聞いていたら、突然差しだした右手の甲が焼印を押されたみたいにジュッと音を立てて激痛が走った。


「あっ・・・ちぃーーっ!!

 なんだよくそっ!いっっでぇーーーっ!!」


突然走った激痛に、アギトは右手を引っ込めてもう片方の手で押さえた。

手の甲から皮膚が焼けた臭いがしてきて思わず痛みのする場所を見た、すると手の甲にはまるで「火」を現す象形文字のような

焼き痕が残っている。


『それは我との契約の証・・・、火のマナを放出して我が名を喚べば・・・いつでもお前の前に現れ出でる。

 我がマスター・アギトよ、お前の願い・・・しかと聞き届けたり。

 その願い・・・、最も大切な者の為にその命が燃え尽きる瞬間まで・・・守り、そして戦い抜くこと。 

 それが我らとの絆の証、マスターが望む限り我は全身全霊を懸けてその願いを叶えると約束しよう。

 我とマスターのマナが融合したことにより、この地域に溢れていた余剰マナも落ち着きを取り戻す。

 グレイズ火山一体の異常気象と、凶暴化した魔物も通常の状態へと戻ることになる。』


それだけ告げると、イフリートの肉体が炎の塊となって・・・アギトの手の甲へと吸い込まれるように消えていった。

熱くも痛くもない右手の甲をアギトは不思議そうに眺めて、それからやっと思い出したかのように仲間の方へ向き直る。

契約もことのほか無事に済んで、オルフェが火山口の脱出を促した。

帰ろうとした矢先、唯一の出入り口が塞がっていたのを思い出したアギトは、突然頭の中で何かが話しかけて来る違和感を感じた。


『マスターよ、最深部の更なる奥にある祭壇へと進むがいい。

 祭壇を動かすと抜け道が隠されている、そこを通ればグレイズ火山の近くにあった廃屋へと続いている。』


「廃屋って・・・、あのぼろっちい小屋のことか!?

 するってぇともしかして、オルフェが魔法陣を描いたあの小屋からこのフロアまで、一直線につながってたってことかよ!?

 なんだよそれ!!そんじゃわざわざクソ暑くて面倒臭い道のりを進まなくても一発でここまで到着出来たんじゃんか!!

 だぁーーーっ、損した!!一気に疲れて来た!!もっと早く教えろっつーんだよ!!

 てゆうか前にここに来た奴も知ってたんなら、あの小屋に秘密の抜け道の地図でも書いとけってんだよ!!」


『・・・それでは試練にならんぞ、マスター。』


アギトが一人で騒いでいるのを白い目で見つめているオルフェ達だったが、すぐにアギトの精神世界面アストラル・サイド

いるイフリートと対話しているのだと察して、何を話しているのか問いただした。

アギトが不満そうな顔で説明すると、オルフェ達はすぐさまイフリートが言った場所まで進んで行って・・・すぐに祭壇と

抜け道を発見する。

帰りはすんなりと帰ることが出来て、全員がほっとしながら歩を進めた。

しかし多少魔物が現れたりしたので迎撃するが、余剰マナの影響を受けていない魔物のレベルは平均で大体30〜40程まで

落ち込んでいたので、そんなに苦労することもなく倒して先を進む。

気温に関してもイフリートの言ったように正常に戻っていたので、ウンディーネの加護がなくても大丈夫だった。

難なく進んで行く間、アギトがふと気になることを口にする。


「・・・そういえば、さっき頭ん中でイフリートがオレに話しかけてきたんだけどさ。

 オレが出入り口が塞がっているのを思い出した直後に、イフリートがさっきの抜け道を教えてきたんだよ・・・。

 もしかしてさ・・・、イフリートってずっとオレと繋がってて・・・オレが考えてることとか何でもかんでもあいつに筒抜けに

 なってるってことになんの!?

 それじゃまるっきりプライバシーってもんがなくね!?」


ひくひくと嫌そうな笑みを浮かべながら聞くと、代わりにザナハが答えてくれた。

ザナハはすでにウンディーネと契約済みなのでアギトから言ってみれば、契約主マスターの先輩にあたる。


「自分のマナと精霊のマナが完全に融合するまでには、個人差があるけど多少時間がかかるのよ。

 融合するまでの間は今あんたが言ったみたいに、あんたの精神世界面アストラル・サイドにイフリートが溶け込んでいる

 状態になるから・・・あんたの意識や思考を共有する形になるの。

 共有といっても殆どマスター側の意識が一方的に精霊に筒抜け状態になるんだけど、精霊との相性やマスターの能力によっては

 契約した直後に完全に融合しきって・・・本来精霊がいるべき精神世界面アストラル・サイドへと還るのよ。

 そうすれば意識を共有することなく、個として確立出来るようになるわ。」


「・・・なんか言ってる意味がいまひとつよくわかんねぇけど、ようするにその融合ってやつをしない限りプライバシーの侵害を

 されるってことなんだな。

 そんで?・・・融合ってやつは具体的にどうやったら完全に出来るんだよ!?」


突然現れたフレイムバットを素早く引き抜いた剣で軽く薙ぎ払うと、キィーーッと断末魔を叫びながら光となって消えていった。


「さっきも言ったように個人差があるのは当然だけど、具体的にはただひたすらマナコントロールをしまくって・・・。」


「あ、やっぱいいわ。

 もっとラクで簡単な方法でもあるのかと思って聞いただけだし。」


ザナハの説明を途中で切ったアギトは、自分勝手に話を完結させるとそのまま剣を鞘にしまって歩き出す。

そんなアギトの態度に腹を立てたザナハは、ひくひくと片目を痙攣させながらアギトを睨みつけて文句を言った。


「あんたね・・・、いい加減その性格何とかしたらどうなの!?」


「お前こそ、そうやってすぐにキレる性格何とかしたら!?」


お互いに睨み合って火花を散らし合っている側から、オルフェが面白がっている様子で口を挟む。


「いや〜、二人とも本っっ当に仲が良くて何よりですねぇ!!」


明らかに余計な一言を発したようで、アギトとザナハは思い切り「ふんっ!」と鼻を鳴らしてそっぽを向くと、乱暴に地を

蹴りながら出口の方へ向かって行った。

そんな二人の後ろ姿を見送りながら、オルフェは「ふむ・・・」と顎に手を当てながら呟いた。


「・・・同族嫌悪というやつですかね。」


それを聞き逃さなかったジャックとミラが、少し吹き出しそうになって我慢するとオルフェの言葉に同意した。


「二人とも我が強いからなぁ・・・。

 自分が思っていることを簡単に曲げたりしないから、ああやってすぐに衝突したりするのかね〜。

 にしてもオルフェ、あの二人に向かって仲が良いって言うのは思い切り逆効果だぞ!?

 そんなこと言われたらお互い意地を張って認めようとしないんだから、余計こじれるだけじゃないか・・・。」


「だから面白いんじゃないですか。」


「・・・・・・相変わらず最低な性格ですね、大佐は。」


呆れた顔になったミラは、これ以上は付き合いきれない・・・という様子でアギト達に続いてすたすたと歩いて行ってしまった。

後に残されたオルフェとジャックは苦笑しながら、マイペースに歩を進める。


「やれやれ・・・、どうやらお前達も相変わらずな感じみたいだな?」


ジャックのからかい気味な言葉に、オルフェは返事をすることもなく・・・ただ黙ってバツの悪そうな顔になっていた。

時折出て来る魔物を軽くなしながら、二人は戦友としてだけではなく・・・旧友として語り始める。


「オレが口出しするようなことじゃないが・・・、このままの関係を続けるつもりなのか?

 それじゃあまりに不憫だろう・・・、お前も・・・彼女も。」


自分が話題にされるのをあまり好まないオルフェは、不機嫌な表情になると・・・視線を落としながら言葉を受け流した。

そんな態度も慣れているせいか、ジャックは全く気にも留めていない様子で言葉を続ける。


「お前がそうやって反論しないってーことは、ちょっとは気になっているんだろう?

 お節介に思われるかもしれんがな・・・、オレはこういうもやもやした関係ってのは・・・なんかこう・・・奥歯に何かが

 挟まったみたいにむずむずしてくるんだよ。

 昔っから自分の本心は誰にも話さないで、何でも自分の中で抱え込んで、結局全て自分一人で背負い込んでしまうお前を見てると

 な・・・、ずっと親友として側にいるオレっていう存在は必要ないのかねぇって思っちまうんだよ。

 別に卑屈になってるわけじゃないぞ!?」


「・・・わかってるさ、お前にはいつも心配ばかりかけているってこともな・・・。

 ただこれは・・・私自身が背負い込むべき問題であり、未来永劫忘れてはいけない過去の罪として・・・けじめをつけなければ

 いけないと思っている。

 だからこそ・・・、私は中尉の・・・。

 ・・・ミラの意志を尊重するべきだと考えた、・・・それがどんなにもどかしくても、どんな結末を迎えようと。

 私は受け入れる覚悟が出来ているし、最終的には彼女が幸せになってくれればいいと・・・本心から思ってるよ・・・。」


オルフェの表情は・・・ジャックの前を歩いている為、見ることは出来なかったがジャックは彼の言葉が嘘を語っていると思った。

ミラ一人の意志を尊重したところで、それが罪滅ぼしになるはずもない。

仮に復讐という名の結末を迎えたとしても・・・、その先にミラの幸せがあるとも思えない。

今の言葉からすると、オルフェはただ・・・流れに身を委ねているだけに過ぎなかった。

・・・数ある選択肢を、ミラ一人に委ねているだけにしか聞こえない。

そして勿論・・・、ジャックの知っているオルフェが女性一人にその決断を全て押し付けるような男ではないということを

十分理解していた。


オルフェは自分の罪を理解している、そしてそれをずっと後悔している・・・。

犯した罪の大きさからいえば、罪の清算をするにはあまりに代償が大きすぎる・・・だからこそ自分一人で背負い込もうとする。


(それでも抱え込んでいる悩みを打ち明けて相談するのが、親友ってもんだと・・・オレは思うけどな。)


自嘲気味に微笑みながら、ジャックは思った。

自分もアギトとリュートに感化されたのかもしれないと・・・。


あの二人を見ていると、たまに羨ましくなってくる。

子供の時分だからというのもあるかもしれないが、それでも・・・あの二人には心の距離というものが感じられなかった。

まるで本当の双子のように・・・、自分の半身のように・・・本心からお互いを信頼していて、本心から求め合っている。

遠慮というものが感じられないのに、そのくせ・・・まるで壊れ物を扱うかのように常に相手のことを気遣っている。


アギトが動なら、リュートは静・・・といったところだろう。


「光と闇・・・、まさに対・・・か。」


ジャックは、自分でも無意識に言葉を口にしていた。

光と闇・・・、同じ世界に同時に現れるのならば・・・対として現れるはずだった。

しかしジャックの最初の弟子である闇の戦士は、同じ時代に二人存在した。


ジャックが安請け合いをしてしまって弟子としたヴァルバロッサの息子、ジーク。

そして龍神族の里から突如として現れた闇の戦士、ルイド。


オルフェは何かを知っていそうだったが、確証は持てないからといって結局解らず仕舞いに終わってしまった。

しかし今更問い詰めたとしても、ジークが戻ってくるはずもない。


彼は、死んでしまったのだから・・・。


急に胸の奥が締め付けられるような痛みに襲われた。

ジャックも・・・ジークの死に関して、他の誰にもその悲痛な胸の内を打ち明けたことがない・・・妻にすら。

話したところで解決出来るような問題でもない、そして・・・彼の死を簡単に口にすることがジャックにはどうしても出来なかった。

そう考えたら、ジャックは自分の考えていることがあまりに矛盾していた為・・・思わず自分で自分を嘲笑っていた。


「・・・オレも、オルフェのことは言えんな。」


それだけこぼすと、ジャックは再び我に返って・・・ジークに関する記憶を心の奥底に封印した。

やがて、廃屋へと続く階段を見つけて・・・ジャックはみんなの元へ追いついた。


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