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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~炎の精霊イフリート編~
131/302

第129話 「絶体絶命の大ピンチ!」

 火山口内にある洞穴とは思えない程に整備された「イフリートの祭壇」とでもいうべきか・・・、広々とした空間の中で遂に軍団長と対決することになったアギト達。

相手は軍団長きっての武人、大剣を軽々と操るヴァルバロッサ。

そして・・・この世界では一般的な技術なのか、オルフェのようにどこからともなく光と共に武器である杖を出現させて

構える老人、ゲダック。

それに対抗するように、オルフェが前に進み出た。

アギトやリュートも武器を構えるが、足がすくんで動きが硬くなってしまっていた。

初めての人間を相手とした戦い・・・そう考えるだけでも相当緊張しているのに、敵の気迫に完全に負けてしまっているのだ。

それをすでに見透かしていたオルフェは、ちらりと後方を見て・・・すぐ視線を戻す。


「アギト、リュート。

 君達は後ろに下がっていなさい、彼等は私達が相手をします。」


その言葉に従うように、ミラとジャックが同じように前に進み出て・・・アギト達の盾になるように立ち塞がった。

アギトは自分の情けない姿に怒りにも似た悔しさを顔一杯に浮かべて、大声で反論する。


「なんでだよっ!!・・・オレ達だって戦える!

 さっきはちっとビビッちまったけど・・・、もう大丈夫だからっ!」


「あの二人は強敵です、君達がいては足手まといになると言っているんですよ。」


「・・・・・っ!!」


結局はそうなる・・・、いつもこうなる。

いざという時になったらいつも足がすくんで、震えが止まらず・・・覚悟を決めたはずなのに体が言うことを聞かない。

頭ではわかっているのに、人間相手に武器を向けるとなったら恐怖で心がかき乱される。

反論出来ない自分が、それを認めている。


邪魔・・・、足手まとい・・・。


光の戦士と言っても・・・、結局は何も出来ないでいるのだ。

剣の柄を力一杯握り締めて自分の非力さ・・・無力さを痛感する、・・・ふとアギトの肩に誰かが触れて後退するように促した。

リュートか・・・、と思いながらアギトは悔し涙が出るのを必死で堪えながら、自嘲気味に微笑んで振り返る。

しかし優しく肩に触れていたのはリュートではなく、・・・ザナハだった。


「アギト・・・、ここはオルフェ達に任せましょう。

 あたし達の使命は彼等と決着を着けることじゃない・・・、イフリートの暴走を鎮めて契約を交わすこと・・・そうでしょ?」


ザナハと言葉を交わす時はいつも喧嘩ごしだった、しかし今の言葉はまるで小さな子供をなだめるような・・・とても柔らかくて、優しい口調に聞こえた。

自分達だけいつも守られて、安全圏に隠されて・・・こんなことで世界の救済者と言えるのだろうか!?

それでザナハは平気なのか?

もやもやとした胸の奥の不快感を、まるでザナハにぶつけようとするように・・・アギトは反抗的な気持ちが込みあがって来て

睨みつけた。

そしてザナハの瞳を捉えた時・・・、アギトはハッとした。

途端に・・・ざわついていた胸の奥の不快感が一気にしぼんでいくように、怒りが中和されていくような感覚になった。


ザナハの瞳には、自分の無力さを痛感したような・・・悲痛なまでに辛そうな悲しみが宿っていた。

湧き上がってくる悔しさ、守られてばかりいる情けなさ、神子なのに・・・一国の姫なのに・・・肝心な時にはいつも

邪魔者扱いされるふがいなさ。

それを必死で押し殺している・・・、そんな顔をしていた。

悔しい思いをしているのは自分だけじゃない、いつも特別扱いされてるクセに・・・その為に力になろうとしているのに、思うようにいかない自分に腹を立てている・・・そんな気持ちが伝わってくるようだった。

アギトは剣の柄を握り締めていた右手の力を抜いて・・・、それから剣を鞘にしまうとザナハの言葉に・・・オルフェの言葉に

従った。


「わかってるよ・・・、それがオレ達の使命だもんな。」


アギトの返答に、ザナハが柔らかく微笑むと・・・一瞬心がざわついた。

ザナハの笑顔を・・・、アギトはまるで今初めて見たかのように・・・うまく言葉で言い表せないような動揺を感じた。

それを隠すようにアギトはパッと顔を背けて、それから後退してオルフェ達の戦いを見届けるフリをする。


「なぁ・・・、向こうは二人でこっちは三人だろ?

 人数的に見てもこっちの方が絶対的に有利だから、心配する必要って皆無じゃね?

 だったら今の内にイフリートと契約を交わせねェかな・・・。」


こういう場面ではいつも冷静なアギトが、突拍子もない言葉を口にしてリュートがすぐに否定した。


「何言ってるのさ・・・、大佐達が大丈夫なのは確かだけど・・・イフリートと契約を交わす前に試練があるのを忘れたの!?

 試練がどれだけ過酷かわからない以上、僕達だけで挑むわけにはいかないでしょ。」


「え・・・?・・・あぁ、そっか。」


アギトの曖昧に近い返答を聞いて・・・オルフェに足手まとい扱いされたのが相当こたえてる、そう感じ取ったリュートは

オルフェ達の戦いよりもアギトの方が気になった。

アギトの方を心配そうに見つめていると、オルフェ達の方から戦いによる剣撃の音が聞こえてきて視線を戻す。

大きな斧でヴァルバロッサに向かって行ったジャックが、激しく打ち合っている中・・・ミラはゲダックに呪文詠唱の時間を与えないように銃撃で援護している。

オルフェは余程威力が大きな呪文でも放つつもりなのか・・・、長い詠唱に入っていた。

しかしそんな中でもジャックとミラの攻撃には少なからず迷いのようなものがあった・・・、一見容赦なく攻撃しているように

見えるが、特にミラに至っては全て急所を外しているかのように・・・銃弾が一発もゲダックに命中していなかった。

わずかに杖で防いだり、詠唱破棄による防御結界で銃弾を弾いたりしているのもあるが・・・それだけではない。

当然二人の雑念に気付いているオルフェだが、詠唱を中断するわけにもいかず集中が途絶えないように・・・舌を打ちながら

オルフェは詠唱を続けていた。

室内には刃物がぶつかり合う金属音と、激しい銃撃音がこだましている。

アギト達は部屋の隅っこで戦いを見守っていた、オルフェ達が負けるはずもないと祈りながら・・・心の中は不安で一杯だった。


オルフェ達が負けるかもしれないから?・・・そうではない。


今この目の前で、人間が人間を殺す場面に立ち会うかもしれない・・・そんな不安と恐怖が胸を締め付けているのだ。

例え今のミラとジャックに迷いがあろうと、彼等は曲がりなりにも軍人である。

いざとなったら任務を優先する為、自分達が生き残る為に・・・敵を殺すことも辞さないだろう。

そして何より・・・、戦闘メンバーには敵に対して全く容赦のないオルフェがいるのだ。

今は水の精霊ウンディーネの力によって室内全体が結界によって守られているような状態だ、しかしそれでも戦いの熱気というのだろうか・・・その激しい攻防に、アギト達の額から汗が滴り落ちる。

ジャックが巨大な斧で斬りつけたり、時には盾代わりにしたりと・・・ヴァルバロッサと互角に渡り合っている。


「どうしたジャック・・・、腕が鈍ったのではないかっ!?

 お前の力はそんなものではなかったはずだろう、退役して平和というぬるま湯に浸かり過ぎたのか!!」


そう叫んで薙ぎ払うと、その剣圧におされたようにジャックは後ろに吹き飛ぶが・・・何とか受け身を取って着地する。

地面に片手を着いて息を整えながら、ヴァルバロッサを見据えたまま武器を構え直す。

もはや今のヴァルバロッサに説得の言葉は通用しないと・・・ジャックにもわかっているはずだった。

今の彼の瞳の奥には怒りと憎しみ・・・「敵を討つ」という目的の為に、剣を振るっているようにしか見えないからだ。

力でねじ伏せるしか道はない、そう覚悟したジャックは改めて武器を握り締めて・・・本心から戦いに身を投じた。


「どうしたミラっ!?

 お前の銃弾はまだ一発も当たっておらんぞ、この期に及んでまだ迷うかっ!?」


ゲダックは両手を広げて、まるで「当ててみろ」と言うように声を荒らげながら挑発した。

ミラは苦渋に満ちた表情を浮かべて銃を構える、すると後方から呪文の詠唱をし終えたオルフェが魔術を発動させる。

肌で感じる程の強力なマナに一瞬ゲダックの表情が曇るが、すぐに余裕の笑みを浮かべて別の詠唱に入った。

そうはさせまいとミラが再び連射するが、防御結界は健在でただ弾かれるだけである。


「大地の咆哮ほうこうは怒れる地龍の爪牙!

 グランドダッシャー!!」


オルフェの発動させた呪文は地属性の上級魔術であり、呪文の発動と同時にゲダックの足元が地割れを起こしてその割れ目から

岩の槍が噴き出すように、敵を捉えて激しく浴びせた!

しかしゲダックが直前に詠唱していた呪文は魔法防壁を張り巡らせるものであり、グランドダッシャーが発動してゲダック自身を襲う寸前に間に合い・・・直撃による大ダメージを避けることが出来た。

それでも先程浮かべた余裕の笑みは消えていて、うっすらと屈辱の入り混じった表情が見え隠れしている。

オルフェに次なる詠唱をさせまいと、ゲダックが得意とする早口詠唱で・・・恐ろしくもオルフェより約半分程で詠唱を終えて

魔術を発動させる。


「出でよ、敵を蹴散らす激しき水塊! 

 セイントバブル!!」


オルフェの足元から水が一気に溢れだすとそこから巨大な泡の塊が吹き出して、破裂することでダメージを与えてきた。

泡の破裂によってダメージを受ける為、武器で対処するわけにもいかず・・・オルフェはすぐさま足元にある水の上級魔法

「セイントバブル」の効果範囲から移動することで泡を避ける。

退避に間にもオルフェは詠唱を口ずさんでおり、続け様に次なる魔術を発動させた!


「業火よ、炎の檻より焼き尽くせ!

 イグニートプリズン!!」


火のレイライン内という特殊環境により、火属性の魔法は通常よりも強力な相乗効果を生み出し・・・更なる威力を底上げしていた。

またしてもゲダックの足元から炎が巻き起こると魔術の名の通り、炎により拘束され捕えられたゲダックは回避不能となって

そのまま火柱の中に包まれ・・・天井ギリギリまで高く打ち上げられる。

落下していく様をその目で捉えたまま、ミラは魔術の詠唱を終えて・・・そして発動させた。


「聖なる意思よ、我に仇なす敵を討て・・・っ!

 ディバインセイバー!!」


ゲダックの着地地点に巨大な魔法陣が現れ・・・外側から内側に向けて雷撃が連続で襲いかかった。

魔術の連続攻撃によってさすがに魔法防壁も効力を失ったのか、ゲダックの身に纏っていたローブが黒くこげているのが

目視で確認出来た。

地面に倒れ伏した老体を目にしたミラは、しっかりと視線を逸らさずに・・・照準を向けたまま警戒する。

息つく暇もなく、オルフェはゲダックからヴァルバロッサへとターゲットを変更して戦況を窺った。

迷いを断ち切ったのか・・・、ジャックは自身が持つ強力な技を連続で敵に浴びせ続けている。

ジャックは戦場で生き残るには・・・、余りに優しすぎた。

しかしそんな彼がこれまで戦場で生き続けることが出来たのは、その鬼神の如き強さとスピード・・・そして並外れたスタミナにあったのだ。

敵への情けを断ち切りさえすれば・・・自分すら凌ぐ実力を持っていることを、オルフェは知っていた。

この後にもイフリート戦が控えている、おいそれと魔術を発動させることは出来ないと察したオルフェは上級魔法の詠唱を控えた。


「うおぉぉぉーーっ!!

 岩斬滅砕陣がんざんめっさいじん!!」


ジャックはヴァルバロッサの目の前に飛び上がって斧を地面に叩きつけると、その激しい勢いによって地面が裂け・・・吹き上げる岩の塊でダメージを与えた。

岩のつぶてを受けながら相手が目を片手で覆った隙をついて、更に追い打ちの奥義をヴァルバロッサに与える。


烈穿双撃破れっせんそうげきは−−っ!!」


ヴァルバロッサの懐に飛び込んで斧の刃部分を腹に突き刺すように、そのままアッパーカットで追い打ちをかけながら上方へと浮かす。

腹に受けた衝撃で表情が歪んだヴァルバロッサであったが、受け身を取る間もなくジャックのマナがこもった掌底しょうていを先程ダメージを受けた腹に再び叩きこまれて、呻き声を上げながら後方へと吹き飛ばされる。

地面を凄まじい勢いで引きずられるように転がって、後ろの壁にそのまま叩きつけられた。

肩で息をしながらジャックは、斧を杖代わりのように地面について・・・ヴァルバロッサが起き上がってくるのを警戒している。

二人にトドメを差し切れてはいないが、とりあえず敵に大きなダメージを与えることが出来たのを確認したオルフェは、前に進み

出ながら片手に携えた片刃の長剣を持ちかえて、まずは地面に倒れ伏しているゲダックに剣を突き刺すように構えた。

ミラはそれを始終見ていたが・・・、止めることは出来ない。

相手は覚悟を持って決闘を持ちかけてきた、そして自分達はそれを受けて・・・応えた。

ここで情けをかけては敵を侮辱したも同然となるだろう・・・、それが戦の場の・・・決闘というものだ。


「・・・これで終わりです。

 ゲダック師に・・・、安らかなる死を・・・。」


上から下へと突き下ろすような形で剣を構えたオルフェは・・・、ゲダックにトドメを差した瞬間に違和感を感じた。

迷いも躊躇いもなく突き下ろした剣はゲダックの体を確実に突き刺したが・・・、その感触は肉の塊のものではなかった。

まるで硬い金属片に無理矢理刃を突き付けたような、そんな感覚が剣を伝って感じ取れる。

眉根を寄せたオルフェは片足でうつ伏せとなっていたゲダックをひっくり返して、正面に向かせた。


「残念だったなディオルフェイサ・・・、わしの体はそんなことでは朽ちんぞ!?」


その言葉と共にゲダックの周辺から真っ白い霧のようなものが一気に立ちこめて、オルフェは鼻と口を押さえながら後退した。

ミラは銃で援護しようとするが、煙幕となった霧が邪魔で照準が合わせられず狙撃を見送る。


「あれだけの攻撃を受けて無傷だなんて、有り得ませんっ!!」


ミラはそう叫ぶが、しかしそれが事実だ。

ローブは確かに黒く焦げて大きなダメージを想像させたが、オルフェが見たゲダックの顔・・・そして余裕の笑みからはそれまでの攻撃が幻影であったかのように、全くと言って良い程ダメージを受けているように見えなかったのだ。


「なんだ・・・っ、一体どうしたんだっ!?」


突然の煙幕に、ジャックがよろめきながらオルフェを問いただした。

オルフェ達は霧が晴れるのを待つのではなく、いつ攻撃されても対応出来るように細心の注意を払っている。

しかし霧がゆっくりと晴れて行くと目の前に映し出されたのは、ゲダックが壁に叩きつけられて気を失いかけているヴァルバロッサに治癒魔法をかけている姿だった。


「さっさと目を覚ませ、この熱血馬鹿がっ!

 わしのような老体がお前のような巨躯きょくを抱えて、離脱出来るはずなかろうが・・・。」


「うぅ・・・っ!」


しかしダメージは相当のようで、完全武装だった鎧は砕け・・・特に腹に受けた傷跡がそのダメージの深さを物語っている。

これ以上治癒魔法をかけても、意識だけは今すぐ完全に戻ることは出来ないだろうと踏んだゲダックは、面倒臭そうに溜め息をつくとローブの内側にあるポケットから黒いチョークを取りだすと地面に何かを描き始めた。

そして両手で陣を取って呪文を唱えると、地面に描かれた魔法陣から煙が噴き出し・・・土で出来た2メートルはありそうな不格好な人形が突然姿を現した。

オルフェ達は先程から二人に、さっきまでの殺意や敵意が感じられないと悟って・・・あえて黙って様子を窺っていた。

土人形・・・ゴーレムも自分達を襲わせる為に作りだしたものではないと、暗黙に悟っている。


「こいつを担げ、・・・帰るぞ。」


意外な幕引きにジャックは声を荒らげた。


「待てっ、お前達はここで決着を着ける為に・・・勝負を挑んできたんじゃないのかっ!?

 このまま引くとはどういうことだ!?」


斧で全身の体重を支えるように疲弊したジャックは、それでも気力だけでゲダックに向かって怒鳴った。

ジャックの威勢にゲダックは一瞥すると、鼻を鳴らして返答する。


「わしらの目的はおおよそ果たしたからのう、これ以上の戦いはナンセンスじゃ。」


その言葉に、オルフェは舌を打って・・・自分の推察通りだったことに苛立った。


「・・・そういうことですか。」


オルフェの漏らした言葉に満足したのか、ゲダックは勝ち誇ったような笑みを浮かべて目的を明かした。


「ふん・・・、相変わらず察しが良いな。

 その通り・・・、わしらの目的は主戦力となるお前達三人の体力を削ることにある。

 戦闘レベル、技術力、戦闘経験・・・その全てにおいてマスタークラスであるお前達三人が疲弊しきってしまえば・・・。

 この後に控えているイフリート戦には、後ろで縮こまっているガキ共だけで受けなければいけなくなる。

 例え治癒魔法をかけたとしても、回復するのは外傷だけで・・・極度の疲労や消費したマナが回復するわけではないからのう。

 これでお前達がイフリートの試練に勝利する見込みはゼロに近い・・・、いや万に一つも勝ち目はないのじゃよ。

 イフリートとの決闘に敗北すれば神子の精神力も尽きて、ウンディーネの加護は断ち切られる・・・。

 そうなればこの劣悪な環境でお前達は、苦しみもがき・・・未練を残したまま朽ち果てるというわけじゃ・・・。」


ゲダックはゴーレムにヴァルバロッサを担がせると、アギト達の後ろにある唯一の出口に向かって通り過ぎようとしていた。

勿論このまま見過ごして・・・、黙って帰らせるわけにはいかないアギトは大声で怒鳴って止めようとするが・・・オルフェに制止されてしまう。


「やめなさいアギト・・・、今ここで彼等に刃向かって・・・何の得がありますか。

 戦いを挑んだとしても今の君達に勝てるはずがありません、・・・私達の戦いを見ていなかったのですか?

 彼等のことを考える暇があったら・・・、今・・・何をどうすれば良いのかを考えなさい。」


「・・・くっ!!」


歯を食いしばりながら、すぐ横を通り過ぎていく老人を睨みつけて・・・悔しさを必死で堪えるアギト。

リュート、そしてザナハも・・・彼らが黙って去っていく姿を、ただ悔しそうに見過ごすしかなかった。

そんな中ドルチェだけがぬいぐるみをケット・シーに持ち替えて、オルフェ達の治癒を始める。

今更オルフェ達を回復させてもさっきゲダックが言ったように、疲労やマナだけはすぐに回復させることは出来ない。

その分ドルチェのマナを浪費させるだけだ。

こんな考え方は酷だが、今オルフェ達を回復させてもドルチェの戦力がダウンしてしまうだけで・・・現状には利がない。

しかしドルチェは全く動揺や焦りがなく、落ち着いた口調でアギト達に進言してみた。


「何もイフリートとの戦いは今じゃなくても構わない・・・。

 大佐達を回復させて一旦、この火山口を離脱して・・・再度訪れるという方法がある。

 時間がかかって無駄に思えるけど、往復分の経験値は溜まっているから・・・その分イフリート戦に勝つ確率は上がるはず。」


ドルチェの提案に、アギト達は・・・いやアギトは自分が冷静さを欠いていたことに気付かされる。

相手の言い分に踊らされて、思う壺になるところだった。

考えてみればドルチェの言う通りだ、ゲダックの言うようにこの後すぐにイフリートと戦うなんて・・・そんなルール、誰が決めたというのだろう。

精霊の呼び出し方までは知らないが、相手の言葉にはまって・・・そのまま連続戦闘させられるところだったのだ。


「ドルチェの言う通りだ、ここは火山口を脱出するまでの大佐達の体力を回復させて・・・出直した方がいいよ!」


リュートは無理矢理元気を取り繕って、落ち込んだ空気を払拭ふっしょくさせようと必死になる。

うだうだと考え込んでいる場合じゃない・・・、そう感じたアギトとザナハはその言葉に従った。

ジャックやミラも集まって、まずは外傷や体力を回復させることにする。

体力を回復させるといっても疲労が完全に回復するわけではないので、これ以上の戦闘・・・当然魔法を使うまでには至らなかった。

ザナハだけは今後も結界を張り続けなければいけない、という役目があったので回復魔法を使用しなかった。

全てリュートとドルチェがこなしていると、突然後方から何かが崩れる大きな音が聞こえてきて振り返る。

するとさっきまで大きく口を開けていた出入り口がガレキによって、塞がっていたのだ!


「出入り口がっ!!」


回復チームに入れないアギトが慌てて出入り口があった方に駆け寄ると、ガレキの山を手で掻き分けようとするが無駄だった。

さっきまで頑丈に出来ていたこの部屋が、突然自然に崩れるというのは考えにくい。

先程の凄まじい戦闘による衝撃が室内にダメージを与えたということも考えられたが、それなら部屋全体が徐々に崩れていく前触れがあるはずだった。

・・・もしかしたら人為的に出入り口を塞がれたのかもしれない、そんな考えが頭をよぎる。


「この室内はイフリートの祭壇として永久不変に朽ちないように、部屋の周囲に描かれている陣によってマナが巡らされている。

 つまり室内全体が、そのマナで保たれているはずです・・・。

 そう簡単には崩れないように細工がしてあるから、恐らく先程の戦闘によるダメージのせいではないと思います。

 そうでなければ・・・これまで何度となく行われてきた精霊との試練で、すでに崩れていてもおかしくありませんから。

 ここにいる全員が考えているように、出入り口を崩したのは・・・ゲダックで間違いないでしょうね。」


すでに観念したように、冷静で落ち着いた口調でそう説明するオルフェ。

だが勿論、そんな冷静に落ち着くことの出来ないアギトは両手で髪の毛を掻きむしりながら、けたたましい悲鳴を上げる。


「何さらっと抜かしてるんだよ、そんな状況じゃねぇだろぉーがぁーーっ!!

 オレ達閉じ込められたんだぞ!?

 火山の奥に密閉されたんだぞっ!?どうやってここから脱出すんだよ、逃げ場なんてねぇじゃんかーっ!!」


苛立ちとパニックが入り混じって興奮状態にあるアギトに、ザナハが喝を入れる。


「大声を出してパニくらないでよっ!!

 結界はまだしばらく保つんだから、今は冷静になって・・・問題をひとつひとつ解決させていかなきゃ何も始まらないわ!」


ザナハの叱咤に、アギトは一瞬ぴたりと静止するが・・・聞き捨てならない言葉を拾い上げて恐る恐る言葉を繰り返す。


「・・・しばらく?

 つーことは、そんなに猶予は残されていないってことぢゃねぇのか・・・?」


先程の言葉にあった「冷静になろう」という言葉を履き違えて、アギトは冷静に・・・今の劣勢を見つめ直した。


「ダメぢゃんっ!!

 八方塞がりじゃねぇか、落ち着いてる場合じゃねぇだろ!!

 こういう状況だとな、落ち着いてのほほんとしてる奴は逃げ遅れて死んじまうのがオチなんだよ!

 九死に一生スペシャルでもあったじゃん!危険察知センサーを働かせて生き残る為の行動を起こさねぇと、そのまま取り返しの

 つかないことになるって!!」


「アギトっ!!

 だからこそ冷静に、落ち着いて・・・っ!今こそ現状把握してから、生き残る為の行動を起こす時なんじゃないか!!

 いつものアギトらしくないよ!!

 どんな状況でも諦めないで強気な笑顔で立ち向かっていくのが、僕達の知ってるアギトだったんじゃないのっ!?」


リュートはアギトの両肩をがっしりと力強く掴まえると、全身を揺さぶるようにしながら訴えかけた。

真っ直ぐに・・・、自分と同じ青い瞳をした少年を真っ直ぐと見据えて・・・アギトは頭に上った血を下げることが出来た。

自分の両肩を食い込む位掴んだ手に・・・片手で触れて、アギトはようやく落ち着きを取り戻して・・・反省する。


「・・・悪かったよ、リュート。

 オレ・・・どうかしてた、つーかあいつらの思い通りになってんのが腹立って・・・なんか焦ってた。

 もう大丈夫、・・・平気だから。」


その言葉を聞いたリュートはアギトを信じると・・・、とりあえず外傷だけは回復したオルフェ達に向き合って相談を始めた。

全員武器をしまって、今置かれている状況を整理する為に・・・まずは室内を物色してみた。

時間はそれ程残されていないと断定して、たった2分程で調べ終えるとオルフェが話し出す。


「室内の施された魔法陣は、このフロアだけを守るように結界が施されていますね。

 結界といってもザナハ姫が張っている結界とは全く異なります、あくまで衝撃による崩壊を防ぐ為のものです。

 ですからこのフロア内から壁に向かっていくら衝撃を与えても・・・、穴を開けることは不可能に近い。

 唯一残された出入り口のガレキを取り除かない限り、ここから脱出は出来ないでしょうね。

 私達3人は殆どMPが残っていませんから、私達の術技でガレキを吹き飛ばすことは出来ません。

 勿論ザナハ姫も論外です、ただでさえ結界を張る為の時間が限られているのに・・・更に魔法を放ったり、マナコントロールに  よる打撃でガレキを吹き飛ばしたりしたら、結界が保てなくなるでしょう。」


オルフェの説明によれば、アギト、リュート、ドルチェの術技による方法でガレキを吹き飛ばすしか、ここから脱出する方法がないことを知らされる。

リュートは考え込みながら、何とか知恵を絞って提案してみた。


「僕が使える風の魔法じゃ、あれだけ敷き詰められたガレキを吹き飛ばせるような威力が高いのは・・・ちょっと。」


リュートの言葉に、ミラが付け加えた。


「リュート君の風の魔法は、ここではあまり多用しない方がいいかもしれません。

 風属性は、火属性を活性化させる相乗効果を秘めています。

 もし今ここで風属性の攻撃魔法を放ったりすれば、周囲の火のマナが過剰反応を起こして・・・出入り口を塞いでいるガレキを

 溶接したような効果が生まれてしまうかもしれません。

 そうすると、ガレキを一気に吹き飛ばすことが出来なくなってしまいます。」


それは困る・・・、そうすればますますここから脱出出来る確率が低くなってしまう。

リュートの魔法が使えなくなると、あとはアギトかドルチェの二人に賭けることになるが・・・、そんな中オルフェが口元に

手を当てながら可能性を並べてみた。


「脱出前提で話を進めるならば、アギトに教えた物理攻撃による奥義にドルチェのベア・ブックの奥義も連携させて、MPが続く

 限りガレキに向かって放ち続けるか・・・。

 時間が許すならば方法は他にいくらでもあるのですが、・・・現状そうはいきません。

 もし君達に覚悟があるのならば、もうひとつ方法がないこともありません。」


しかしそれは余りに無謀に思えたのか、オルフェはそこで言葉を途切らせてしまう。

オルフェが可能性が低いと判断したのならば、それはきっと・・・それこそ命の危険に関わる位の覚悟がなければ成し得ない方法なのだと・・・暗黙の了解を無意識に感じて、それ以上の追及が躊躇われた。

だからと言って、このまま悠長に・・・無為に時間を浪費することもない。

躊躇われた追及を、アギトは賭ける思いで試みようとした。


・・・と、その刹那!


大きな地鳴りがして全員地面に伏せると、様子がおかしいことに気付いて辺りを警戒する。

腕がひりひりする。

・・・水の結界が張ってあるのに?

さっきまでと明らかに違う異変に気付いたアギトが、震える声で核心をく。


「ちょっと待てよ・・・?

 なんか気のせいか、水の結界の力が弱まってねぇか・・・?」


アギトの言葉に全員の顔色が変わる、そして唯一顔色を変えていなかったオルフェが言葉を補足した。


「半分正解・・・といったところですね、ですが正確にはウンディーネの結界が弱まっているわけではなさそうです。

 周囲の火のマナが活性化して・・・、更に気温が上昇した・・・といったところですか。」


まるで見透かしていたかのように、オルフェはフロアの奥・・・出入り口の真向かい方向に鋭い視線を走らせる。

畏怖すら感じられる横顔に・・・アギトはゾクリとしながらも、同じように視線を追った。

すると突然、祭壇の奥からまるで生きた炎が龍の形となって渦巻くように、ゴォォォォッと轟音を上げてフロア内を縦横無尽に

駆け回っている。

地面に伏せっていたお陰で助かったようなものだが、もし呆然と立ち尽くしていたら駆け回る炎が直撃して全身火だるまになって

いたところだろう。


「なっ・・・、なんだありゃあっ!?」


ジャックが大声を張り上げて指摘する、・・・しかしそれはあくまで勢いで発せられた言葉であって本当はそれが一体何なのか。

ここまで苦労して辿り着いたメンバー全員が、すでに周知していることだった。

2〜3周程フロア内を飛び回った炎は再び祭壇の奥に飛び込んでいくと、メラメラと1つの塊となってどんどん巨大化していく。

やがてそれが「アラジンと魔法のランプ」に出てきたランプの精のような、体格の良い体つきを形成していくと・・・誰もが

わざわざ言葉にしなくてもわかるように、「それ」が目の前に姿を現した。

それでも・・・、口にせずにはいられない。

誰かが「違う」と言ってくれるのを、・・・期待するかのようにアギトが「それ」の名を口にした。


「もしかしなくても・・・あれがっ、炎の精霊・・・イフリート!?」


期待は無残にも裏切られた・・・、アギトの言葉を否定する者は・・・誰一人としていなかったからだ。 



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