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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~炎の精霊イフリート編~
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第128話 「いざ、火山口最深部へ!」

「おぉ〜・・・、何とか無事みたいだな!」


アギト達は火山地帯から洋館へ戻った後・・・やはりリ=ヴァースの方が少し心配だったので、一度向こうに戻っていた。

最初は洋館に留まるつもりでいたがオルフェ達から、兵力の再編成の方が少し時間がかかりそうだと聞いたので他には特別することもなかった・・・ということもあり、帰る許可をもらったのだ。

今回は今までと違って変則的だったのでとても中途半端な感じがした。

いつもなら日曜の夕方に帰るところを、今回は木曜日に帰ってきたので結局翌日には再びレムグランドへ戻る・・・という変なサイクルに、感覚がついてこない。

たった一日戻っただけだというのに、レムグランドの方の様子がとても気がかりだった。

戦争状態・・・、しかも洋館周辺は特に魔物の襲撃が頻繁に起こるということもあったので、戻った時には洋館がガレキとなっていたらどうしよう・・・なんてことにもなりかねないと心配していたのだ。

しかしいざ戻ってきたら、いつもと何も変わっていない様子で少し安心した。


「もう首都の方から救援部隊の許可が下りたところなのかな?

 ラピードさんの所も結構大変みたいだったし・・・、約束した手前ちゃんと助けに行かないと・・・せっかく向こうは僕達の

 ことを信じてくれてるんだから・・・。」


ラピードとはリュートが火山地帯周辺の調査をした時に出会った男で、炎の精霊イフリートの暴走によって異常気象や強力な魔物の出現により、住民達を避難させている隊を結成したリーダー的存在である。

イフリートの暴走も、アビスとの開戦も全てレムグランド国王のせいだと不信感の募った住民達が多い中、彼・・・ラピードだけは神子のことを信じてくれていた。

その気持ちを裏切るわけにはいかない・・・、リュート達は住民達の安全を確保させる為に必ず救援部隊を送ると約束したのだ。

勿論それはオルフェもザナハも了解済みであり、その旨を記した手紙をすぐ首都の方へと送っている。

しかしアギトとリュートはリ=ヴァースへ帰っていたので、その後の経過を知らない。

二人はいつものように地下室から出て、まずは適当に持ってきた荷物を自室に置いてオルフェを探した。

基本的には事情を知っている者なら誰でも良かったのだが、オルフェに聞いた方が手っ取り早いと思ったのだ。

アギト達は念のため外の様子を窓から覗き込んだ。

様子は以前と変わらない、もし何か大変な事態に陥っていたなら呑気に洋館の周辺を警護していたりはしないだろう。

もしまだ兵力の再編成をしている最中ならば、作戦会議室にいるのかもしれないと思って・・・まずはそこに走って行った。

オルフェは礼儀にうるさいので一応ノックしてみる。


「はい、どうぞ。」


ミラの声がした。

オルフェの右腕であるミラが会議室にいるということは、オルフェもここにいる可能性が高いと思ってドアを開けて入った。

軽く会釈してミラに挨拶をする。

ミラは笑顔で出迎えてくれるが、席に着いたまま難しい顔をしているオルフェはちらりとこっちを目で確認しただけで殆ど無視に近かった。

オルフェがあからさまに無視する時は、大体面倒臭いことになっているんだな・・・とアギトは直感した。

二人はミラの方へ静かに近寄ると耳打ちする位の小声で、一体どうしたのか聞いてみた。


「実はグレイズ火山近辺への調査隊派遣と、救援部隊の要請が却下されたんです。

 アシュレイ殿下が何とか取り計らおうとしたらしいのですが、ほぼ全ての兵力は首都に集中させるようにとの国王命令があって

 向こうも兵力を割くわけにはいかなくなってしまったんです。

 元々アビス人の侵攻はレムグランド一帯ではなく、国王がおられる首都を目標にしていますからね。」


厳しい表情のままミラが答えていると、そのすぐ横でオルフェの大きな溜め息が聞こえてくる。


「というわけでグレイズ火山一帯の問題を手早く解決させる為に、私達は一刻も早くイフリートとの契約を果たさなければ

 いけなくなりました。

 まぁ・・・それが本来の目的ですから、当初の計画と何ら変わりはないですがね。」


オルフェが割り切ったというか、開き直った風にそう断言したのでリュートは若干慌てて聞き返した。


「え・・・っ、それじゃ避難している住民達の護衛は一体どうなるんですか!?

 まさかこのまま見捨てる・・・なんて言わないでしょう!?」


リュートの慌てように、オルフェは面白がっているのか・・・いじわるそうな笑みを浮かべながら否定した。


「勿論、国民を守るのが軍人の義務ですからね。

 当然見捨てたりなんかしませんよ、私が言いたいのは・・・イフリートと契約を交わせば火山地帯で起こっている問題の殆どが

 おおよそ解決する・・・、と言っているんです。」


まだはっきりと理解しきれていない二人に、ミラが補足する。


「つまり、火山地帯に住む人々を脅かしているのは炎の精霊イフリートが暴走している為に起こっている、異常気象と魔物の襲撃。

 ここで私達がイフリートの暴走を食い止めてアギト君が契約を交わせば、まずは火山地帯周辺の異常気象が治まるはずです。

 異常気象によって凶暴化、及びパワーアップした魔物のレベルも通常の状態に戻るでしょう。

 アビス人の侵攻だけは私達の力だけでは防ぎようがありませんが、少なくとも現状よりはマシになるはずです。」


全てはイフリートとの契約にかかっている・・・、そう言われてアギトは一瞬冷や汗をかいた。

なんだか遠回しにプレッシャーを与えられているような感じがして、思わず苦笑してしまう・・・というか笑うしかない。


「つまり・・・、すぐに火山地帯へレッツゴー・・・ってわけか?」


「準備は万端、ですよね?」


にっこりと悪魔の微笑を浮かべたオルフェは、すぐさま席を立つと今すぐ・・・と言わんばかりにミラに全員集合するように命令した。

今さっきここに来たばかりなんですけど?・・・と言いたいが、そういうわけにもいかなさそうで諦める。

今まではのほほんと、のんびりと・・・レムグランドへ来た直後は、ちょこっと話でもして・・・それから続きはまた明日。

という風にまったりとした始まり方であった。

当然準備と言われても、荷物の殆どは洋館の自室に置きっぱなしにしてあるからある程度は揃っている。

しかし段取り説明をしたわけではないから、火山口内部の探索に何が必要なのかはまだ何も聞かされていない。

オロオロしたままオルフェとミラについて行く二人、いつも腰の重いオルフェが今日はやけに機敏だ・・・と不思議で仕方がない。


(それだけ余裕がない・・・ってことなのかな。)


首都の防衛もかんばしくなさそうだし、その上火山地帯周辺の救援まで考えると当然手が回らないだろう。

ヘタに主要メンバーを救援チーム、あるいは洋館防衛チームに配属したところで火山口攻略が進まなければ、いつまでたってもこの状態は良くならない。

考え抜いた結果、1つ1つ解決していく方を選択したのだ。

確かにオルフェの言うことは筋が通っているように思えた。

マナ天秤の均衡が崩れたことでイフリートが暴走しているのなら、それをまず鎮めなければ火のマナのバランスはますます乱れることだろう。

噴火、気温上昇、火のマナ充満による魔物の活発化。

元を辿れば全てイフリートに通じている。

火山地帯を攻略すればそれらの問題が解決して、住民達の危険も少なくなるはず。

そうすればわざわざ兵力を分散させずに済む・・・、まさに一石二鳥だ。

問題は・・・、火山口攻略がどれ位かかるのか・・・それからイフリートの試練にアギトが合格するのかどうかだ。


アギト達以外の全員がすでに準備万端だったようで、ミラが招集をかけたらすぐに集結することが出来た。

すぐさま全員、地下室に下りて行って再び魔法陣に人数分入っては移動をして・・・火山地帯へと足を踏み入れる。



涼しい洋館から一変、気温上昇によって喉が焼けそうな位の熱気の中に放り込まれて、思わず息が出来なくなったのかと錯覚する。

じりじりと皮膚が焼けるような痛みを感じて、5分と経たず全身汗まみれになっていた。

すぐにでもウンディーネの結界が欲しいところである。

しかし使い所を間違えないようにしなければ、火山口最深部でザナハの精神力が尽きたら全員蒸し焼きになってしまう。

まずは火山口内部へと通じる洞穴まで歩いていかなければいけない。

アギト、リュート、ザナハ、ドルチェ、オルフェ、ミラ、ジャック・・・いつものメンバーで洞穴目指して歩いて行く。

長期戦に耐えられるように、前衛と後衛に分かれて戦闘自体を分割した。

リュート、ドルチェ、オルフェが前衛となる。

魔物が進行方向から現れた場合は、このメンバーが積極的に倒していくのだ。

後衛メンバーはあくまで後半戦・・・そしてイフリートとの試練の為に温存する形を取っておく為だった。

出来れば前衛メンバーで全て乗り切るつもりでいるが、途中でアビスからの刺客が現れないとも限らない。

全員の体力が出来るだけ均等になるように配慮しながら洞穴内へと入って行く。


「前回はどの辺まで入りましたか?」と、オルフェ。


「大体15分程まで入りましたが、3名では敵の迎撃に精一杯でした。

 加えてザナハ姫には結界を張ってもらっている中、水属性の攻撃魔法も使用していましたから・・・。」


前回アギトとザナハとミラで洞穴内を探索した時の話をした。

ただ奥へ進むだけならともかく、ザナハに至っては水の結界を張っている間のMP消費と水属性の魔法を使用しっ放しだったので

疲労は相当なものだった。

その時でも、ザナハには出来るだけ結界に集中してもらって・・・攻撃はザナハ以外がするべきだと結論したのだ。


「ではアギト、ザナハ姫、ジャックはイフリート戦に備えて温存するようにしてください。

 最深部に到着するまでは私達で何とか踏ん張りましょう。」


微笑みながら頼もしい言葉を言うオルフェだったが、その顔は踏ん張る役をリュート達に押し付けるような・・・そんな暗黙の意味が含まれているように思えた。


火山口内部はそれ程入り組んだ様子もなく、魔物の襲撃さえなければ案外早く最深部に到着しそうな道のりだった。

道幅が狭い崖っぷちのような道もあってすぐ下を覗き込むと、骨まで溶かしそうなマグマがぐつぐつと煮えたぎっており、目まいがしてくる。

一応ウンディーネの水の結界のお陰で、気温による暑さだけは免れているが回りの光景を目にするだけで暑いという感覚が戻ってきそうだった。

魔物が襲ってくる度に応戦するが、レベル自体がハンパないオルフェやミラの活躍があってリュートは殆ど出番がなかった。

レベルアップのチャンスとも思ったのだが、自分の力で敵に攻撃を与えたり魔法を使用したり・・・そういったアクションを取らなければ経験値が入らない・・・という落とし穴に見事はまってしまっている。


「はぁ・・・、アギトに教えてもらったゲームなら戦闘に参加するだけでも経験値が入ったのにな・・・。」


そう呟いてみるが、ゲームと現実じゃ違いがあり過ぎて・・・比べるのも億劫おっくうになってくる。

火山口内部に突入して、かれこれ1時間が過ぎようとしていた。

辺りを見回すと今までと明らかに違う・・・、突然目の前に大きなフロアのようなものが広がっていて壁には自然に出来たとは思えないような幾何学的な文様が施されている。

足元も地面ではなく石畳のような床になっていて、明らかに別の空間になっていた。


「もしかしてここが炎の精霊イフリートがいるっていう・・・、グレイズ火山の最深部か!?」


待ってました・・・とは言えない、複雑な口調でアギトが言葉を発した。

緊張が走る、もうすぐ精霊と対面することになる・・・。

しかもその精霊と対決して、それに勝利すれば精霊と契約を交わす・・・という未体験ゾーンへと突入することになるのだ。

口から心臓が飛び出て来そうな位にドキドキと・・・心臓が高鳴り出す。

吐きたい・・・、アギトは無性にそう思ったが当然そんなことをするわけにはいかない。

おもむろにオルフェの方に視線をやって、精霊を呼び出すのは一体どうするのか・・・それを観察するように行動するのを待った。

そもそも水の精霊ウンディーネとの契約も、アギト達は見学することすら出来なかった。

自分達が元の世界に帰っている間に契約を果たした・・・という反則技をされたので、精霊を呼び出す手順を全く知らないのだ。

オルフェが一通り辺りを見回すと、「ふむ」と言ってフロア内の中心へと足を踏み入れた矢先だった。

突然奥の方から何かの魔法か・・・、オルフェの足元目がけて何かが爆発した!

すぐさまオルフェは後ろに跳び退って身を屈めながら、魔法を放った人物を目で捉える。


「随分と遅かったな・・・、ディオルフェイサよ。」


その声には聞き覚えがあった。

しわがれた老人の声、奥から現れた人物・・・それは以前アギト達の刺客として現れておきながら異常気象の被害に遭って熱中症で倒れた軍団長。

床を引きずる位に長いローブを纏った白髪の老人、ゲダック。

そして懲りもせず赤と黒のとげとげしい鎧で完全武装した武人、ヴァルバロッサ。

二人が悠然とアギト達の前に立ち塞がった。

敵を確認すると、オルフェは冷たい笑みを浮かべながら二人を見据える。


「まさか最深部で現れるとは思っていませんでしたよ・・・。

 ここは水の精霊の加護がなければ立ち入ることすら出来ない過酷な環境・・・、私達との決闘の場にここを選ぶなんて

 正気の沙汰ではありませんね。

 一体どんな魔法を使ったのですか?」


メガネの位置を直すフリをしながらそう尋ねると、ゲダックはこともあろうに親切に答えた。


「お前達に光の神子がいるように・・・、わしらにも神子がいる・・・闇の神子がな!」


「・・・どこに?」


目の前を見渡すが、彼らの他には誰もいない。

そんな素直な言葉が癇に障ったようで、また少し怒りのボルテージが上昇したのか・・・ゲダックの顔が赤くなる。

すぐに冷静さを欠くのがゲダックの欠点なのか、ヴァルバロッサが彼の代わりに答えた。


「我らの神子は、ここにはいない。

 しかし、神子の力によって我らには・・・氷の精霊セルシウスの加護がある。

 そこの脆弱ぜいじゃくな神子とは違い、我らの神子はアビスの中でも女王に匹敵する程の魔力の才を持っているのだ。

 わざわざ前線に立たずとも我らに施した加護は、遠く離れていても持続する・・・。」


納得した・・・とでもいう風に、オルフェは彼らを一瞥するとどこからともなく・・・光と共に槍が現れて構える。

すでに戦闘態勢を取っているオルフェに続いて、ドルチェとジャックも武器を構えた。


「では、ここで決着を着けることがお望み・・・というわけなんですね?

 いずれは全員片付けていかなければいけませんからね、ここで二人消しておけば・・・こっちも後がラクになります。」


余裕の笑みを浮かべたまま豪語したオルフェに、ヴァルバロッサは自身のプライドに障り・・・言葉を荒らげた。


「抜かせっ!

 お前等にこれ以上好き勝手させるわけにはいかん!!覚悟しろっ!!」


巨大な大剣を軽々と振り回して構えるヴァルバロッサに、威圧的な殺気をあてられてアギトとリュートは足がすくむ。

アギトは片刃の剣を、そしてリュートはボウガンを構えているが・・・これ程の殺気をあてられた経験のない二人は震えが止まらなかった。

これが本当の・・・、命を賭けた・・・いや。

信念をかけた戦いだというのだろうか、これまで戦ってきた魔物との戦闘とは決定的に違っていた。

魔物は本能のまま、ただやみくもに襲ってきたに過ぎない。

そしてそれを迎え撃つだけ・・・、アギト達はそんな戦いしか今までしたことがなかった。

そこに信念も、忠義も、プライドもない・・・、しかし今はそんな「思い」を込めた戦いを・・・初めて目の当たりにする。



これが本当の戦い・・・、人と人がぶつかり合う・・・信念をかけた戦いなのだ。



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