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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~炎の精霊イフリート編~
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第127話 「ひとまず洋館へ」

 アギト達が小屋に戻って数十分後に、リュート達が戻ってきた。

火山口内部の様子、そしてグレイズ火山周辺の異変について・・・おおよそオルフェに報告を済ませるとアギト達は早速この暑い環境から脱出しようとする。


「そういえばこのトランスポーターって、反属性同士でないと起動しないんじゃなかったのか!?

 ここには闇属性の人間が二人しかいないから、全員戻るのって無理なんじゃねぇの!?」


アギトの記憶力にオルフェはイヤミったらしく感心すると、補足説明と言わんばかりにトランスポーターについて言葉を付け足した。


「よく覚えていましたね、確かに異世界間の移動を行なうには反属性同士のマナでなければ起動しません。

 しかしレムグランド内にある地域ならば、そういった制約は皆無なんですよ。

 レイライン上に魔法陣を描きさえすれば・・・誰でもレムグランド内の地域なら、移動は可能です。

 それでも人数制限だけはありますがね・・・、一度に転送出来るのはせいぜい4人までが限度です。」


アギトとリュートは、その説明を聞いて何となく納得した。

しっかりと頭の中に刻みつけるように、リュートは口に出して反復しながらメモ帳に書き込んだ。


「えっと・・・、リ=ヴァースへ移動する時には反属性同士のマナを持った人間でないと起動しない・・・っと。

 レムグランド内を移動する時はマナは関係なく起動・・・、4人までが一度に転送出来る・・・か。」


異世界間を移動するようになってまだ三カ月程しか経っていないが、リュートが書き続けたメモ帳はもうすでに半分位埋まっていた。

それだけ覚えなければいけないことが山のようにあったし、わからないこともたくさんあった。

到底頭の中では覚えきれないことも書いてあるので、メモ帳のページがどんどん消費されていくのは当然である。

しかしメモ帳を書く度にリュートはアギトの方をちらりと見るが、アギトが覚え書きの為に何かに書き写したりしている光景をこれまで一度も見たことがなかった。

リュートとは全くの正反対で、アギトは殆ど全て記憶しているのだ。

しかし、その記憶も正確なものではなく・・・忘れたら聞けばいい、という考えの元で・・・敢えて書かないのである。

先程のトランスポーターのことでわかったことだが、アギトは意外にも結構覚えていたりするので少し悔しかったりする。

リュートがメモ帳をガン見しながら難しい顔をしていたので、オルフェがリュートに視線をやって声をかけた。


「リュート、そろそろ洋館へ移動したいのですが・・・準備の方はよろしいですか?」


そう声をかけられて、リュートはふっと我に返って慌てて返事をした。


「あ・・・はいっ!」


メモ帳を急いでしまって、どういった手順で還るのか・・・みんなの様子を窺う。

小屋の外から馬車を引いていた馬を二頭連れて来ると早速、馬と御者を先に洋館へ還そうとしていた。

馬の姿を見た途端、かなり違和感があって「なぜ馬も?」と聞こうとしたが・・・聞かずともすぐに答えはわかっていた。

こんな危険な場所に馬だけ置いて行っても異常気象によって馬が死ぬか、魔物に襲われてしまうか・・・そのどちらかしかない。

ここまでやってきた生物はみんな、一度洋館へ戻すのが当然だろうと理解した。

オルフェ達が平然とトランスポーターを使用しようとしているので、この世界の人間にとってはごく当たり前に使用されている移動手段かと思いきや、御者の二人はトランスポーターを使うのが初めてらしく・・・かなり緊張していて、不安そうだった。

魔法陣の中に入るのを躊躇っていたので、オルフェは仕方ない・・・と肩を竦めて魔法陣に入る人間を変更した。


「それでは最初に移動するのは御者一人と馬一頭、それからジャックとドルチェ・・・この三人と一頭で先に移動してください。

 もし万が一、洋館の方で異変があった場合を想定して最初のメンバーが移動してから5分程・・・時間を置きます。

 その5分の間に何事もなく誰一人としてここに戻って来なければ、続けて次のメンバーを移動させます・・・いいですね?」


ジャックとドルチェは静かに頷く、・・・当然最初に移動するメンバーに選出された御者は顔色が悪くなっていたが。

だがオルフェの考えはもっともである、今このレムグランド・・・特に洋館近辺では魔物が大量発生しているのと同時にアビス人の

襲撃を受けている可能性は十分に考えられた。

そんな中、いきなりザナハ辺りを移動させて・・・洋館がすでにアビスか魔物によって占領されていたらシャレにならないだろう。

状況確認も兼ねて、先発隊にジャックとドルチェを選出したのだ。

ドルチェなら犬のぬいぐるみ「ペス」を装備しておけば、敵の気配をいち早く察知することが出来るので様子見にはうってつけだ。


「洋館の方に問題がなければそのまま2番手が行きます、残りの御者と馬・・・そしてザナハ姫と中尉に移動してもらいます。

 最後にアギト、リュート、それから私が移動します。

 では・・・、先発隊は早速魔法陣の中に入ってください。

 マナの放出は結構、こちらで操作しますから何も考えずにただ魔法陣の中で立っているだけで構いませんよ。」


オルフェの合図でジャック達は魔法陣の中に入ると、何の問題もなくあっという間に光に包まれて消えてしまった。

アギト達は魔法陣の中にいる人物がどんな風に消えていくのか、この目で見たのは初めてである。

いつも移動するのは自分達だったので、ジャック達が消えたのを見て思わず歓声を上げて驚いていた。

興奮しまくるアギトを放っておいて・・・全員が、洋館の方で何もないことを祈りつつ5分過ぎるのを、ひたすら待ち続ける。

こういう状況だと、5分という時間はとてつもなく長く感じた。

さすがにつまらなくなってきたアギトは、小屋の隅に座り込んで適当に話題を切り出した。


「さっきリュート側の報告で気になることがあったんだけどさぁ、この地域の避難民を守る為の兵士って派遣出来んの!?

 確か洋館の方でも人手不足とか言って首都から増援部隊が来たばっかだったじゃんか、・・・大丈夫なのかよ。」

 

特に困った様子もなく、オルフェがあっさりと回答する。


「それは向こうに戻ってから色々と段取りをします。

 この火山地帯の異変に関しても調査をしなければいけませんからね、戻り次第首都のヴィオセラス研究所に事の顛末を書いた手紙

 を送って・・・何とか研究員数名と救援部隊を要請出来ないか申請してみます。

 もしそれが叶わなければ・・・、私の部下から絞り出す他ありませんね。

 今は開戦状態で首都の方も余裕がないはずです、最悪の場合・・・洋館にいる兵士の殆どをこの地域に送り込んで私達の何人かが

 洋館に残って守りを固める・・・ということになると思います。」


「え・・・っ、それって・・・僕達のメンバーの誰かが火山口探索のパーティーから離脱するってことですか!?」


リュートは愕然とした、確かにこの地域の避難民を守るとキャラバン隊のリーダーであるラピードと約束したのだからそれを果たさなければいけないのは当然だ・・・。

この地域に住む人達も、自分達が守るべき国民なのだから。

兵力をこちらに回すことが出来ないとなったら、当然洋館にいる兵士の中から絞り出すしか方法はないが・・・。

そうすれば今度は洋館の守りが薄くなる・・・、正直リュート達にとって洋館の存在がどれだけ重要な施設なのかはあまり把握してるわけではないが、少なくとも常に洋館を本拠地・・・活動拠点としていたので「家」のような愛着だけは確かにあった。

その洋館を守り抜く為には、それなりの戦力を残しておかなければいけない。

しかも洋館がある地域はレイラインの真っ只中で、特に魔物が多数出現する地域でもあったのだ。

そうなればやはり、それなりの兵力を備えておく必要がある。

オルフェがもし・・・、いや今の現状では確実といってもいいが・・・パーティーの中から誰かを洋館の防衛の為に残すとなったら誰を残すつもりなのか・・・予測してみる。

ある程度予測することで心の準備をしておけば、精神的ショックを軽減させることが出来るかもしれないと思ったのだ。

いざ誰かが抜けた時に、予測をしているのとしていないのとでは大きく精神面に違いが出るだろう。

リュートは真っ先に自分を入れた・・・、洋館の守り手としての力が備わっているのかどうかは別として・・・イフリートとの契約をするのに自分が一番必要がないと思ったからだ。

火に対して特に強い属性というわけでもない、戦力的に見ても自分がいようがいまいが・・・あまり大差ないと考えたのだ。

勿論、真っ先に自分が必要なさそうだと頭をよぎった瞬間・・・ものすごく自分が情けなくてがっかりした。

しかしアギト、リュート、ザナハ、ドルチェ、オルフェ、ミラ、ジャック・・・。

このメンバーの中からたった一人を洋館に残すことで、事足りるとは到底思えない。

少なくとも二人か・・・多くても三人は洋館に残すと言われてもおかしくないだろう。

アギトはイフリートとの契約に最も必要な人物だから、外すことはまず有り得ない。

そしてザナハ・・・、火山口内部を探索するにはウンディーネの協力が必須だからザナハも外せない。

特に火山地帯の魔物を相手にするなら、最低でも水属性の魔法・・・もしくは回復魔法を扱う人物は重要になるはずだ。

それならばドルチェの場合は、水属性を持つぬいぐるみを持っている為・・・もしかしたらメンバーから外されないのかもしれない。

そしてオルフェ・・・、オルフェも水や氷属性を操れるはずだから残る可能性は十分にある。

・・・それに現時点で最も頼りになるリーダーはオルフェだ、指揮する人物は欲しいところだと・・・、リュートは思った。

となれば・・・、メンバーから外される可能性があるのはやはりリュート、ジャック、そしてもしかしたらミラも可能性がなくはない。

特にミラの場合は、洋館の兵士達を指揮するには一番適格だろう。

・・・おおよそ見当がついてしまって、かえってがっかりしてしまうリュート。

肩を竦めて暗い表情になるリュートを見て、オルフェは含み笑いを浮かべていた・・・もしかしたら見透かされていたのかもしれないと・・・リュートは苦笑いを浮かべて誤魔化そうとするが・・・かえって怪しかった。


「まぁ・・・この数日の間に洋館に残っている兵士達の連携がうまくいっていれば・・・無理矢理メンバーを割く必要はないんで

 すけどね。

 あくまで最悪の場合を言ったまでですから・・・。」


そう後になって付け足されて、リュートは「やられた・・・」と一気に疲労が溜まった気分になる。

すると突然ミラが立ち上がって魔法陣の方へと進み出た。


「大佐、5分経ちました。

 どうやら向こうの方は大丈夫のようですね、・・・続けて2番手行きます。」


ミラの言葉に御者は遂に自分の番が来た・・・と緊張が増した表情になって、馬と共に魔法陣の中へと足を踏み入れる。

ザナハもミラについて行って、魔法陣の中に立った。


「あの・・・、ジャックさんが戻って来なかったから安全・・・というのはどんな根拠でそうなるんですか?

 もしアビス人に占拠されていたとして・・・、魔法陣から出てきた途端に捕えられたとか・・・そういう可能性もあるんじゃ?」


「確かにそうだよな、もしかしたら魔法陣に戻るな!とか言われてるかもしんねぇじゃん!」


二人の言葉にオルフェは、魔法陣を起動させるのを少し止めて・・・先に説明してやった。

その間も、待たされている御者の顔は青ざめて行っている。


「もしそういった状況になっていたら、ドルチェが魔法陣の機能を停止させるようになっています。

 洋館の方の魔法陣が機能停止になったらこちらの魔法陣も光を失って、同じように停止状態になります。

 未だに光を放っている・・・ということは、向こうでも機能を存続させているという証拠なんですよ。」


「でも!

 魔法陣に何もするな!って、武器を向けられていたりとか・・・!」


なかなか納得しない二人に、オルフェは深く溜め息をついて短く返答した。


「武器を向けられていようと、瀕死の重傷を負ったとしても・・・ドルチェは命がけで魔法陣の機能を停止させて、こちらに異常を

 知らせようとします、・・・これでいいですか?他に質問がなければ、魔法陣を起動させますよ。」


オルフェの言葉に、それ以上質問はしなかった・・・出来なかった。

二人が食い下がったのを確認すると、オルフェはようやく起動に集中して魔法陣の中に立っていたザナハ達が光に包まれて洋館の方へと移動した。

後には3人しか残されていない・・・、なんとなく重苦しい空気の中・・・アギトが魔法陣の方へと進み出てぶっきらぼうに言葉を発した。


「んで?

 もう5分とか待たなくてもいいんだろ、そんじゃさっさとこんなクソ暑い場所からオサラバしようぜ!」


「そうそう、そうやって物分かりの良いフリをしてくれたら・・・私もとやかく言わなくて済むんですよ。」


にっこりと笑顔を作ってさらりとイヤな台詞を吐くと、またアギトの顔がふてくされてしまってリュートはオロオロする。

それでも全く相手にしない態度で、オルフェも魔法陣の中に入った。


「大佐・・・、一番最後の場合は魔法陣の操作はどんな風にするんですか?

 魔法陣の中からでも操作出来るんですか?」


魔法陣がまだ起動していない内に、自分達が移動する場合のことを念のためリュートは聞いておいた。


「いえ、操作する人物は魔法陣の外にいないといけません。

 ですから私達の場合は、微量にマナを放出するだけで構いませんよ。

 君達は何度も経験しているから簡単でしょう、今まで通りにすれば問題なく移動が出来ます。」


「全員移動し終わったら、この火山地帯にある魔法陣はどうなるんだ?

 もし魔物か・・・さっきの熱中症バカが起動させたりしたら・・・。」


「さっき言ったでしょう、洋館の魔法陣の機能を停止すればいいんです。

 例え火山地帯の・・・この魔法陣を彼らが起動させたとしても、洋館の方の魔法陣は私がロックしますからね。

 向こうから洋館に侵入することは出来ません、心配する必要はないんですよ。」


「あー、はいはい。 

 オルフェは完璧ですよ、聞いたオレ達が悪かったっての!」


オルフェがいる方とは正反対の方へ顔を背けて、アギトは言われた通りにマナを放出した。

3人全員がマナを放出したと同時に、瞬きする程の早さで・・・次の瞬間には見慣れた地下室の光景が広がっていた。

さっきまで蒸し暑かった空気から一変、とても澄んだ空気の中にいるような感じがして・・・無意識に笑顔が広がる。

地下室の中にはザナハ、ドルチェだけがアギト達を待っていた。


「あれ?ジャックさんと中尉は・・・?」


リュートが地下室の中をきょろきょろと見渡してから、二人に尋ねる。

するとザナハがなんでもないというような表情で答えた。


「二人なら御者と馬を地下室から出す為に、一緒について行ったわ。

 この地下室は限られた人間しか出入りしないからね・・・。」


「ふ〜ん、そうなんだ。」


「んなことより、次はいつ火山地帯に戻るんだよ!?

 まさかちょっと休憩したらすぐに戻るとか、言わねぇよな・・・?」


せっかく洋館に帰って来たばかりでほっと一息ついているのに、またすぐあの暑苦しい場所へ戻るんだと考えただけでも嫌気が差してくるのは、アギトだけではなくリュートも同じ気分だった。

恐る恐るオルフェの方を振り返りながら、どんな決断が下されるのか返答を待つ。

二人の半泣きの顔を見て、いじわるそうな笑みを浮かべたが・・・返って来た言葉はイヤミや嫌がらせでなくて安心した。


「火山地帯へ戻るのは、まだ当分の間延期します。

 まさかあそこまでマナ天秤による影響が出ているとは思ってもいませんでしたからね、とりあえず私達の方で調査隊の派遣と

 救援部隊の要請の段取りがついてから、再度契約の旅を決行しようと思います。

 その間は・・・、そうですね。

 君達もまぁまぁのレベルに達したようですから、このまま残ってレベルアップを続けるか・・・リ=ヴァースの様子が気になる

 ようでしたら一度還っても構いませんよ?

 こちらとしても1〜2日で段取りがつくわけではありませんからね。」


オルフェの言葉に、アギト達は胸を撫で下ろして安心しきった顔になった。

それを見たオルフェから一瞥されたが、とりあえず気にしないようにして二人はまず自室に戻って休むことにした。

とにかく疲れた・・・、この数日の間ゆっくりと睡眠を取っておらず気の抜けない日々だったので精神的にも肉体的にも疲労はピークに達していたのだ。

加えて、野宿が続いたこともあって慣れない地面での睡眠だったので全身が筋肉痛にでもなったみたいにガチガチだった。

二人は地下室に残っていたザナハ、ドルチェ、そしてオルフェに自室に戻って休むと一言告げてから・・・あっという間に地下室から出て行って・・・自室に備え付けてあるシャワーの取り合いをしながら汗を流して、それからベッドに勢いよく横になると死んだように深い眠りについた。


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