第125話 「洞穴内の探索」
アギト、ザナハ、そしてミラ達一行はオルフェから与えられた任務を遂行する為に、火山口へ続く洞穴を調査しに来た。
途中に何度か魔物と遭遇したが、パーティーには水属性を持つザナハがいたのでそれ程、手こずることもなかった。
ミラは度々地図を取り出しては位置を確認していたので、アギトが少し疑問に感じて質問をする。
「そういえばさぁ、リュート達に与えられた任務って・・・この近くに人里がないか探索することって言ってたよな?
地図があるのにどうして探索する必要があるんだ?
それを見ればこの近くに村があるのかどうか位、すぐにわかりそうなもんだろ。」
そう聞かれ、ミラは周囲を警戒しながらも疑問に答える。
「ゲダック先生達の話を信じるならば、精霊の暴走は周囲にかなりの影響を与えていると想定出来ます。
このグレイズ火山周辺の異常なまでの気温上昇、それに気のせいか今まで出現した魔物達も強さを増しているように思えます。
レムグランドでは、特にレイラインの強力な地域にヴィオセラスの研究員が配属されていて、土地の異変などを定期的に報告する
ように義務付けられているんです。
今月の定例報告書には、現在起きている現象に関しては何も書かれていませんでした。
・・・となれば、この現象はつい最近起こったものと・・・大佐は考えられたのでしょうね。
こんな環境で一般人が生活など出来るはずもありません、恐らく地図に書かれている村にはすでに避難勧告が出されて
もぬけの殻になっている可能性が高い・・・。
それならば、この地域に住んでいた村人達の安否を確認する為にも・・・避難場所を特定させる必要が出てきます。」
アギトは足元に転がっている石を蹴り飛ばしながら、難しい表情をして聞き返す。
「だからその避難場所って・・・、地図に書かれてないのか?
いくらなんでも何もない場所に避難するなんてこと、有り得ねぇだろ。」
「ミラ・・・、確かグレイズ火山の周辺には幾つか村があったわよね?
オルフェはグレイズ火山周辺の異変が、どれ位の範囲に現れているのか・・・その確認も含まれているんじゃないの!?」
ミラは静かに頷きながら、視線を再び進行方向に向き直して言葉を続けた。
「はい、恐らくは。
さっきアギト君が言ったように・・・地図に書かれてもいないような場所に、住民を避難させるわけがありません。
各地域に配属されている憲兵が安全だと判断出来る地域、・・・つまり他の村や町に避難させるはずです。
それには被害が発生している地域から離れる必要がある・・・、ですから住民が滞在している場所こそが被害の最も少ない場所。
これがグレイズ火山を中心とした異変の最大範囲だと、測定することが出来ます。」
頭をぼりぼりとかきながら、アギトは眉根を寄せてミラの言葉を整理する。
「え〜っと、つまり・・・!?
暴走の被害に遭っている場所と、遭っていない場所の境界線を探ってる・・・みたいなもんか?
でもオレ達が夕べ襲われた村はどうなるんだ!?
あそこは・・・まぁ確かにクソ暑いっちゃークソ暑かったけど、ここみたいに干からびる程のモンじゃなかったじゃん。」
口元に手を当てながら、考え込むような仕草をしながらミラが推測をする。
「・・・でも何らかの被害を受けているとは思いますよ。
洋館に戻るまでは、その村に起きている被害を細かく調査することは出来ませんが・・・。
殺気立った住民達の様子から見て、精霊の暴走による何らかの被害に遭っているのは間違いないと思うのですが。」
一瞬沈黙が流れた中、ザナハがその空気を一蹴するように声を荒らげた。
「あーもう!!
わかんないことをうだうだ考えてたって、何も始まらないじゃない!
それは後で考えましょう、・・・てゆうかそれは村の探索をしているジャック達の仕事よ。
あたし達は早いところ洞穴を見つけて、中がどうなっているのか・・・それを調べるのが先決でしょ!?」
「・・・とか何とか言って、話の意味がワケわかんねぇようになったから・・・ただ誤魔化してるだけなんじゃねぇの!?」
からかうような目線でザナハを見据えると、その視線にザナハはキッと睨みつけながら握り拳を見せつける。
アギトはすぐにそっぽを向いて、駆け足でミラの後をついて行くと・・・再び任務に戻って歩き続けた。
地図の通り歩いて行くと、グレイズ火山のふもとにそこそこ大きな穴が開いている。
穴の大きさから見てかなり深くまで続いていそうな印象を受ける、ミラは「ここです」と地図を見ながらそう言うとザナハに視線を送った。
ザナハは静かに頷くと、再びウンディーネを召喚して先ほど小屋に結界を施したように・・・アギト達の周囲に薄く透明な膜を張り巡らせた。
「うわ・・・、なんだこれ!?」
そう呟きながら、アギトがその薄い膜に触れようと手を伸ばしたらまるで水面を指先で撫でたように、1センチ程の厚さの水が張られている。
そのまま手を伸ばしても薄い水の膜は割れて無くなることがなく、あっさりと膜の外へと突き抜けることが出来た。
アギトの仕草を横目で見ながら、ザナハが補足説明をする。
「水の結界といっても、周囲の熱気を遮断するだけだからね。
外界から隔離してるわけじゃないから、魔物に遭遇したら・・・誰でもあっさり結界の中に侵入出来てしまうわ。
一応パーティーを中心として結界が張られているけど、その範囲も限られているの。
今あんたが手を突き出したみたいに、簡単に範囲の外に出てしまう・・・。
結界の中にいる為には、出来るだけ全員が密集する必要があるわ。
・・・戦闘になったらかなり不利になるってことね、だから出来るだけ魔物に遭遇しないようにしないと。」
「ふ〜ん・・・、精霊の力といっても無限なまでに万能ってわけじゃないんだな。」
アギトがなんとなく放った言葉に、ザナハはすぐさま反論した。
「あのねっ!!
ウンディーネの力があるから、こういうことも出来るのよっ!?
本当ならこんな密閉された空間に足を踏み入れたら、さっきの軍団長みたいにすぐさま暑さにやられてヘタしたら死んでしまう
位の環境なんだからっ!!」
何気ない言葉に思いも寄らない怒りを浴びせられたアギトは、何をそんなに怒っているんだとでも言いたげな・・・面倒臭そうな
表情で軽く謝罪した。
「何をそんなにキレてんだよ!?
あ〜はいはい・・・お前はスゲェよ、つーかウンディーネの凄さはわかったから・・・怒鳴んなよ。」
心から謝っていないアギトの態度に不満を感じるザナハだが、突然奥から現れた魔物に続きの文句を言う暇がなかった。
すぐさま3人は武器を構えて、迎撃する。
敵はオタレド3匹・・・、しかし火山地帯周辺に出たオタレドとは違ってレベルが少々高かった。
戦闘テロップで確認したら3匹共、レベルが50もあったのだ。
「おいおい・・・、同じ種類でこんなにもレベルが違うのは反則なんじゃねぇのっ!?」
そう文句を言いながら、アギトは剣を構えてザナハ達の前に出る。
ミラはザナハを守るように中衛の位置に立って銃を敵に向けながら、全く違う場所から更なる増援がないか周囲に気を配る。
「もしかしたらこれも異変による影響なのかもしれませんね。
属性が与える影響は、環境の変化だけではありませんから・・・。
特に同属性ともなれば魔物に与えるマナが過分に蓄積されて、こういった現象を引き起こしているんでしょう。」
ザナハが呪文の詠唱を始める、アギトは目に頼らないように努めているが・・・やはり慣れのせいかどうしても目でその動きを追ってしまう。
ちらっと背後を見た瞬間、オタレドがジャンプしてアギトに体当たり攻撃を仕掛けてきた。
すぐに視線を戻して何とか体当たりだけは免れたが、後方に飛び退いた勢いで危うく水の結界から出てしまうところだった。
「だぁーもう!!
敵の攻撃を気にしなきゃいけねぇ!味方の動きを把握しなきゃいけねぇ!!水の結界範囲も考えなきゃいけねぇ!!!
集中とか言ってる場合じゃねぇよこれじゃあ!!」
叫びながらその苛立ちを魔物にぶつけて、アギトは連続斬りで応戦した。
ミラは両手に構えた二丁銃でオタレドに射撃しながら、なんとかアギトのフォローと敵がザナハに近づかないようにと立ち回る。
「スプレッド!!」
オタレドの下方から瞬時に水が現れて、それが水柱となって立ち上る。
水圧によってオタレドはダメージを受けて、HPを半分位削ることが出来た。
「反属性の魔法攻撃を受けても、まだHPの半分かよ!!」
オタレドは殆どスライム状の物体の為、物理攻撃ではどうにも分が悪かった。
剣で斬り付けてもぐにゃぐにゃとした反液状の物体には、殆どダメージを与えきれていない。
そういえばオルフェかジャックからの教えの中で、スライムやオタオタ系の魔物は固形の物体ではないから物理攻撃系のダメージを
半減させる特性を持っている・・・という話を聞いたことを思い出した。
それならばミラの銃もそれ程ダメージを与えていないということになる・・・と考えたアギトは、ミラの方を見る。
ミラは顔色ひとつ変えることなく、連射していた。
すると不思議な現象が起きていることを、アギトは発見する。
「あれ・・・、めっさダメージ受けてる!?」
ミラの銃弾がオタレドに命中すると、戦闘テロップのHP表示の数字がものすごい勢いで減っているのをアギトは見た。
つい余所見をしていたアギトは、右側のオタレドに気付かず足に体当たりされてダメージを受けてしまう。
痛みが走るが反射的に剣で薙ぎ払うと後退して、再び間合いを取って体勢を整える。
この不公平な感じはとりあえず後回しにして、今は敵を撃退することだけに集中した。
まずは確実に敵にダメージを与えることが出来るザナハの攻撃魔法を頼りに、アギトは敵の侵入を阻むことに専念する。
ミラも同じく銃撃で応戦しながらアギトと同じ行動を取っていた。
水の結界を張ることでもMPは徐々に減少している上、ザナハの魔法に頼らなければならないことに初めて歯がゆさを覚える。
ようやく3匹共撃退することが出来て、アギト達は周囲への警戒を怠らない程度に安堵した。
拳銃をしまうミラに、アギトが早速疑問をぶつける。
「あのさぁ、さっきから質問ばっかしてるんだけど・・・なんでミラの銃撃も物理攻撃なのに、オタレドにものっそ効果があった
んだよ!?
オレの剣じゃ殆どダメージ与えられなかったってのにさ。」
そう聞かれて、ミラは笑顔になりながらすぐにその謎を解いた。
「あぁ・・・、それは弾丸に細工をしているからですよ。
確かに普通の銃撃ではアギト君と同じように、反液状の物体には対したダメージは与えられません。
そこで私はこの火山地帯での戦闘に向けて武器の改良をしていたんですよ。」
ミラは腰に下げたバッグの中から弾丸を取り出すと、それをアギトに手渡す。
弾丸をじっくりと観察するが、そもそも弾丸そのものを間近で見たことが全くなかったアギトには何のことやらわからない。
複雑そうな表情を察してミラが話す。
「普通弾薬の中身は発射火薬が詰められていますが、これには弾体部分に液体窒素が含まれています。
弾丸がオタレドに着弾した時、敵の体は反液状で構成されていますから弾丸は発射の威力によって・・・オタレドの体から
弾かれることなく、体内へと侵入します。
散弾銃と同じ原理で発射とほぼ同時に弾丸はバラバラに弾けて、オタレドの体内に液体窒素がばら撒かれるんですよ。
液体窒素の原理を簡単にいえば、物体を瞬時に凍らせる・・・という化学反応が起きるようになっています。」
ここまでの説明でアギトはピンときた。
右手でポンっと手を打つと、続きを言ってみて自分の理解が正しいのかどうかを確かめた。
「つまりオタレドの体内で拡散した液体窒素が、オタレドを瞬間的に冷却させたことで固形の物体に変化したから・・・ミラの
銃撃でもダメージを通常通りに与えることが出来た・・・ってことか!?」
意外にも理解が早かったアギトに対してミラは目を丸くしたが、すぐさま笑顔になって頷いた。
「そうです、言ってみればこの弾丸を使用することによって氷属性の攻撃を与えたのと同じ効果が得られるんですよ。」
二人で納得しながら語り合う光景を目にしたザナハは、完全に会話から置いてけぼり状態にあっていることを把握して苛立ちが募った。
どすどすと乱暴に地を蹴りながら先を進んでいくザナハに、アギトは何を怒っているのか全くわからない・・・という顔で首を傾げていた。
奥に進んで行くと結界に守られているから暑さ自体は感じなかったが、周囲の状態を見ればこの洞穴内がかなりの高温にさらされているのは明確だった。
回りの光景は熱気のせいで歪んで見え、途中に現れた魔物との戦闘で誤って足の先が結界の外に出た時・・・アギトの靴の先が煙を上げて軽く焦げていた。
結界の外に生身で出たら火傷程度では済まない・・・、そう判断したミラはこれ以上3人だけで奥に進むのは危険だと判断した。
来た道をそのまま引き返して、洞穴を出てから結界が解除される。
ザナハの疲労もかなりのものらしく、少し顔色が悪かった。
「本格的に火山口内部を探索する時には、ザナハ姫には結界を張ることだけに集中してもらわなければいけないかもしれませんね。
洞穴内を往復した時間はおよそ30分程度・・・、更に水属性の攻撃魔法に殆ど頼りきりでしたから疲労は相当なはず。
今後攻撃に関しては、大佐の魔法とドルチェの傀儡を中心に展開させた方が良さそうですね。」
アギト達は結果報告をする為に、再びオルフェがトランスポーター起動の為の魔法陣を描いている小屋へと戻った。
その途中にも当然、魔物が何度か襲ってきた。
もしあのまま奥へ進んでいたら、帰りの体力や精神力が残っていなかったのかもしれないと思うとぞっとする。
戦闘だけではなくこの気温による暑さでも、わずかに体力が消耗されていて・・・気のせいかHPまで削られている気にさえなってくる。
そもそもイフリートの暴走というものが一体どんなものなのか・・・、具体的に想像することは出来なかった。
単純に想像するなら、炎の精霊イフリートのマナの暴走で抑制が利かなくなっているか・・・。
あるいはもっと安易な想像をするなら、イフリートが火山口の最深部で狂気となって暴れているか・・・。
恐らくは前者の方だろうと思いながらアギトは、精霊との契約にだんだん不安が膨れ上がっていって時々・・・逃げ出したくなる
衝動に駆られることもあった。
暴走・・・というからには、普段よりもその力が増しているような印象を受けるのは当然だろう。
ただでさえ当初から精霊と契約を交わす為の試練・・・、イフリートとの対決に関してはかなりの不安と抵抗があった。
それもヘタをすれば一騎打ちという可能性も捨て切れない状態で、・・・暴走という要素まで加わってしまっている。
逃げ出したくなる感情を今まで抑えてこられたのも、恐らく仲間の存在のおかげだろうと・・・アギトは改めて痛感した。
せっかく手に入れた仲間の・・・失望した顔なんて、想像するだけでも恐ろしい。
光の戦士に選ばれた自分を信じるしかない、その気持ちだけでここまで来たようなものだ。
アギトは迷いや不安を振り払うように首を左右に振って、そして前を見据える。
大丈夫・・・、自分はもう一人じゃない。
・・・孤独じゃない。
やっと得られた・・・支え合える仲間がいる限り、自分は前に進める!!
そうしてアギトは新たな決意を胸に、・・・前へと進み始めた。