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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~炎の精霊イフリート編~
125/302

第123話 「ジャックとヴァルバロッサ」

 炎の精霊イフリートと契約を交わす為に、火山地帯にあるグレイズ火山に到着したアギト達一行。

火山のふもとにあった一軒家を発見したアギト達は、その小屋の中にトランスポーターを設置しようと扉を開ける。

小屋の中にいたのは契約の旅を妨害する為にルイドから刺客として差し向けられた軍団長だった。

赤と黒を基調とした鎧で完全武装した巨躯きょくの男、ヴァルバロッサ。

そして緑色のローブを纏った白髪の老人。

アギトとリュートはルイドの部下である軍団長達の顔も名前も知らないが、熱中症で倒れていた二人を発見したジャックと

ミラはどうやらこの二人とはただの知り合い・・・という関係ではなさそうな様子であった。

オルフェに関しては、最初に発見した時と態度は全く変わらず「捨てて来い」の一点張りだ。

ジャックは倒れこんだヴァルバロッサを抱えると、介抱する為に馬車へ連れて行こうとしていた。

しかしそれをオルフェが制止する、リュートが何気なくオルフェの顔を見た時・・・そこにはいつもの笑顔はなく氷のように冷たい表情だけが現われていた。


「何をしているのです、ジャック?

 彼はルイドの部下だと・・・、そう言ってるでしょう。」


オルフェの声はとても静かで・・・、火山による気温の高さなど無視するかのように背筋が凍るような感覚に襲われた。

それでもジャックは肩に腕を回して小屋から連れ出そうとする。


「今はそんなことを言ってる場合じゃないだろうが! 

 例え敵でも、こんな状態なら・・・っ。」


そうジャックが言いかけた時、オルフェは当然だと言うような口調で続けた。


「だからこそ・・・、今ここで息の根を止めるべきでしょう。」


平然と言い放った言葉に、その場にいた全員が息を飲んだ。

オルフェの言葉には冗談も何もない、ただ真っ直ぐに・・・自分達が取るべき行動をそのまま言葉にしていた。

それが恐ろしかったのかもしれない。

暑さで思考が停止していたアギトもさすがに、今の言葉で目が覚めたように意識を取り戻して笑いながらツッコミを入れる。


「いやいやオルフェ・・・、それはちょっとキッツイ冗談じゃねぇのか!?

 捨ててこい・・・までだったらオレも悪ノリして実行する気満々だったけどさ・・・。」


「勿論、冗談ではありませんよ。」


見下す視線に、アギトは鳥肌が立った。

今までも・・・オルフェとは何度か衝突したことはあった。

それでも何とか、お互い話し合ったり譲り合ったりと・・・色々なコミュニケーションを取ることによって、考え方が少しずつ変わっていったと思っていた。

しかし敵に対してのオルフェの態度は・・・、以前と変わらず徹底していたことに気付く。


「こんな状態のヴァルバロッサに何が出来るって言うんだ。」


ヴァルバロッサを肩に担いだまま、小屋の入口をオルフェに占拠され立ち往生するジャックが強く反論する。

それでも断固として道を譲ろうとしないオルフェに、ミラも老人に手を貸して同じように小屋から出そうとした。


「大佐・・・、私達のしていることは確かに反逆行為になります。

 契約の旅を妨害する刺客を救おうとしているのですから・・・、しかし私達は・・・彼等を見捨てることが出来ません。

 彼・・・ヴァルバロッサは、ジャック先輩のかつての友・・・。

 そしてこの方・・・、ゲダック先生は・・・姉さんの恩師でもあるのですから・・・っ!」


ミラの言葉にも全く反応を示さないのか、オルフェはメガネの位置を中指で直しながらさらりと答えた。


「えぇ、知っていますよ。

 彼等が私達と密接な関係にあることすら、ルイドの策の内だということもね。

 だからこそ契約の旅を妨害する刺客を厳選した・・・。

 そこらのアビス人ではなく、我々と深い関係を持つ彼等を使うことで動揺でも誘うつもりなんでしょう。

 ・・・あなた達二人がまんまとそれにはまっているということも、わからないのですか!?」


そう指摘された二人は悔しそうな表情になりながら、押し黙ってしまう。

オルフェの言うことは最もだと、そうわかってはいるが・・・なぜか「違う」とも思ってしまうアギトとリュート。

仲間同士で一触即発になりかけた時・・・、後方からザナハが進み出て素早く水の精霊であるウンディーネを召喚した。


「ザナハっ!?」


「ウンディーネ、この小屋の中を清浄なるあなたの水で結界を張ってちょうだい!」


『わかりました・・・。』


ザナハの言葉に従うと、ウンディーネは両手を広げるような仕草をするとサァーっと小屋の中全体が一気に涼しくなった。

さっきまでのサウナ状態とは打って変わって、とてもひんやりとした室内になって思わず全員の顔がほころぶ。

部屋の中に結界を張るというのは、恐らくウンディーネの能力により熱気をさまたげたのであろうと推測した。

ウンディーネは結界を張り終わるとすぐに姿を消して精神世界面アストラル・サイドへと還ってしまった。

困ったような表情を浮かべたオルフェが、ザナハを諌めるような口調で述べる。


「姫・・・、あなたまでこの二人を救おうと言うのですか?

 彼等を見逃すということは、そのツケをご自分の命で支払うことになるのですよ!?」


「わかってる・・・、でも・・・このまま見捨てるわけにもいかないじゃない。

 確かに世界的に見れば現状は開戦状態になっているけど、・・・でも私達は戦争の為に旅をしているんじゃないでしょ!?」


強い姿勢でザナハが言い張ると、さすがのオルフェも自分が仕えるザナハ相手にそれ以上反論することも出来ないのか・・・溜め息をつきながら「やれやれ・・・」と肩を竦めてジャックの方に向き直った。


「ザナハ姫の許可です、彼等をこの結界の中で介抱することにしましょう。

 しかし体調が万全になり次第、即刻捨てますよ・・・いいですね?」


「なんだよ・・・、その捨てるっていうのは・・・。」


最後の最後まで素直に締めくくらないオルフェの言い回しに、アギトは若干呆れた顔で呟いた。

ともかくこれで丸く治まった・・・とも言い難いが、それでもこれ以上険悪にならずに済んで良かったと胸を撫で下ろすリュート。

ミラの指示で馬車の荷台から介抱するのに必要な物を持って来るように指示されて、アギト達も手伝った。

ヴァルバロッサの暑苦しい鎧を取り外し、全身の汗を拭き取って何とか水を飲ませる。

二人とも重度の熱中症とまではいってない様子で、割と早く体調が回復していった。

まだ体力的に頑丈そうなヴァルバロッサはわかるとして、ヨボヨボの老体でこの暑い中を生き抜いた老人の体力の方が信じ難い・・・とリュートは心の中で驚いた。

聞いていいものかどうかわからなかったが、これから先も敵として対峙することになるのなら敵について少しでも情報を得た方がいいかもしれないと思ったアギトがミラとジャックに二人が何者なのか尋ねてみる。

先に答えたのは、ジャックだった。


「ヴァルバロッサとは・・・、先の大戦での戦友だったんだ。

 戦友といっても敵同士として・・・だったがな、なぜかこいつとは気が合った。

 戦争の最中さなかだというのに、正々堂々とした戦い方を好んでて・・・自分の仲間を決して見捨てず、敵であるレム人に

 対してもそれなりの礼儀を重んじていた。

 主に対する忠誠心も相当なもので・・・、まさに武人だったよ。」


そう語るジャックの瞳は・・・、懐かしさと共にどこか寂しげな色も映っていた。


「味方を逃がす為に一度、オレはアビス側の捕虜になったことがあってな・・・その時指揮していたのがこいつだった。

 本来なら裏切り者であるアビス人のオレは真っ先に処刑されてもおかしくない状況だったんだが、こいつはそれをしなかった。

 それどころか・・・、再びアビスの為に戦おうと・・・オレに持ちかけてきたんだよ。

 オレは断るつもりでいたんだが、その時・・・当時闇の戦士になったばかりのこいつの息子に会って・・・オレはその子の師匠に

 なることを引き受けてしまった。」


リュートはドキンっとした。

ジャックの昔の弟子・・・、自分より前の闇の戦士・・・。

以前レムグランドの首都を訪れた武器屋で、その話をちらりと耳にしたことがあった。

その時は空気のせいで詳しく話を聞くことが出来なかったが、まさかこんな場所で聞くことになるとは思っていなかった。

ハラハラとしながら聞いていたが、その続きは怒りに満ちたか細い声で消し去られる。


「お前は息子を死に追いやり・・・、オレは復讐を誓った・・・っ!

 それだけの関係だ・・・!!」


「・・・ヴァルっ!?」


いつの間にか目を覚ましていたヴァルバロッサが、よろめきながら体を起こそうとするがジャックがそれを止める。

しかし差し述べた手を乱暴に払いのけるとジャックを睨みつけながら、這って距離を取ろうとする。


「なんとも屈辱な・・・っ、憎き敵であるお前達に介抱されるとはな・・・死んでも死にきれん!!」


そう喘ぎながら、ちらっと横を見るとゲダックが倒れているのを目にし・・・舌打ちする。

まるで貧血を起こしたようにめまいに襲われるヴァルバロッサは、それでも気力だけで持ちこたえようと立ち上がる。

自分の鎧・・・、そして剣。

全て取り外されている状態を見て、完全に自分の方が不利だと判断するがそれでも手負いの獣のように、敵意を剥き出しにしたままこちらを見据える。

ゲダックの様子が気になるのか、じっと見つめる視線に気付いたミラが察したように答えた。


「ゲダック先生も大丈夫です、脱水症状を起こしていますが命に別状はありません。」


それを聞いて安心した・・・という様子でもなかったが、ヴァルバロッサは黙したまま全員の顔を順番に見ていった。

一瞬リュートを見た時にヴァルバロッサは意味深な表情を浮かべた・・・が、それも誰も気付かない位の一瞬だった。

やがて扉の前に立つオルフェを見て、覚悟したように腰を下ろす。

その態度を見てか、ずっと黙ったままだったオルフェがようやく言葉を発した。


「あなたに質問がありますが・・・、よろしいですか?」


「ふん・・・、どうせ黙秘したとしても拷問して吐かせるつもりだろうが。

 ・・・何が聞きたい?」


ここに来て初めて・・・と言ってもいい位久々に、完全な作り笑いを浮かべたオルフェが表情とは真逆に声色はとても静かで冷たいまま質問する。


「あなた達二人がここにいる・・・ということは、私達が炎の精霊イフリートと契約を交わすのを知り・・・その妨害をしに来た。

 ・・・そうですね?」


オルフェの問いに、隠すことなく「そうだ」と返答する。

アギトとリュートはこの光景をとても不思議に思いながら眺めていた。

どう見ても、体格から見たらヴァルバロッサの方がオルフェよりも屈強に見えた・・・、なのに今はオルフェの方が断然優位な状態で上から命令口調している。

ジャックやミラがいるとはいえ、彼程の武人ならばオルフェ位・・・力でねじ伏せられそうなものだと思ったのだ。


「ではなぜここが火のレイラインの真っ只中だとわかっているのに、その対処もせずここで倒れてしまったんです?」


その問いに、ヴァルバロッサは口惜しそうな表情を浮かべながら・・・観念したように答えた。


「・・・それはゲダックも言っていたことだ。

 本来この火山のふもとは、火山活動が活発だと言っても毎度噴火するような活動は近年ではなかったことらしい。

 気温に関しても同じだ・・・、ゲダックの記憶だとこのグレイズ火山は生物が死に絶える程の異常さはなかったそうだ。

 近隣の村々で情報収集したら面白いことがわかった。

 ここ最近のグレイズ火山は活火山が頻繁に多発していて、火山口の奥に潜んでいたマグマがせり上がって来てその熱が周囲の気温

 を急激に上昇させているらしい。

 村人達の口振りでは、炎の精霊イフリートが暴走している・・・と言っていた。

 全てはマナ天秤の均衡が崩れて、それが精霊にも影響を与えているんだと・・・ゲダックも言っている。

 オレ達は火山口の奥でお前達を待つつもりだったが、イフリートの暴走という噂はあながち嘘でもなかった。

 中は水や氷の精霊の加護がなければ・・・、とてもじゃないが侵入出来ん。

 一旦この小屋に避難したんだが・・・、最初に来た頃よりも気温の上昇が急激過ぎて・・・逃げる間もなく倒れてしまった。」


視線をあからさまに背けながらヴァルバロッサが全て吐露すると、そのまま屈辱に満ちた表情でそっぽを向いてしまう。

それらの証言を聞いたオルフェは、彼等の処置はそっちのけで精霊の暴走について何か考えている様子だ。


「それじゃやっぱり、火山口の最深部へ入るにはウンディーネの加護が絶対必須になるみたいだね・・・。」


リュートが呟くようにそう言うと、今度はゲダックが目を覚ましたようだ。

呻きながら目を開く・・・、ミラは心配そうにゲダックの顔を覗き込むと・・・突然ゲダックが声を荒らげた。


「・・・ユリアっ!?

 いや・・・、ミラか・・・。」


自分の目の前にいる人物を確認すると、ゲダックはふぅーっと息をついて・・・横になったままぼんやりとしていた。

顔色はだいぶ良くなっているが、体力まではわからない。


「ゲダック先生・・・、またお会い出来て光栄です。」


静かな口調でミラが言う、しかしゲダックは鼻を鳴らして悪態をついた。


「お前には失望しておる!

 ワシの誘いを断り、あの陰険眼鏡を選んだお前なんぞな!」


「おや、それは私のことですか?」


面白げに会話に入ってきたオルフェに、ゲダックは真っ赤な顔をして飛び起きてすぐさまオルフェの姿を確認すると老人とは思えない身のこなしで素早く立ち上がると、びしぃっと指をさして激昂した。


「貴様・・・っ、よくもこのワシの前に顔が出せたものだな!!

 ワシは未来永劫貴様を許しはせんと、そう宣言したはずじゃぞ・・・忘れたかっ!?」


両手を組みながら、オルフェは作り笑いのまま・・・さらりと答える。


「勿論覚えていますよ、私は永遠に再会するつもりはなかったんですがね・・・いや〜本当に残念ですよ、お会い出来て。」


オルフェの平然と放たれる嫌味に、ゲダックは馬鹿にされているのを自覚して地団駄を踏んでいる様子だった。

その光景を遠目で見ているアギト達は・・・、馬鹿らしいという表情で黙って見つめていた。



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