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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~炎の精霊イフリート編~
122/302

第120話 「災いの種」

「ファイアーウォーールっ!!」


アギトの眼前に炎の壁が立ちはだかって、魔物の侵入を防ごうとするが・・・この地域の魔物の殆どは火属性。

逆に「ファイアーウォール」に触れることによって、エネルギーを吸収したかのようにオタレドがパワーアップをして3倍に膨れ上がってしまう。


「うわぁーーっ、巨大化したぁーーっ!!」


大きなボールのように上下にバウンドしながら迫って来るオタレドから、距離を取って逃げ惑うリュート。

背後からどんどん迫って来るオタレドに対して、ドルチェは水属性を持つかえるのぬいぐるみ「ケロリン」で迎撃した。

魔力の糸の範囲は直系10メートル程、ドルチェ自身も防御力やHPがそれ程高くはないので十分に距離を取った状態でオタレドに

ダメージを与えて行く。

だがケロリンも打撃攻撃専門ではないので、オタレドの注意を引く程度にしかならない。


「スプレッド!!」


呪文の詠唱を終えたザナハが水属性の魔法、スプレッドを放って何とかオタレドを倒した。

息を切らしながら大声で叫ぶ。


「もう!!

 あんたの属性は火なんだから、余計なことしないでよねっ!!

 大人しく味方の盾になるか、物理攻撃に専念してなさいよこの役立たずっ!!」


「おま・・・っ、役立たずはねぇだろうがっ!!」


しかしそれ以上反論出来ないアギト・・・、確かに自分の属性攻撃が全く役に立たないことは・・・自分自身が十分にわかっているからだ。

ザナハに聞こえない程度に舌打ちすると、アギトは剣を鞘にしまってふてくされた顔のまま馬車の方へと戻る。

今回の戦闘は、サラマンダー2匹にオタレド5匹という大所帯に対して、パーティーはアギト、リュート、ザナハ、ドルチェの4人だけ。

それぞれの師匠であるオルフェ、ミラ、ジャックは馬車から戦闘状況を見て、ダメ出しをするのが仕事だった。

アギトはダメ出しをわざわざ聞かなくても、何を言われるのかとっくにわかっている。

出来るだけオルフェと目が合わないように馬車に戻ると、黙ったままのオルフェに少しだけびくびくしていた。

リュートも馬車に戻って来て、ようやく馬車が走り出す。


「仲間との連携・・・、やっぱりまだまだですよね・・・。」


肩を落としながらリュートが向かいに座っているオルフェとジャックに向かって、そう呟いた。

ちらりとアギトも視線をやると、師匠二人が「うんうん」と大きく上下に首を振っているのが見えてガッカリした。


「なんてゆうか・・・、あとはもう実戦経験を重ねる他ないかもなぁ・・・。」


頭を抱えこんだようにジャックがそう言葉を漏らす。

それは言えてるかもしれない・・・と、アギト達は思った。

ジャックからヒントをもらってから何度か戦闘を繰り返したが、なかなかコツがつかめずにいたのだ。

敵の数が少なかったら掛け声などで仲間との行動の確認をしたり、打ち合わせをしたりしてうまく撃退できたのだが敵の数が増えた途端に目の前の敵に専念するようになってしまい、どうしても他の仲間の動きにまで気が回らなくなってしまうのだった。


「ねぇアギト・・・、そういえばアギトのテレビゲームでさ・・・オート操作の仲間に作戦指示を出すことが出来るソフトが

 なかった?

 うろ覚えだけど・・・例えば、HPの少ない敵を狙え・・・とか、仲間の回復に専念しろ・・・とか。

 僕達もそういった簡易的な作戦をあらかじめ作っておけば、いざ戦闘になっても作戦Aで!!って感じでイケるんじゃないの?」


リュートの思いがけない言葉に、アギトはぽんっと手を打って瞳を輝かせた。


「・・・それ、ナイスじゃね!?」


アギトはそのままオルフェ達の方に向き直って、リュートの案について意見を求めた。

オルフェはにっこりと微笑みながらリュートの言葉に同意する。


「今の君達には、あらかじめ作戦を用意しておく・・・という方法が一番良いかもしれませんね。

 最初はそうやって何通りかの作戦を用意しておいて、戦闘に慣れていった頃には臨機応変に対応出来るようになっていれば

 ベストです。」


オルフェの言葉の後に、補足するようにジャックが付け加えた。


「ただし、その作戦は細かすぎず的確に・・・というのを忘れないようにな?

 作戦内容が細かすぎると仲間が覚えられないし、かといって大雑把過ぎたら作戦通りに動けなくなる。

 その点に気を付けていれば、作戦を立てる・・・という方法もかなり有効な手段になるぜ。」


アギトとリュートはお互いに見合わせて、二人に褒められたことに満足し・・・ほんの少しだけ前進したという感覚になった。


「よっし!!

 そんじゃ火山口に入るまでに、作戦を3種類位作っておこうぜ!!

 その為には戦闘に参加するメンバー全員で作戦を練った方がいいな・・・、何が得意か・・・とか把握しないといけないし。」


途端にテンションの上がったアギトを横目で見ながら、オルフェは馬車の外から小さな農村を見つける。


「それなら今日はあそこで宿を取って作戦でも練りましょうか。

 ここ数日ずっと野宿続きで疲労もピークに達しているでしょうから、まだ早いですが今日はここまでにしましょう。」


オルフェの言葉に誰も反対する者はいなかった。

御者にそのことを伝えると、先頭を走っていたアギト達の馬車は農村近くまでゆっくり進んで・・・やがて2台とも止まる。

馬車が止まると客車から全員降りてきて、今日はここに泊まるんだと把握してそれぞれ背筋を伸ばしたりと、クタクタな様子だった。


「それでは宿を探してきますので、大佐達は馬車の近くで待機していてください。」


そう言うと、ミラは村の中に入って行ってしまう。

ミラの言葉にほんの少しだけ引っ掛かった部分があって、アギトがオルフェに聞き返す。


「なぁ・・・、村の中歩き回ったらダメなのか?

 さっきのミラの台詞・・・、なんか警戒しているように聞こえたんだけど・・・。」


馬車に寄りかかりながらオルフェがいじわるそうな笑みを浮かべて、その疑問に答える。


「おや・・・、君はそういうことに関しては鋭いですね。」


アギトは苦虫を噛み潰したような表情になりながら「どういう意味だ」と、言いそうになったが言葉を飲み込んだ。


「ここがレムグランドといっても、この世界に住む全ての国民が我々のことを良く思っているわけではないということですよ。」


さらりと答えた。


「ということは・・・、レムグランドの地域によっては国王に反発する国民もいる・・・ということなんですね?」


そうリュートが聞くと、少しだけ暗い表情になったザナハが続きを話す。


「元々マナに満ちているレムグランドにとって、マナ天秤を動かす行為に必要性を感じていない人達もいるってことよ。

 それが当たり前になり過ぎているから・・・っていうのもあるんだけどね。

 でも光の神子がマナ天秤を動かす為に精霊と契約をする旅をして、アビスとの間に道が出来たら戦争が始まる。

 その時に犠牲になるのは国民だから・・・、戦争を望まない国民からしたら私達は戦争を呼び起こす災いの種・・・って思ってる

 人も、中にはいるのよ。

 ミラはこの村の人達がそういった種類なのかどうか・・・、それを確認するまでは表沙汰にしない方がいいって考えたのね。」


光の神子だからといって国民から無条件で迎えられるわけではない・・・、そういうことなんだとアギトとリュートは思った。

やはりこの世界では、光=正義というわけではないんだと・・・痛感する。

世界を救済する為に旅をするから、国民全てが敬ってくれるわけではない・・・。

アギト達がしているこの旅は、確実に戦争を引き起こすもの。

国民全てが手放しで喜ぶわけがない・・・ということは、少し考えればわかることだ。

それがわかっていても、アギト達は前に進むしかない。

今・・・ほんの少しだけかもしれないけど、ちょっとだけザナハの肩の荷を分けてもらえたような、そんな気持ちになった。


アギト達はミラを待っている間、先程馬車で話していた「作戦」についてザナハ達に説明していた。

馬車の中でザナハ達に簡単に説明する為に、例とした作戦を考えてあったのだ。


敵の数が少ない・・・あるいはレベルが低い時、アギトを前衛としたスタンダードな戦闘手段を取るようにする。

この世界で初めて戦闘した時のような陣形と役割分担で戦闘を行う・・・という、作戦名「ちょろあま」。


敵のレベルが高い時、同じくアギトを前衛とするが敵を囲むように両サイドをドルチェとリュートが配置して、後衛にはザナハが陣を取る。

主に前衛の3人で敵を足止めしつつ後衛のザナハが攻撃魔法でHPを削る・・・という、作戦名「ちょいやば」。


・・・と、ひとまずはフィールド上で出現するタイプの対魔物用の作戦を発表した。

作戦を立てる・・・というアイディア自体反論はなかったが、作戦名だけ人気がなかった。

作戦名でぎゃあぎゃあと意見が飛び交う中、ようやく村の中からミラが戻って来て全員注目する。


「大丈夫・・・、部屋を貸してもらえるそうなので今日はこの村で一泊出来ます。

 大佐達はこの道を真っ直ぐ行った白い壁の建物へ行ってください、私は馬車を止める所へ御者を案内してきますので。」


「わかりました、では宿で・・・。」


それだけ言葉を交わすと、ミラは御者と共に納屋があると思われる場所へと行ってしまった。

納屋に入るところまで見送ると全員、白い壁の建物へと歩いて行く。


この村はあまり広くなく、随分質素に感じた。

畑を持っていたり、家畜を飼っていたり・・・という風でもない。

村・・・というからには、大体が自給自足の生活を強いられるはずだと思ったが例外もあるのかと、アギトは不思議に思った。


「なぁ・・・、この村って何をして生活してんだ?

 見たところ畑を耕している農民がいるってわけでもねぇし、牛や豚を飼ってそうな小屋も見当たらねぇし・・・?」


アギトの疑問に、オルフェが乗り気ではない口調で答えてくれた。


「この辺りはすでに火山地帯に入っていますからね、これだけ暑いと農作物は育ちませんし家畜もすぐにバテてしまいます。

 恐らくは火山口から稀に採れる鉱物などを売って生活しているんでしょう。

 確かに家畜などが見当たりませんが、馬車に使う馬はたくさんいるようですし・・・馬車で近くの町まで鉱物を売って食糧などを

 調達して、また村に戻って来るんでしょうね。」


アギト達は村の中をきょろきょろと見渡しながら、オルフェ達についていった。

村には女子供がちらほらと目に入るが、働き盛りの男連中は見当たらない。

恐らくオルフェの言葉を信じるなら男達は鉱物を売りに行ってるか、採りに行ってるか・・・どちらかだろうと推測する。

小さな民家を何軒か通り過ぎると、ようやく回りの民家より少しだけ大きな白い壁の建物を見つけた。


「どうやらここのようですね。」


オルフェはそのまま玄関口まで行くと、ドアをノックする。

中から人の良さそうな老人が出てきてオルフェを見るなり、笑顔で出迎えた。


「すみません・・・先程私の連れが訪ねてきたと思うのですが、こちらに泊めていただけるそうで?」


「あぁ、あぁ・・・さっきの人の連れかね?

 聞いておるよ、さぁさ・・・汚い所ですがどうぞ上がってくださいな・・・。」


老人は笑顔になりながら、家の中へ入るように促す。

アギトとリュートは小声で「お邪魔しま〜す」と言いながら、中へ入って行く。

中からいい匂いが漂ってきて、お腹が空いて来る。

ちょうど晩御飯の準備が終わったところなのか、この家の奥さんらしき女性が大きな鍋に入ったスープをお皿に分け入れて、笑顔で出迎えてくれる。


「あらまぁ・・・、この村に旅人だなんて珍しい。

 さぁどうぞ入ってくださいな、ちょうど夕食にするところでしたから・・・良かったら食べてくださいな。

 遠慮する必要はありませんよ・・・、たくさん作ってありますからねぇ。」


恰幅の良い奥さんがそう言って、オルフェは遠慮しようとした・・・が、オルフェとドルチェ以外の腹の虫が一斉に鳴りだしたのを

奥さんは聞き逃さず、自然の流れ・・・とでも言うように全員いつの間にかリビングの中央に置かれた大きなテーブルに席を取った。

全員の目の前にオニオンスープとロールパン、ドレッシングのかかったサラダが置かれて思わずごくんっとツバを飲みこむ。


「あとは・・・、さっきの綺麗なお姉さんの分と・・・まだ他にいるのかい?」


「あぁ・・・すまない、馬車の御者があと二人来ます。」と、ジャックが遠慮気味に答えた。


それでもこの家の者はイヤな顔ひとつせずに、笑顔で後から来るミラ達の分も用意してくれる。

時間はそれ程かからずミラ達が家にやって来て、夕食に招かれている様子を目にし・・・じろりとオルフェを睨みつけたのがわかった。

しかし好意を無にすることも出来ず、お礼を言いながらミラ達も空いている席に座って全員で夕食を食べることになった。


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