第117話 「死ぬ覚悟」
訓練場にやってきたアギトとザナハだったが、開戦状態となった今では誰一人として訓練場で訓練する兵士はいなかった。
誰もいない訓練場がこんなにも広くて静かだったのは初めてである。
しぃ〜〜んとした室内で、アギトはいつ攻撃されても対応出来るように神経を張り詰めていた。
だがザナハはそのままスタスタと部屋の中央まで歩いて行くと、振り向き様アギトに向かって声を上げる。
「ほら!いつまでそんなところでボ〜ッとしてるつもりなのよ!!
今からあたしがあんたの修行をつけてあげるから、こっち来て!!」
腰に手を当てながら、最初に言っていた趣旨が変わっていることに気付いてアギトが眉根を寄せる。
「はぁ!?
運動がてらここに来たんじゃなかったのかよ!?いつの間にオレの修行をつけることになってんだ!!」
愚痴っぽく叫びながら、アギトは素直にザナハの側まで駆け寄るとダルそうな態度になる。
唇を尖らせて睨みつけるザナハだったが、特に何も言い返してはこない。
少し間を置いてから、説明し出す。
「・・・今度の旅はあんたが精霊と契約を交わすのがメインだからね。
精霊との契約というのがどんなものか・・・、あんたに見せておきたくて。」
そう切り出されて、アギトは耳がぴくっと反応したように・・・突然従順な態度に豹変した。
「・・・で!?
精霊との契約って、一体どんな感じなんだ!?・・・てか今ここでウンディーネ召喚したりすんのか!?」
わくわくしながら、アギトはザナハに注目していた。
考えてみればザナハが水の精霊ウンディーネと契約を交わしてからというもの、たったの一度も精霊を召喚した所を見たことがなかったのだ。
精霊という位だから、やはり人間の・・・女性の姿をしているのだろうか?
言葉を話したり、特別な魔法が使えたりするのだろうか?
普段は一体どこにいるのか・・・、自分の体内に存在するように頭の中で会話したりするのだろうか?
色んな想像が駆け巡る。
瞳をキラキラと輝かせてザナハを見つめるアギトに、少し後ずさりしながらドン引きする。
「えっと・・・、とりあえず召喚してみるわね?
精霊に関してはあたしに聞くより、精霊本人に聞いた方が早いから・・・。」
ザナハは両目を閉じて、精神集中に入る。
邪魔しないようにジッと・・・アギトは固唾を飲んで見守った。
やがてザナハの周囲から薄い水色のマナがキラキラと取り囲むようにして、下から上へと駆けのぼる。
精神集中によってマナを凝縮させると、普段は肉眼で確認できないマナも目に見える程にまで濃度が増す・・・とオルフェから教わった。
今ザナハの周囲を取り囲むマナ濃度は、相当凝縮されているように思える。
ぶつぶつと召喚呪文の詠唱を呟いて・・・、両手を天にかざすと手の平に水滴が宙に浮いているように段々と水分が集まって行く。
最初はぽつぽつと小さな粒が集まる程度だったが、ザナハのマナが大量に集まり出すと小さな水の粒がいつの間にか大量の水の塊となって上空に溜まって行った。
「うぉーーーーっ、すっげぇーーーっ!!」
興奮しまくるアギトだったが、慌てて両手で口元を押さえて邪魔しないように自粛する。
しかし興奮せずにはいられない・・・、大量の水の塊が段々人の形を成していって・・・とても美しい女性のラインを形作っているのだ。
「我の呼びかけに応えよ・・・、ウンディーネっ!!」
最後の一声に反応して、半透明の水の塊からハッキリと視覚出来る姿となったウンディーネが目の前に現れた。
水と同じように水色の長い髪の毛・・・、透けるような白い肌、瞳はとても穏やかで優しげな雰囲気をかもしだしている。
中世の絵画で見たような・・・、袖がなくて体のラインに沿った長いドレスがゆらゆらとゆらめいていた。
「初めて召喚してくれましたね・・・、ザナハ。」
不思議と宙に浮いたままの状態で、ウンディーネがザナハの方に向かって声をかける。
ザナハもかなり大量のマナを消費したせいか、少し息を切らしていたが・・・何とか笑顔を見せていた。
「ウンディーネ、悪いけど色々と聞きたいことがあって召喚したの。
そこにいるのは光の戦士のアギト・・・、彼に精霊について色々教えてあげてほしいんだけど・・・いいかしら?」
ウンディーネは、感動しまくって号泣しているアギトの方に目をやるとくすりと微笑んで話しかけた。
精霊に話しかけられたことに、更に感動して・・・えぐっえぐっと、言葉にならない様子だ。
『初めまして・・・、私に聞きたいことがあるというのは一体何なのですか?』
生まれて初めて水の精霊と対面したアギトは・・・、目の前の光景が信じられずにバカなことを口走ってしまう。
「・・・本当に水なのかどうか、触ってもいいですか?」
バッコォーーッッ!!
ザナハの鉄拳が、アギトの顎を捉えた。
しかし力加減をセーブしていたせいか、遠くまで吹き飛ぶことなく背中から床に倒れこんだだけで済んだ。
「こンの、セクハラ小僧がっ!!
相手が綺麗な女の人なら、精霊だろうがお構いなしかアンタわっ!!」
左顎をさすりながら、アギトは尻もちをついた状態で反論する。
「ちっげぇよ!!
さっき水から人間の姿に変わったから、本当に水で出来てんのかどうか確認したかっただけだっつの!!」
「それはそれで失礼だわ、相手はこの世界の水の元素を司る精霊なのよっ!?
人間とは比べモノにならない位、高貴な存在なのっ!!あんたなんかが触れてもいいような相手じゃないのよっ!!」
ちっ・・・と小さく舌打ちしていたら、ウンディーネがアギトの側に近寄ってそっと頬に触れた。
すぐ目の前に精霊がいる・・・、そう考えただけで心臓が早鐘を打って全身が硬直してしまう。
『まぁ・・・可哀相に。
今あなたの傷を癒して差し上げましょう・・・。我が主の暴力を許してやってくださいね・・・。』
ウンディーネの冷たい手が、次第に温かみを増していき・・・とても気持ち良くなってくる。
そしてさっきザナハに殴られた顎の痛みが引いて行く。
ぼ〜っとした眼差しで見とれていたが、ウンディーネが離れて行ったのを確認するとようやく意識を取り戻したかのように気を取り直して、立ち上がる。
「あの・・・えっと、ありがとう。」
『どういたしまして。』
二人のやり取りに、ザナハがなぜかイライラして話を進めようとする。
「あのねぇ、さっさと精霊について聞きたいことを聞きなさいっての!!」
「そう言われてもよぉ・・・、一体何を聞いたらいいんだよ!?
突然んなこと言われても質問なんかすぐに思いつかねぇって・・・。」
もじもじしながら言い返すアギトに、ザナハが代わりに質問した。
「ウンディーネ、こいつはもうすぐしたらイフリートと契約を交わすことになるんだけど・・・。
イフリートとの契約は一体どんな試練が待っているのか、あなた知ってる?」
ザナハの質問に、ウンディーネは快く答える。
『この子がイフリートと・・・?
それは気の毒に・・・、イフリートといえば精霊の中でも特に好戦的な性格で知られています。
とても気が短く、粗雑で乱暴で・・・他の精霊達もイフリート相手にはかなり手を焼かされたものです。』
「・・・イフリートなだけに?」
と、一人でつっこんで一人で吹き出してるが・・・誰もアギトの親父ギャグは聞いていなかった。
しぃ〜〜んと、明らかにダダすべり状態であることを察したアギトはコホン・・・と咳払いをして誤魔化した。
「そ・・・それじゃあさ、イフリートの試練はやっぱり戦うことで認めさせることになんのかな?」
『・・・そうなるでしょうね。』
はぁ〜〜っと、アギトは予想が見事的中したことにがっかりした。
それから続け様に質問をする。
さっきとは打って変わって・・・アギトがゲームをプレイしていて、いつも疑問に思っていたことや実際はどうなのか不思議に思っていたことなどを照らし合わせるように、今度は次々と質問内容が浮かんでくる。
「イフリートに認めさせる対決って・・・、パーティー戦?
まさか一騎打ち・・・なんてことはないよな?」
『それは私では答えられません。
試練はそれぞれの精霊が作りだすものですから・・・。』
「イフリートの得意技って、肉弾戦か炎系の魔法なのか・・・どっちがメインか知りたいんだけど・・・それも答えられない?」
『そうですね、答えられません。』
アギトは質問の内容を変えてみた。
「精霊と契約を交わしたら、精霊はその間・・・基本的にどこに存在することになんの?」
『主に精神世界面に身を置くことになります。
マスターが己のマナを使って、我々・・・契約を交わした精霊をこの現実世界面に召喚するのです。
精霊が精神世界面にいる間は、現実世界面のことには全く干渉することが出来ません。
よって、マスターのプライバシーが損なわれることはありませんよ。』
「へぇ〜、そうなんだ。」
確かに四六時中干渉されたらストレスが溜まってしょうがないだろう・・・と、アギトは思った。
他にも聞きたいことは山程あったが、ここで一旦ザナハがストップをかけて間に入って来る。
「はい・・・タイムアウト!時間切れ!ストップ!
これ以上はあたしのマナがもたないわ・・・、悪いけどウンディーネは一旦戻ってくれるかしら?」
200メートルを全力疾走で駆け抜けたように疲労した様子で、ザナハはウンディーネを精神世界面に戻してしまった。
「なんだよぉ、次は精霊によって必殺技とか奥義魔法とかあんのか聞きたかったのにぃ〜っ!!」
駄々を込めるような仕草で、アギトはザナハに文句をたれるが・・・ザナハはそれどころではない状態のようだった。
随分と疲労しているザナハを見て、アギトはきょとんとした顔で一応どうしたのか聞いてみる。
「・・・なに一人で虫の息になってんの?」
明らかにイラッとしているが、反論する気力も今はないようである。
そのまま床に座り込んで息を整えながら、ゆっくりと説明した。
「精霊を召喚中は、常にマナを大量に放出している状態になるから・・・あたしのMPが尽きたのよっ!
MPが尽きたら精霊は強制的に戻るようになってんの・・・、同時にマスターは気絶する恐れだってあるわ・・・っ。」
「やっぱ負荷は相当デカイんだな・・・、オレも気をつけねぇと・・・。」
ふとあることを思い出して、アギトは一瞬「あれ?」となる。
眉根を寄せながら、たった今疑問に感じたことをザナハに聞く。
「ちょっと待てよ?
確かこないだオルフェからの説明にあったのを思い出したんだけどよ・・・。
イフリートのいる場所は火山地帯の最深部にいるんだったよな?」
「そうよ・・・、それが何!?」
「火山地帯の最深部は超高熱・高温だから、普通の人間じゃ近寄れないけどそこはウンディーネの加護があれば大丈夫だって言って
なかったか・・・?」
「・・・・・・。」
ザナハからの返事がない。
アギトは疑惑満面の眼差しでザナハを見据えると、目の前にヤンキー座りして顔を近づけ・・・ひくひくと作り笑いを浮かべながら更に問い詰める。
「今ウンディーネを召喚していた時間って・・・、5分もなかったよなぁ!?
イフリートのいる最深部って、5分で到着出来るような場所にはねぇんだろ・・・?
ということはだなぁ・・・、お前の今の有り様だったらとてもじゃないが最深部まで辿り着くことなんて不可能じゃね!?」
黙りこくったままのザナハを追い詰めるように、アギトが返事を待つ。
だが・・・、ザナハの取った行動は謝罪でも詫びでもなかった。
「ま、ドンマイドンマイ?」
てへっと舌を出して、ザナハは誤魔化すように可愛く笑うと片手で自分の頭を軽く小突く仕草をした。
その態度を見たアギトの顔は、ピキィッと怒りで引き攣る。
「ンな態度したって許すかぁーーっっ!!
なんだよお前、今までさんざ偉そうにふんぞり返っておきながら・・・精霊を5分も維持出来ねぇ神子なんざ見たことねぇぞ!!
ここで素直に謝ってりゃさすがのオレでも仏心出して、ちっとは許してやらんでもない態度を取ったかもしんねぇのに・・・っ!
反省の色全くナシかいっ!!どんな神子だ!!どんな姫だ!!どんなヒロインだっつーーのっ!!」
すぐ近くで怒号をまくしたてるアギトの声に、両手で耳を塞いで迷惑そうな表情を浮かべるザナハ。
ようやくおさまったのを見計らって、ザナハは落ち着いた口調でマイペースに反論した。
「まぁ・・・仕方ないじゃない、徹夜で疲労してるせいもあるんだから・・。
ベストな状態だったら10分もつわよ。」
ギロリ・・・と、アギトが睨みつける。
今のアギトに冗談は全く通じないんだと悟ったザナハは面倒臭そうに、やれやれと肩を竦めて言葉を続ける。
「わかってるわよ・・・勿論ウンディーネを召喚する時間を延ばす為に、これからスタミナをつける訓練をするようミラから
言われてるんだから・・・。
そんなことより・・・、あたしがあんたをここまで連れてきた理由・・・ちゃんとわかってんの?
それが一番心配なんだけど・・・。」
突然そう切り返されて、アギトは「は?」と短く声を洩らす。
やっぱりわかってないんだ・・・と、ザナハは呆れたような表情になると軽く溜め息をついてから説明する。
「やっぱりね・・・、そうじゃないかと思ったわよ・・・。」
なんだか上から物を言われているようで気分が悪いアギトは、ぶす〜っとした顔になって一応答えてみる。
「だから・・・、精霊を見せる為なんだろ?」
「半分正解・・・、もう半分は・・・あんたの覚悟を聞く為よ。」
「・・・はぁ!?それこそワケわかんね・・・、今更何言ってんだよ!?
覚悟なんざとっくに決めてるに決まってんだろ!?」
急に真剣な眼差しで見つめて来るザナハに、アギトは一瞬たじろいだ。
まるで自分の中に覚悟を決められていない・・・へたれな感情があるように、錯覚させられる。
「リュートがいたから良かったようなものの・・・。
ルイドと対峙した時・・・、あんた・・・いつものあんたらしくなかったじゃない。
いつもなら自分が率先してでもルイドに向かって行ったはずなのに・・・、あの時は何があったのか知らないけど・・・
普通じゃなかったわ。
まるでとても強いショックを受けた後みたいに・・・、殆ど抜け殻みたいな状態で・・・。
戦場ではあんな状態だったら、みんなの足手まといになるか・・・最悪死んでたわよ!?
どんなことがあっても私的な感情は押し殺して・・・、自分の使命をしっかりと見据えて行動していかないと!
あたし達がしていることは遊びでも何でもない、生きるか死ぬかの戦争の只中にいるの。
この世界を救う為に命をかけないといけないような、危険な旅なの!!
例えあんたが光の戦士であっても、その覚悟がないような人とは一緒に旅なんて出来ないわ。」
ハッキリと告げた。
誰も触れなかったことを・・・、誰も指摘しなかったことを・・・。
アギトは痛かったところを突かれて・・・、先程の鉄拳よりも強い衝撃を受けたように息が詰まった。
だって・・・という言葉は、ただの言い訳にしかならない。
実の母親に拒絶された直後・・・、そんなの言い訳にすらならない。
反論する言葉が思いつかなくて・・・悔しくて腹が立つ。
アギトだって、本当に覚悟がなくてここまで来てるわけじゃない。
その言葉に嘘偽りはない、それは胸を張ってそう言い切れる。
しかし・・・、いつだってアギトは私的な感情に身を任せてしまうという欠点があった。
それがプラスだろうと、マイナスだろうと・・・いつも感情に身を任せて突き進んできたのは事実だった。
生きるか死ぬかの中にいる・・・確かにそれについてはいまだに、あまり実感がわいてこないのも事実だ。
ピンチだ・・・って思うが、死が脳裏をよぎったことはない。
その感覚は今までに一度・・・、マナのコントロールを無理矢理習得する為にオルフェからスパルタ教育を受けた時だけだ。
ザナハの言う通り・・・、自分は決して・・・死を覚悟して光の戦士を受け入れているわけではないのかもしれない。
でも・・・、だからどうした!?
アギトは真っ直ぐにザナハの目を見ながら、真っ直ぐに・・・自分の思うがままの言葉を放った。
「だから・・・、それが何?」
「んな・・・っ、なんですって!?」
思いがけない返事に、ザナハは驚愕した顔で・・・軽蔑にも似た表情でアギトを見据えた。
「確かにオレにはお前みたいな、世界を救う為に死んでもいい・・・とか。
いつ死んでもおかしくない・・・とか、そんな覚悟ねぇよ。
つーか、それがお前の言う覚悟だって言うんなら・・・オレはそんな覚悟いらねぇよ。持ちたくもねぇ。」
アギトの嘘偽りのない、本心の言葉を聞いたザナハは・・・みるみる怒りで肩を震わしながら睨みつけた。
「あんた・・・、それでも選ばれた光の戦士なのっ!?・・・最低だわ!!」
しかしアギトは自分の言った言葉を訂正するつもりは全くない、という表情で・・・ザナハの言葉を気にせず続けた。
「なんとでも言えよ、別にオレは選ばれたくて光の戦士になったわけでもないんだし・・・(なりたかったのは勇者の供だし)
それにオレはなぁ・・・、この旅で命を落とすつもりはさらさらねぇから!
死ぬ覚悟!?そんなもん邪魔なだけだろ、そんなマイナスイメージ満開の覚悟を持ってたら本当に死を招いちまうかもしんねぇ
じゃんか。
そんな覚悟なんかより、オレには真っ直ぐに信じているモンがあるんだよ。」
冗談でも、からかっているわけでもない・・・。
本当に真っ直ぐな思いを、ザナハにぶつけている・・・、それは彼女にも十分伝わっている。
だからこそ・・・、口を挟めずにアギトの言葉を黙って聞いていた。
「・・・仲間だよ。
オレはリュートの心の強さを信じてる。
ミラのサポートを信じてる、・・・ジャックの強さを信じてる、・・・ドルチェの情報を信じてる、・・・オルフェのズルを
信じてる、・・・そしてお前の力も、勿論信じてんだよ。
だからオレ達はこの旅で、ぜってぇーー死なねぇんだ!!
死ぬのを覚悟するなんて・・・自分の仲間の力を信じてねぇって言ってるように、オレには聞こえんだよ。
だったらそんな覚悟いらねぇじゃん、オレ達の仲間は強いんだから死ぬなんて有り得ねぇし。
だから・・・、お前もそんな覚悟・・・今ここで捨てちまえよ。」
・・・言葉にならなかった。
そんな風に考えたこともなかったし、ただザナハは・・・死ぬ覚悟を持つことが本当の強さだと信じていたのだ。
かつて・・・、軍医に言われた言葉を思い出す。
犠牲ということを・・・、犠牲になることが全てではないと・・・。
死ぬ覚悟を持つことが心の強さの表れではないと・・・。
不覚にも・・・、それをアギトに教えられた気がした。
仲間を信じる覚悟・・・とでも言うのだろうか?
死ぬことに比べれば・・・、こちらの方がずっといい。
そう思えた。
自嘲気味に笑顔になると、ザナハにイヤミのつもりはなかったが・・・つい口を突いて出てしまう。
「あんたってば本当に、・・・単純なんだから。」