嫌な予感
窓から日差しが入って来て暖かい...。
朝か、起きなきゃな...。
...。
〜〜〜〜〜
今、全速力で走っている。
やらかした、寝坊した。
いつもはもっと、すっきり眼が覚めるのに、今日は二度寝してしまった。
「おはようございます!すんません、遅れました!」
つい力が入ってしまい、思いのほか大きな音が出てしまった。
「おう、おはよう珍しいなー。谷口が遅刻なんて」
佐々部先生がちょうど出席を取り終わったようで、出席簿を肩でとんとんしていた。
「二度寝しちゃって...すみません」
先に向かいながら頭を軽く下げる。
「まあぎりぎりセーフにしとくな、授業中は寝るなよー」
「ありがとうございます!」
出席簿を開いてメモすると、佐々部先生は教室を出て行った。
佐々部先生はだらし無いけど相変わらず優しいなあ。
「谷口くん遅刻なんてほんと珍しいね、心配したよ」
虹川さんが声をかけてくれた。
「日差しが気持ち良かったからかなあ、普段はすぐ起きれるんだけど、気づいたら寝ちゃってた」
つい恥ずかしくて首に手を乗せ、机に肘をつけたまま顔ごと横に目線を逸らしてしまう。
「ふふっ」
虹川さんが笑っている。
笑って貰えるなら、遅刻して良かったと思ってしまう。
俺は馬鹿だなあって思いながらも、虹川さんに元気を貰っているのがわかる。
虹川さんのおかげか、その日の授業は眠らずに受けれた。
〜〜〜〜〜
放課後になり、虹川さんに一緒に帰ろうと誘った。
「うん、いいよ」
俺達の関係は、別に誰かに話したりはしていない。
ただ特に隠すつもりもなく、気づいている人は気づいていると思う。
その証拠に神崎さんと、郷さんが意味ありげにこちらを見てニヤニヤしている。
いざ一緒に帰るとやっぱり緊張する。
何か弾む話題は無いかな。
自分は沈黙も虹川さんとなら心地よいと思えるが、虹川さんも緊張しているなら明るい話題でほぐしてあげたいなと思う。
「そういえば、この前さ」
キャーッ
「!」
遠くで悲鳴が聞こえた。
「怪人かな?」
悲鳴のした方を見ながら虹川さんに聞く。
「わからないけど、あの悲鳴だと相当なことが起きてるのは確かだと思う」
虹川さんの方を見ると、眩しく光り魔法少女るりになっていた。
「行ってあげて!俺もなにも出来ないかもだけどすぐ追いかけるよ」
「わかった、様子を見てくるね!」
るりがそう言うと、一っ飛びで遠くまで飛んで見えなくなった。
「はは、相変わらず凄いな...」
とりあえず見えなくなった背中を目指した。
〜〜〜〜〜
『貴様、魔法少女るりはどこだ』
怪人が一般市民の男性の首を掴み上げ尋問していた。
「し、知らない...」
『そうか..なら死ね』
怪人が掴む手を強めた。
「ぐ、ぐぁぁ...」
男性が怪人の腕を掴んで抵抗しようともがいたが、泡を吹き抵抗していた手が垂れ下がる。
「ディバインシュート!」
怪人のはるか上空からディバインシュートが降ってきた。
『ぬっ』
怪人が横に飛び、ディバインシュートが外れるが、怪人が男性を離した。
「シャイニーヒール!」
続いて男性にシャイニーヒールを放ち着地する。
「か、かはっ!」
男性が息を吐き返す。
「大丈夫ですか?動けるなら避難してください!」
男性は首を絞められる前より軽くなった体に、魔法少女るりの凄さを実感しながら逃げる。
「ありがとう魔法少女るり!!」
男性は走りながらお礼を言った。
この街の人はみんなお礼を言ってくれるな...。
応援やお礼を貰えると、やっぱり元気を貰える気がする。
そう思いながらも、怪人の動きに警戒をする。
『来たか魔法少女るり、我々の目的の為、また同胞達の仇の為、貴様の命貰い受ける』
瞬きをした瞬間、怪物が居なくなった。
『隙だらけだ』
直感が後ろだと伝えて来て、咄嗟に前に飛ぶ。
「きゃ!」
しかし、怪人の攻撃を掠ってしまう。
『なに?』
痛くない...?
『たしかに手応えはあったが...ふんっ!』
怪人が手刀で突いてきた。
それを交わそうと、首を傾けるが頬をかする。
でも、痛みが無い。
『なぜだ!攻撃が効かぬだと!?そんな話聞いてないぞ!』
今度は大ぶりな攻撃が来た。
「ディバインパンチ!」
手刀に対してクロスカウンターを入れた。
『ぐぅぬわあぁぁぁ!!』
怪人は光の粒子になった。
「るり!」
振り向くと遠くに谷口くんが見えた。
「あっ谷口く...」
走ってくる谷口くんの顔を見ると頬に傷があった。
「どうしたの?怪我してる!」
私はまた怪人が出た可能性を考えながら、谷口くんに近づく。
「急に背中に痛みが走ったと思ったらさ、今度は頬から急に血が出て来てびっくりしたよ」
谷口はびっくりしたと言う割には、笑顔でなんでも無いように言う。
でも、私は嫌な予感が芽生えた。
「せ、なか?も怪我してるの?」
もし私の予想が当たってたらと思うと寒気がする。
「わからないけど、まだズキズキするね」
谷口くんは笑顔を絶やさない。
「見せて貰っていいかな?」
私がそう言うと谷口くんがブレザーを脱いだ。
「さ、流石にシャツを脱ぐのは恥ずかしいな、どうしよう...」
谷口くんがそう言うけど、シャツを脱ぐまでも無かった。
「シャイニーヒール!」
谷口くんの背中は血で少し滲んでいた。
「ありがとう」
谷口くんは笑顔でそう言う。
私は今日、敵の攻撃を食らったハズなのになんとも無い。
私が攻撃を受けたところを谷口くんが怪我をしている。
考えすぎだろうか...。
(マシュマロは何か知ってるのかな...)
「谷口くん私の家に来て!」
「えっ?うわっ!」
そう考えると居ても立っても居られなかった。
私は無意識で谷口くんをお姫様抱っこし、高く飛び立った。