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第5話 騎士様は苦労人


 亜麻色の髪を持つ乙女、オリヴィエ。

 彼女に見惚れていた扶郎は、名前を尋ねられたところでようやく我に返った。


「四葉──扶郎、です」


 絞り出した声で何とか名乗り、そこで扶郎は思い出す。

 彼女はオリヴィエと名乗ったか。その名前は確か──。


「ヨツバ・フロウ、くんか。ヨツバくんも害魔駆除の依頼を受けたのかな? それとも別の──」

「オリヴィエ────────!」

「わっ! カリスト? なんで、アナタがここに?」


 会話の途中にカリストに飛び込みまれ、オリヴィエは驚きの声を上げる。

 外套の上からだが、膨らみある胸に飛び込んだカリストを見た扶郎は、そういえば此奴オスか? いや、嫉妬とか羨ましいとか思ってないしと、青少年らしい悩みを患う。


「カリストたちはオガお婆さんのお孫さんを探しに来たんだと」

「オガお婆さんのお孫さん? メツヒちゃんとユメキちゃんがこの森に?」


 オリヴィエは可憐な顔を曇らせる。

 彼女は近所付合いが良いためかオガお婆さんの他にも、その孫とも面識があるようだ。


「お姉ちゃんの方だけと」

「なら、メツキちゃんか。なんでこんな所に? この森は今、害魔が出て危ないのよ」

「妹さんの風邪を早く治したいから、ここにある薬草を採りに来たんだと」

「……そう、妹の。ユメキちゃんの為にか。それでアナタたちは彼女を連れ戻しに来たの?」


 心痛は面持ちを見せた後、扶郎を一瞥してから尋ねる。


「そうだと~。オガお婆さんが心配してたからフロウと一緒に連れ戻しに来たと」

「なら、ヨツバくんはオガお婆さんに頼まれた傭兵なのかしら?」

「違うと。頼まれたのは頼まれたけど、依頼じゃなくてフロウからお手伝いするっと言ったと。

 それで、フロウは傭兵じゃなくて、最後の七星の使徒だと~!」

「七星の使徒? 彼が最後に残っていた破軍のっ!?」


 驚いたように見るオリヴィエの視線に、扶郎は気まずくなる。

 こんな平凡そうな子が名義上の仲間とか嫌だろうか。

 そう考えながら、取り繕うような笑みを浮かべた。


「はい。改めまして、最後の七星の使徒ってなってる四葉扶郎です。まだこの世界に召喚されたばかりで至らぬ点も多いですが、何卒よろしくお願いします」


 できるだけ丁寧に再度挨拶をすると益々、オリヴィエは驚いたように目を見開いた。

 やはり、見るからに一般市民の小僧では頼りないかと扶郎が内心焦っていると、彼女は両手で顔を覆い隠し、天を仰いだ。


「まともな子で良かった───────────!」

「…………」


 感激と嘆きの両方を感じる慟哭であった。

 ぐるんと顔を戻したオリヴィエは潤んだ瞳で目が点になっている扶郎を見つめる。


「いや、君のような丁寧な子が仲間になってくれるなんて私は大歓迎だよ。よろしく!」

「は、はい。こちらこそ」


 異常なほどテンション上げながら差し出された手を扶郎は戸惑いながら握り返した。


「もしかしたら似非神父やカリストから聞いているかもしれないけど、他の使徒は問題児が多くてさ、ご近所にも知れ渡っているから一緒に住む私は肩身が狭くて困っていたのよ。

 本当に問題ばかり起こすんだよ、あの方たち!」

「そうですか……」


 先程まで纏っていた見惚れる空気は何処へ消えたのか、オリヴィエは会社勤めに疲れた会社員のように素早い愚痴を吐く。

 他の使徒に問題があることはカリストやオガお婆さんからも聞いていたのだが、直接している接しているオリヴィエの負担は相当のものだった。


「家に騒ぐは乱闘騒ぎをご近所まで持ち込むは人の話しを聞かないは頭いいからって馬鹿にするは知らない男や女を家に連れ込むとか困ったものなのよ。

 別に将来を決めた仲なら多少の文句はあっても公然の秘密として目を瞑るわよ?

 でも、手当たり次第見境なく色んな相手と関係を持つなんて貴方たちは不良貴族かと思ったわ。いい加減頭に来たから抱くなら宿に行けって言ったよ!」

「お疲れ様です……」


 扶郎はそういう経験がないので何とも言えない顔になる。

 そんな青少年の傍で、余程不満が溜まっていたのだろう、オリヴィエの愚痴を続けた。


「そしたら全く帰ってこなくなって、動向の報告に不備あれば怪しさ億万点の神父にクドクドと嫌味を言われるのよ。別に私はみんなのまとめ役て決まっている訳じゃあないのに、まともな者がお前しかいないのならお前が責任を持つべきだなんて可笑しいと思わない?

 私が放棄しないと見越して言ってるのよ、あの人!

 何、私の知り合いの神父は螺子外れた人しかいないの? 同僚も露出狂のような変態しかいないの?」

「え!? 露出狂がいるんですか!?」

「あ、今のは前の職場の話しね。あぁ、でも家の中で裸になるのはいるかな、うん」


 オリヴィエは疲れたように溜息をつく

 カリストやオガお婆さんの証言から、彼女が真面目で立派と人物だとは聞いている。

 実際そのようで、それが原因で貧乏くじを引かされ苦労しているようだ。

 あと、似非神父とは十中八九ラーベルトのことだろう。彼の印象は扶郎だけの偏見ではないようだ。

 

「けど前もって聞いていましたが、他の人たちはそんなに大変なんですね」

「ん? 全員じゃないわよ。問題は3名。残りの2名は問題がないわけじゃないけど、基本的に無害だから安心して」

「過半数が問題なのは変わらないんですね」

「でも、貴方がいれば過半数は超えるわ。ふふ、ようやく私にも味方ができたわ。これで家の風紀の乱れを正せるわね」


 完全にオリヴィエは扶郎が、自分の味方になると信じている様子である。

 それに扶郎は少し戸惑う。別に協力しない訳ではないが、会って数分しか経っていない相手をここまで信用しているのはどうなのだろうかと疑問に感じた。


「あの、僕が実は悪い奴とか思わないんですか?」

「思わないわね」


 オリヴィエは即答で断言する。自信に溢れた笑みで信用する目線に陰りは見えない。


「私は人を見る目はそれなりにあると自負しているわ。君が装っているのは精々初対面の相手に失礼ないよう遜っているだけでしょ?」

「…………」

「具体的な根拠が聞きたいなら召喚されたばかりだというのに、オガお婆さんとそのお孫さんの為に態々ここへやって来た善性ね。だから私は貴方が味方になってくれると信用しているわ」


 口篭もることなく滑らかに言った言葉に扶郎は感心する。

 彼女は見極める目も持ち合わせた人物のようだ。僅かでも自分如きが推し量ろうとしたことが、扶郎は少し恥ずかしい。


「あら? もしかして、私が貴方を信用する理由がないと疑った自分に恥じているのかしら?

 その必要はないわよ。自分をいきなり信用していますと言う相手に疑うことをしない人間は、いずれその人か別の誰かに騙されてしまう。だから恥じることはないわ」

「貴方は人の心でも読めるのですか?」

「君が分かりやすいだけよ」


 屈託ない笑みに扶郎も自然と微笑む。見た目の年齢はそこまで変わらないようだが、達観した姿勢を見ると扶郎より年上なのかもしれない。


「そんな分かりやすい人間でよければ、いつでも助けになりますよ」

「ええ、よろしく頼むわね。ヨツバくん」


 意気投合する二人。その余韻に浸る間もなく、オリヴィエが「さてと──」と気を取り直したように顔を引き締める。


「お話はこれまでにして、早くメツキちゃんを探しましょう」

「オリヴィエさんも一緒に探してくれるんですか?」

「当然よ。私は組合からの仕事でここに発生した害魔の駆除に来たけど、メツキちゃんが優先よ。

 そもそも、害魔もメツキちゃんも何処にいるか解らないし探していたら何方か片方を見つけられるわ」

「……わかりました。じゃあ、お願いします。俺一人じゃ害魔の群れを簡単に倒せないし、心強いです」


 思い返したのは、害魔の群れを一網打尽した白虹の光。

 オリヴィエが何かしらの特別な力を発揮したのは明白。この世界の個人戦闘能力基準は分からないが、あんな力を出せる存在は扶郎から見ても頼もしい。

 羨望の目を向けた扶郎だったが、オリヴィエというと困った顔をしている。


「あれはとっておきだから、そう簡単に何度も出せる訳じゃあないんだよね」

「そうなんですか」

「でも、安心して! 多勢無勢は何度も経験あるし、普通にやってもあの程度なら負けないわよ。さて、話は歩きながらもできるわ。行きましょう。ほら、カリストも」

「と~。ずっと会話に入れなかったから、忘れられてると思っていたと~」

「そんな訳ないでしょう」


 笑い合うオリヴィエとカリスト。その傍で図星を突かれたように苦笑いする少年に気づいていない。

 彼を弁明するなら、周りが霞むほど存在感をオリヴィエから感じていたのだろう。

 下世話に例えるならば、美人に夢中になっていたのだ。是非もなし。


 ❖ ❖


 オリヴィエを先頭にして、扶郎たちは森の中を移動していた。

 第一目標はオガお婆さんの孫、メツキ。次に害魔の駆除。優先はメツキなる少女だが、害魔を放置するわけにはいかない。もしかしたら野放しにした害魔が少女を襲うかもしれないのだ。

 既に襲われている可能性はオリヴィエ曰く、少ないということ。

 オリヴィエは早朝からここで害魔の駆除をしており、もしも誰かが襲われた場合、この規模の森すぐ音で分かると彼女は言った。

 実際、扶郎と害魔の戦闘音を聞き取り、彼らの前にやって来たのだ。

 だが、可能性は少ないだけ、微塵も安心はできない。早期発見が望ましい。


 捜索中、何度か害魔に遭遇するも、オリヴィエと扶郎によって簡単に討伐される。


「オリヴィエさんは凄いですね。なんかプロって感じです」


 戦闘を終えて、再び歩きだしながら扶郎が称賛を送った。

 彼も戦っていたのでじっくりと観察した訳ではないが、オリヴィエの剣は素人目線でも解るほどの洗練された美しい剣だ。

 流れる水のように滑らかに舞っているかと思えば、稲妻の如く剛剣で敵を切り裂く。まさに剣技。扶郎の感覚だけで振るう刃とは比べ物にもならない。


「騎士だかね。剣こそ魂。腕前には自信を持っているわ」

「騎士ですか」


 彼女は防具を身に着けているが、騎士を彷彿させるほど甲冑を着込んでいない。

 しかし、騎士という言葉は清廉された彼女に似合っているの、違和感はなかった。


「えぇ。シャルルマーニュ様という王の直属聖騎士をしていたわ」

「そう、なんですか……」


 頷いて、己の失態に気づいた。

 この話は彼女の以前のことだ。オリヴィエが扶郎と同じ境遇なのだから、彼女も死んでこの世界にやってきた事になる。簡単に踏み込んでいい話題ではない。

 口篭もる扶郎に気づいたオリヴィエは苦笑した。


「私からした話よ。気にしなくていいわ。だから、謝ることもしないでね」

「…………、解りました」

 

 先を見越した言葉に扶郎も苦笑する。


「あと剣のことなのだけど、君も今日初めて触ったとは思えないほどの腕前よ」

「これは、星具のお陰で──」

「それは君とカリストの予想でしょう? 私は剣を初めて握ったのに幾人の猛者を破った天才を何人か知っているわ。もしかしたら、君もそうかもしれないわね」

「騎士様に褒めてもらうと、調子に乗ってしまいます」

「その時は私が伸びた鼻を折ってあげるわ。安心しなさい」


 オリヴィエは茶目っ気たっぷりに微笑む。

 周囲を警戒しているため、先程から面を向かって話していないのだが、時折横目で覗く彼女の顔を見る度に、扶郎の心臓が跳ね上がる。

 扶郎、別に女性との面識が皆無なわけではなく、普通に会話もできるのだが、どうもオリヴィエの前では緊張が解れない。


「オリヴィエ────! フロウ─────!」


 移動の最中、空からカリストが飛んできた。

 カリストだけでは害魔の対処はできないが、空中ならば森に蔓延っている害魔の手から逃れることができるので、カリストには空から偵察をして貰っていたのだ。


「お疲れ様、カリスト。────何か見つけたの?」


 優しく労っていたオリヴィエだったが、血相変えたカリストの様子に白銅の瞳を細める。


「オリヴィエに言われたところに行ったらメツキを見つけたと! でもでも、近くに害魔もいると!」

『!?』

「メツキは隠れていて害魔にはまだ見つかってないけど、早くしないと危ないと~」

「あぁ、急ごう」

「ええ。無辜の命を守れなければ、聖騎士の名が廃れるわ」


 オリヴィエがカリスト抱き取って走り、扶郎もその後を続いた。


 女性化してますが、オリヴィエはシャルルマーニュ伝説の聖騎士をモデルにしてます。

 苦労人なのは元の伝説と一緒です。彼女が語った頭の螺子が外れた神父は同じ騎士で大僧正テュルパンのことです。

 オリジナルの武将や伝説の存在を流戻者や応召者として登場させますが、オリヴィエのように実際にある伝説から登場させるキャラもいます。

 というか、七星の使徒は殆どそうです。名前検索したら、一発で正体がバレます。

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