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第2話 役割は特になく

扶郎の名前は扶郎花から。

花言葉は希望。

キボウノハナー。


「好きに生きていいって、平和のための英雄として召喚されたんですよね、僕?」

「そう通りだ。しかし、今の時代、特に手が足りないという訳でもない」


 ラーバインは仰天する扶郎が愉快だったのを隠そうとせず、意地の悪い笑みを浮かべている。


「死後、この世界に流れ着くものは君のように英雄に成れる可能性を持つ者以外にも、初めから英雄として必要な力を持つ者もいるのだ。数は多くないが、極稀なほど希少でもない」


 つまり、自分だけが特別な存在ではなく、元々そうある存在がそれなりにいるということだ。


「また、長い歴史から繁栄した国々ほど自衛の手段が豊富であり、流れ着いた英雄の協力も得ることによって脅威に対する力は既にある。半ば強要に戦力を補充する必要も、はっきり言って必要もない。現在、差し当たって世界に巨大な陰謀があるとも聞かぬしな」


 ラーベルトの言葉を聞けば聞くほど、扶郎の必要性を感じなる。

 個人的に必死の覚悟で意気込んだのが、恥ずかしくなるほど、少し落ち込む。


「中には己が利益のために他者を騙して、思うままが操る者もいるが君は幸いなことに我々の教団はそういったことはしない。少なくとも、表向きにはね」


解りやすい含んだ言い方を聞いて、扶郎は怪訝する。

最初に出会ってから感じていたことだが、ラーバインという男を信用するのは難しそうだ。


「私が所属する教団の名は《クラリタス教》。その教義を語りたいことだが、今の君には関係ないことだ。重要なのは、我々が神器と呼ばれるものを管理し、神器によって召喚された者を保護することにある」

「保護ですか?」

「混沌と呼ばれた時代では君のように召喚された者たちの力を求めたが、先の説明通り、今の時代は平和と呼べるだけのものがあり、態々、君たちのような者の力を請う必要もないのだ。

 更には君を召喚した《七星の星具》の場合、死に際の願い反応して英雄足る者たちを呼び寄せるが、呼ばれた側からすれば説明されないまま自動的に対価を先払いされ労働を強要される。

 我々の価値観からすれば、それは悪徳な詐欺だ」

「言われてみれば、そうですね」


 やる気になっていた扶郎だが、確かに死に際の願いを叶えて貰ったとはいえ、その後のすることは説明されていない。

 扶郎がいた世界で例えるならば、ある日突然お金に困っていたら誰かがそれを助け、その代償としてすぐさま紛争地帯に兵士として送り込まれるようなもの。まともな交渉もなしにだ。


「神から賜った神器に呼ばれたのだから、教団のために働かせるべきだという意見もあるがね。

 平和の世と説明したが、小競り合いや争いがないわけでもなく、雑多な仕事も幾らでもある。だが、それでは奴隷と同じであり、教義にも反する。

 よって我々は君のような者を保護し、最低限の生活を提供して管理するだけにしている。管理といっても動向を知るだけであり、君は好きに生きるがいい」


 最低限の生活を提供するという言葉を聞いて、扶郎は安心した。

 別に平和だから好きに生きろと言われたが、無一文で何も知らぬ地に放逐される訳ではないらしい。


「我々が提供するものは定住地と民権。君は定期的に生活を報告すればそれでいい。

 あぁ、一応言っておくが仮に犯罪行為を及んだ場合はそれ相応の対処はするので、覚悟をしとくように」

「……そんなことしません」

「一応と言っただろう? あとは、三月ほどの慎ましく生活できる金銭をのちに支給するが、早めに食い扶持は探すのをお勧めする。最悪、教会のほうで雇うことも可能だ」

「……考えておきます」

 

 最終手段として考えおくが、自分が教会勤めというのは場違いな気がしてならない。

 更には目の前の男が上司になる可能性を考えると、苦虫を噛んだ気分になる。

 教えてもらっている身ではあるが、どうにも目の前の男は信用できない。


「では、他にも色々と聞きたいことがあるだろうが、私からはここまでだ。

 あとはアレに任せる。カリスト、入ってくるがいい」

「と~」


 遠くから可愛らしい声が聞こえた。

 ラーバインの背後から、何やら人の頭分ほどの物体が飛んでくる。


「初めましてと~。カリストはカリストというと~」


 可愛らしい声で挨拶。やって来たのは、一見、1.5頭身の熊のぬいぐるみだ。ただ、普通の熊と違って左右の耳が一対の翼になっている。

 鳥のような翼で空中に停滞しているが、「小さな翼でよく飛んでいるな」と不思議に思った。

 いや、不思議と思うならその存在そのものだろうと、扶郎は微笑む。


「扶郎だよ。えっと、妖精さんかな?」


 見るからに人外の存在だが、ラーバインよりも警戒心なく対応できる。

 できるだけ柔らかく挨拶したつもりだが、カリストと呼ばれた生き物は白目になった。


「と~! いきなり妖精と呼ばれてしまったと~! カリストはそんなに妖しいと~!?」

「え、え!?」


 何やらショックを受けたようで、扶郎は戸惑う。

 妖精ではないのか。しかも、妖精と呼ぶのはとても失礼なことらしい。


「これは教団に仕える精霊だ。この世界で精霊を妖精と呼ぶのは人間でいうところ怪しい人間と中傷しているようなものだ」


 成程。人間に言うところの、愉快そうに笑っているお前に対する言葉か。

 少しイラっとしたが、文句を言う前に扶郎は目の前にカリストへ頭を下げる。


「ごめん! 知らなかったとはいえ、傷つけることを言って。君は全然妖しくなく、とても可愛らしい子だと思ったんだよ」

「と~? かわいい? 照れると~」


 もじもじとする様子をみて、機嫌が治ったと胸を撫でおろす。


「これは我々教団と君らを繋ぐ仲介者。そして、これからの案内役だ。私はこれから君のおかげで色々と連絡や手続きをしなくてはならないのでね。あとは頼むぞ、カリスト」

「と~、まかせてと~」


 そう言って、扶郎の反応を見ないまま、ラーバインは背を向けて立ち去った。

 カリストは彼に手を振ったあと、反転して扶郎を見る。


「フロウだねと~。改めまして、カリストというと。よろしくと~」

「こちらこそ、よろしく」

「何か分からないことがあればカリストに聞くといいと。でも、カリストも解らないことあるから、そのときは知っている者をおしえると~」

「わかったよ」


 気の抜けるような台詞だが、扶郎は気楽な心持になった。

 完全に信じないとラーベルトに言ったが、カリストの無垢な瞳を見ると気持ちが和む。

 色々な不安と疑問は残ったままだが、一先ずリラックスできる状態になった。もしも、最後までラーベルトに世話されることになれば、警戒心だけで胃が痛んだだろう。


「早速だけど、今からフロウが住むお家にご案内すると~」

「ありがとう。その前にいいかい?」

「なにがと~?」

「そこには俺以外の使徒がいるのかな?」


 畏まった話し方はせず、友人や幼い家族に話すような自然な口調で尋ねた。

 ラーベルトは自分を最後の使徒だといった。更には時折、複数系で自分のことを説明した。

 ならば、同じ境遇の存在がいても不思議ではない。


「そうと~。ラーベルトはそこを話してなかったと~?」

「そうだね」

「と~。ショクムタイマンと~。そうだと。《七星の使徒》は全員で七者(ななしゃ)と〜」


 七社? もしかして、七者と数えるのだろうか。

 変わった数え方だと思いながら、扶郎はカリストの説明を聞く。


「フロウはその使徒たちゼンインといっしょにクらしてもらうと~」

「共同生活か」

「フロウたちのことは内緒だから、教会から離れた場所で住んでもらうと~」

「内緒なんだ」

「いろいろと面倒なことがあるみたいと~」


 自分たちの存在が秘密なのは、教団の中には召喚された英雄に働かせろという声があることをラーバインから聞いている。

 もしも知られれば、その声が強まるのかと、想像したが憶測を考えるだけ無駄なので思考はそこで中断した。


「わかった。なら、案内してもらえるかい?」

「わかったと~」


 パタパタと、羽をはばたかせて移動するカリスト。

 扶郎も動こうとしたが、カリストがどうにも遅い。速度は扶郎がゆっくり歩いていると同じくらいだ。

目的地までどれくらいあるが知らないが、離れているならば時間が掛りそうだ。


「カリスト。俺が君を抱えるから、君は抱えられながら道を教えてくれる?」

「と~? だっこと~? ありがとうと~」


 警戒心もなく、喜んで自分の胸に飛び込むカリストを扶郎は抱き取る。

 まるで子供のようだ。いや、子供なのかも知れない。

 小さな案内役を抱ええながら、扶郎はこの場から立ち去った。


 ❖ ❖


 そこはまさに別世界だった。

 外に出るまで、教会の静寂な空気に飲まれていた扶郎だったが、目に飛び込んできた光景に息を飲む。

 教会は見晴らしが良い場所にあるようで、青天の下に広がる街並みを一望できた。

 屋根が翆色に統一された歴史を感じさせるゴシック様式の建造物。合間に聳え立つ近代的な高層ビルと調和を取り、壮大な景色を表現していた。

 これだけでも扶郎が知る街、近代ヨーロッパの街並みに匹敵し目を張るが、幻想的なことに幾何学模様の巨大な円環が空中に浮かんでいた。それに虹色の輝きを放ちながら、透明な翼で空を遊覧する白蛇。加えて、小舟のような飛行艇が幾つか。

 遠くには彼方まで広がる水面があり、別方向には新緑の山。首を横にふれば、何処までも続く大高原。

 自然、文化、夢幻が交差した世界の姿に扶郎は圧倒された。


「? どうしたと? 出口はあっちだと~」


 硬直する扶郎を不思議そうに見上げるカリストの声で扶郎は我に返る。

 あれは何かと尋ねようと思ったが、聞くものが多すぎで口篭もった。


「ごめん。素敵な景色に驚いた。俺がいた世界ではこんな場所はなかったから」

「と~。その気持ちわかると~。カリストも初めてここにきたときは驚いたと~」

「魔法とかあっても、不思議じゃないね」

「魔法? 勿論、あると~」


 幻想的な光景に魅せられた扶郎がそう呟くと、カリストは不思議そうに首を傾げる。

 どうやら、魔法というものはあることが当たり前のようにあるようだ。


「そうなんだ。俺が世界では、御伽噺の中しかなかったんだ。良かった教えてくれかい?」

「いいと~。魔法はこの世界で起こす神秘の総称と。ずっと昔は忍術や魔術、法術と色々分別されていたけど、道具を使わずに起こせる神秘はまとめてそう呼ぶようになったと~」

「へぇ、そうなんだ」


 不思議なことをまとめてそう言うならば、混乱しなくて助かる。

 分類分けすれば、もっと細かいかもしれないが、今は不思議な力は魔法というと扶郎は覚えた。


「道具を使って魔法もできたりするけど、と~。カリストが分かるだけの魔法のお話をしたら日が暮れてしまうから、また今度でいいと~? 早く、お家に案内したいと~」

「わかった。立ち話をしてごめんね」

「気にしないと~」


 微笑みながら、扶郎たちはようやく移動を再開する。

 門を潜り、人気がない長い坂道を下ればそこは繁華街。活気溢れんばかりの街並みであり、そこの住人たちはどれも統一性がない。

 大半の姿は扶郎やラーバインのような人間。だが、残りは人間よりもある部分が長く、そもそも頭部が獣や虫、背中に翼を生やして空を飛ぶ住民もいる。

 この世界の美醜は分からないが、扶郎の目には天使や妖精と称してもいい美貌を持った存在が幾らでも目に映った。

 他にも何の食べ物か分からない屋台に、よく分からない道具。

 目に映るのが総て新しいものばかり。疑問は増えるばかりだ。

 しかも、どれも聞こえてくる会話を理解できることが一番不思議である。この世界に召喚されるとき、頭の中に刷り込まれたのだろうか。

 言葉を失いながら、カリストの案内されるまま移動するといつの間にか路面電車のような移動物に乗っていた。

 座席に座って、少し落ち着きを取り戻した扶郎は、積み重なった疑問を一つ、言葉に出して尋ねる。


「そういえば、他の使徒たちってどんな人なんだい? えっと見た目とか」


 そもそも人なのだろうか。

 いや、周りに疎らにいる住民たちも人と何か別の生き物を足して割ったようで、人と言っていいのか分かない。そもそも、見かけは扶郎と同じでも者たちも人と呼んでいいのか分からなかった。外見は同じでも、中身は別の生き物の可能性もあるだろう。

 だからこそ、最後の言葉が思わず出てしまったのだ。


「と~? そうとね~。みためはフロウとおなじ只人族と~」


 最後の言葉で質問の意図を理解してなかった様子だが、カリストはフロウが聞きたい答えを言った。

 思わず、息を吐いて安心する。見た目がなんであれ、仲良くする努力はするが、いきなり頭部が昆虫の人物と共同生活することはないようだ。もしも別種の存在ならば、慣れるまで苦労するとこだった。

 そして、只人族というのが扶郎の種別に該当するらしい。

 他にも聞きたいことがあるが、まずは共同生活をする相手のことを知ることにした。


「じゃあ、見た目以外、中身はどんな感じなのかな?」

「…………」


 にこやかに尋ねたのだが、扶郎の腕に抱えられているカリストは困った顔する。


「どうしたんだい?」

「前にフロウと同じこと質問をされて、それを教えたら、あとで別の使徒に勝手に教えるな、って怒られたと~」


 落ち込んでいるカリストを見て、単なるプライバシー侵害の類ではないことを、何処となく察した。


「他にも遊んでばっかりする使徒だったり、お酒ばっかりする使徒だったり、定期報告しないといけないのに姿を見せない使徒だったり、口を合わせてくれない使徒だったり、みんな好き勝手と」


 教えてなと言われたのに教えてるね、とは言えない。

 小さい体で苦労しているようで、扶郎は哀れみを感じた。更にそんな相手たちを共同生活になるのかと、これからのことが心配になってきた。


「中々、大変な人たちのようだね」

「そうと~。でもでも、オリヴィエだけは違うと!」

「オリヴィエ?」


 その名を口に出した途端、カリストは元気を振る舞う。


「オリヴィエは困ったほかの使徒をなんとかしてくれようとしたり、近所の者たちの手伝いをしたり、困った者を見つけたら助けたり、悪いやつをやっつけたり、すごいすごい、いい者と~」

「それは凄い人だね」


 特に悪い奴をやっつけるという言葉が一番興味を持った。

 どれほどの相手かは知らないが、そうするならば少なくとも自分よりは英雄足る存在なのだと評価する。


「フロウも何かあればオリヴィエに相談すると~。きっと力になってくれると~」

「わかったよ」


 頼れそうな相手が一人だけでもいるようなので、不安は残るが扶郎は少しだけ安心するのだった。


根源世界アルケーには様々な種族がいます。

住民と扱うことができるのは人ような形で相互理解できるかです。


あと魔法のについては大昔、こんな感じ。


「これは体内の魔力を使って使う魔術!」

「魔法だね」

「法術とは大地に祈りを捧げた神秘!」

「うん、魔法」

「体内のチャクラを循環せて、行使する忍術!」

「それも魔法」

「第六感を覚醒され、次元突破した超越せし力。名をデウスノーツ!」

「長い。それも魔法」

「1月で30キロ痩せました。今は素敵な恋人もいます」

「魔法だな」



 だいたいこんな感じ。

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