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第14話 業


 その害魔がアルケーに出現された明確な過去記録は三度。それらしい伝承も存在するが、歴史書や国際連立が管理する情報では三度とされている。

 一度目の被害は過去最大だった。

 忽然と一つの地域に生息していた生き物は消失し、原因究明をした者たちも消息不明になる。害魔を発見したのは、調査隊ではなく天体研究をしていた学者が偶然見かけたものだ。

 星と大地の狭間に現れた、無数の六角錘を周囲に停滞された球体。宝石のように美しく、無機質な外見を発見者は何処かの国が作った衛星軌道物かと誤認したが、調べてみると害魔だと発覚する。

 原因不明の大規模消息を引き起こした元凶だと知るのに、そう時間は掛からなかった。


 個体名称を『天より喰らいし物』。


 すぐに近隣国は軍隊や傭兵を派遣。対処に向かわせるも、(くだん)の害魔は真下に生物が確認すると周囲に停滞している六角錘から光線を発射し、焼却する。

 遠距離から魔法や兵器での試みも、100kmの段階で認識し迎撃された。一度目の撃退は、三人の英雄が光線を浴びながら天に槍を投擲し、その命を引き換えに討伐を果たす。

 二度目の撃退は、過去の戦闘結果を参考に害魔の反応圏外から、察知されない小さな熱量、対応できない速度の魔弾で討ち滅ぼした。

 その戦闘を参考に科学技術が発展した大国は対衛星軌道上迎撃兵器を開発。正確無比な熱線で三度目に出現した害魔を一射で葬ることに成功した。


 そして、現在、四度目の出現。


 メルティア共和国は世界有数の大国であり、対衛星軌道上迎撃兵器も所持している。

 既にミニヴィズの傭兵組合支部から軍に通達。確認や連絡も軍本部に届いており、対衛星軌道上迎撃兵器は発射準備を完了していた。

 あとは()()()()に入れば、一撃で迎撃できるだろう。


「メルティア共和国が所持しているだろう対衛星軌道上迎撃兵器は移動式ではなく設置式。少なくとも公ではそうなっている。

 例え、極秘で対衛星軌道上迎撃兵器が運搬できようが、都合よく辺境付近に置いてはいないだろう。そういったもんは首都や国境付近にある。持ってこようにも、時間が掛らぁ」

「避難しようにも、空の上にいる害魔の速度が速くて間に合わない。貴方の計算では、あと一時間も経たずこの町に到着ですか」


 ミーミルの話を聞いたオリヴィエは神妙な顔で確認を取る。扶郎は事態の緊迫に苦し気な顔を見せていた。

 三人は会話を住人に聞かれて混乱を広めないよう、最初に移動してきた山岳部付近に移動していた。

 既にミニギョムでは避難誘導が行われているが、猶予は殆どない。


「間隔を置いて移動さした使い魔たちを消失順に計算するとそうなるなぁ。大抵の害魔は生き物に反応すっから、逃げようが追われる」

「貴方の《業理(ごうり)》で住人を全員避難できなかったのですか?」

「業理?」


 扶郎が知るところの業理というのは、世界の住人が意思疎通できる不思議な力ではなかっただろうか?

 疑念の反応を扶郎がすると、ミーミルがそれに気づいた。


「まだ知らねぇようだな。業理つうのはこの世界で言うところの個体や渇望や経験を集約させた魔法の奥義、その一つだ。

 俺ら《七星の使徒》は前世でくたばる時にした願望が自動的に《業理》として開花される。

 性質にもよるが、極めれば己の《業理》を世界に刻み付けて永遠の概念にすることも可能だ」

「それが、疎通の業理ですか」

「そうだ。大昔、言葉の壁を感じた奴が『皆が話し合える世界であってほしい』という願望を世界に刻んだ」


 その業理を刻んだものは、余程世界に貢献したことだろう。

 英雄とは何も害敵を殲滅する存在だけでない。このように、世のためにする者も英雄と讃えられる存在であるのは間違いなかった。


「永遠の業理になるには法則を書き換えるか、追加できるたりするような性質。概念に昇華できるほどの力。そうあって欲しいという不滅の意思が必要なんだよ。

 俺の《業理》は単なる『遠くに行きたい』ていう性質だからな。永遠の業理なんざなんねぇだろうがよ」


 自分ならば『壊れないで欲しい』という願いだろうかと扶郎は考える。

 世界に刻めそうな性質であり、なんでも壊れない世界というのは理想的なのではないかと思う。

 だが、そこまで自分が至れるかなど今は関係ない話だ。今はミニヴィズの住人をどう助けるかが問題なのである。


「そんで俺の業理で町の連中を避難させる、これは可能だ」

「なのにしないのは、貴方が薄情だからではないですよね?」


 問い詰めるようなオリヴィエの視線を受けて、ミーミルは苦笑する。


「どうとでも受け取ってくれや。数人ならいざ知らず、()()()()()()()()()連中なんざ近くの町まで送るのが限界だ。

 移動しても、ちょっとした時間稼ぎにしかならねぇ。そうしたら連続は使えねぇし、お空の上のバケモンに知らねぇ奴らと心中なんざ御免だよ」

「理解しました。貴方に身を挺してまで無辜の民に尽くせとは言いません」


 例え、ミーミルがオリヴィエの部下であっても同じことを彼女は言っただろう。

 オリヴィエは前世で騎士団いたとき、作戦を考える側だった。

 智将とも謡われた彼女は部下や仲間に、活路が全くない作戦など言い渡したくなどない。

 善意はあるが、冷静に見て単なる消費を増やすだけだからだ。

 だからとって、諦める彼女でもない。

 消費するだけの策を取らないなら、生産性をある策を講じる。それが智将と呼ばれた者の務めであり、聖騎士と讃えられた己の維持だった。


「ならば、貴方の業理で害魔の近くまで接近し、私の業理やヨツバくんの矢で殲滅するのはどうですか?」

「相手の害魔はそう頑丈でもない。核を狙えば新入りの矢でも倒せるだろうが、空間を繋いだ瞬間、向こうに迎撃されてやる前にやられる可能性が高けぇ。

よくて相打ちだな。俺の見立てでは、三名とも攻撃に耐えられるほど頑丈じゃねぇよ」

「でしたら空間を繋がず、地上から堕とすのならばどうでしょう?」

「お前の業理は威力があり過ぎるが迎撃されるか、避けられるだろう。てめのは、反則技がなければ『必殺』になっても『必中』じゃねぇだろが」

「だったら、僕の矢ではどうです?」


 ミーミルの言葉にオリヴィエが苦悶を浮かべるのを見計らって、扶郎が発言する。

 ミーミルは一瞬考える素振りをしたが、表情は変わらない。


「お前の矢は見たところ堅いだけが取り柄で熱もねぇし、届くなら有効だ」

「なら──」

「だが、てめぇは空の上にいる奴を目視できるか? 空高く飛ばせるか? 俺の見立てでは無理だが、どうだ?」

「…………」

「だんまりは肯定と受け取るぜ。聖騎士様ももう思いつかないようだし、策は尽きた。あの町の、終焉の運命は変えられない」


 歪んだ顔で浮かべた言ったミーミルの言葉に、二人は何も言い返さなかった。

 そんな二人を鼻で笑ったミーミルは急に視線を彼らから外す。


「んじゃあ、俺らは帰るけどよ。ついでだからおめぇも連れってやるよ」

「え?」

「…………」


 ミーミルが誰もいない場所に向かってした言葉に扶郎が戸惑うが、オリヴィエは沈黙しつつも表情は変えない。

 彼女も先程から物陰に誰か潜んでいたことに気づいていたからだ。

 数秒の間、観念したその人物は三人の前に姿を現す。


「貴方はゾイヤさん」


 現れた相手の名前を扶郎が言ったが、向こう彼ではなく最初に呼びかけたミーミルに顔を向ける。


「避難の準備する際、偶然貴方たちを見つけてついてきたんだ。隠れて覗き聞きをしてたのは謝るけど、先程の話は本当ですか?」

「あぁ。一人くらいなら次いでだ。借りにするがな」

「では、お願いします」

「待ってください、ゾイヤさん! なんで、貴方がここに? しかも、家族を置いて自分だけ逃げるつもりですか!?」


 驚愕した扶郎の発言だったが、聞いたゾイヤは侮蔑の視線を彼に向ける。


「逃げるのはアンタらも一緒だろ。それに家族だけど、別にあの人たちは家族じゃない」

「な!? だって、親じゃないですか?」

「言っただろ? 俺は転生者だって」


 最早礼儀を捨てた彼は、罵るように扶郎へ喋った。


「腫物みたいに扱いやがって。いい加減うんざりなんだよ! ここに生まれた瞬間から赤の他人ばかりだ! 見捨てようが、どうにも思わない!」

「本当に、そう思っているのですか?」

「ふん。説教なんざ聞きたくないね。なぁ、そこのあんた」


 扶郎との話は終わったと、ゾイヤはミーミルに話しかける。


「見たところ、情なんて気にせず、損得で計算するんだろ? 借りは幾らでも作るから、俺もお願いできないか?」

「あぁ、かまわない」

「………、家族も一緒にとは、言わないんだな」


 了承したミーミルの横で、こちらも礼儀を捨てた扶郎がゾイヤに尋ねた。

 

「うぜぇなぁ、さっきから! 一緒に住んでた義理で今から誘ったら、他の町の連中に気づかれるかもしれねぇだろうが! さっき、言ってたよな! 町の全員なんて、大した距離は稼げないって! 偽善塗れで気持ち悪いだよ! 死にたければ、お前が俺の代わりに一緒にくたばればいいだろ!」

「……………」


 ゾイヤの言葉に扶郎は沈黙する。

 オリヴィエも厳しい顔をしているが黙っていた。口が悪かろうが、彼は自分が生きるのに必死なのだ。自己犠牲は強要するものでもない。

 ミーミルだかけが、笑って彼を見ていた。しかし、その目がとても白けているのをゾイヤは気づかず、彼に話しかけ。


「ふん。おい、早く移動してくれないか? ここにいたら、空の上の害魔に襲われかもしれない」

「あぁ」


 短く応じ、ミーミルが己の業理を発現するために必要な星具の鎖を周囲に展開する、その時だった。


「待った」


 扶郎がその言葉を発言したのは。

 聞いたゾイヤは顔を真っ赤にして彼を睨みつける。


「お前、いい加減に──」

「ミーミルさん、まだ聞きたいことがある」


 扶郎はゾイヤを無視し、ミーミルを真っすぐ見ながら尋ねた。

 彼の瞳を覗き込みながら、ミーミルは業理の展開を中断する。


「なんだぁ?」

「貴方のルーンは色々なことができるとオリヴィエさんから聞きました。なら、貴方の力で俺に空の害魔を飛ばせる力をルーンで刻むことはできますか?」

「!? ヨツバくん、それは──」

「可能だ」


 そうした場合どうなるか知っていたオリヴィエが止める前に、ミーミルが肯定した。

 彼は冷ややかな目で扶郎を見つめる。


「でも、刻む前にお前が発狂死する可能性が高いぞ?」

「発狂死?」

「膂力を上げるのは筋肉痛になる代償で済むが、空の上を見れるまで視力を上げるとなると直接ルーンを刻まなければならねぇ」

「直接、刻む」


 そこで扶郎がルーンで視力を高める条件を理解した。


「眼球を刃物で何でも傷つけるなんてもんじゃないぞ。眼球を抉り取られたほうがマシなくらい、()()()()悶え苦しむ。それでもいいなら、やるがどうする?」


 ミーミルの言葉を聞いた扶郎は、しばらく黙った。

 流石に怖気ついただろうと、ミーミルが高を括ったとき、目の前の少年の首が縦に振るわれた。


「お願いします」

「ヨツバくん!?」


 その言葉に誰よりも驚きの声を出したのはオリヴィエだった。

 彼女は心配と無謀を咎めるのを合わせた顔を少年に向ける。


「彼が言った死ぬほど苦しむは比喩ではないのよ!」

「たしかに、すっごく痛そうですね。想像しただけで、死にそうで怖いです」

「なら───」

「でも、必ず死ぬなら俺はやってみたい」


 はっきりと言った言葉に、オリヴィエは絶句した。傍で聞いていたゾイヤも奇妙な物を見るような目を扶郎に向ける。

 ただ、ミーミルだけは冷静な眼差しで、少年を見つめていた。


「理解できないな。何故見も知らない相手にそこまで身を捧げられる?」


 静かに、ミーミルが扶郎に問う。

 その言葉は先程まで舌を捲った乱暴なものではなく、厳格な何処か神秘的な声音だった。


「オリヴィエ・ディア・モングラーヴのように無辜の民を守る騎士道精神はお前にはないだろう。それは単なる英雄願望か? 自己犠牲に酔っているのか? 自由にしろと言われたにも拘わらず、望みもしなかった使命に準ずるつもりか?」

「────俺は」


 纏う雰囲気が変貌したミーミルに驚きつつも、扶郎ははっきりと言った。


「こう言ったら馬鹿にされそうですけど、そうしないのが嫌で、そうするのが好きだからする、単純です」

「言葉になってない」

「ですよね……。俺って施設にいたんですよ」

「!?」


 扶郎の言葉を聞いたオリヴィエは息を飲む。

 だが、今は彼の言葉を聞く時だ。己の反応を押し殺し、彼女は静かに耳を傾けた。


「周りは誰も知らない人ばかりだ。なのに、俺にみんな優しくしてくれた。仕事だからだとか、そんな範疇は超えてさ。怒ったり、必要以上甘やかされたりね。

 最初はなんでここまでしてくれるのだろうって、不思議だったんです」


 思い返す日々。施設の従業員でない先輩たちや同輩が自分を構ってくれた。

 その理由を知ったのは、扶郎が暫く経ってからのことである。


「で、俺も少し大人になって、小さい子を世話して分かったんです。

 『好きだから』してくれたんです。もしかしたら、誰かに言われたかもしれないけど、俺はそれで助かったし、同じように俺がして、その子たちに助けになるのが嬉しかったからしたんです。

 多分、ミーミルさんからすれば自己陶酔とか自己満足とか言われそうですけど、でも結局、人の行動って全部そうだと思うんですよね」

「…………」

「俺自身は平凡だけど環境が特殊だったからか、頑張ったらできたのに困っている人たちを見捨てるのは嫌なんです。こうもできたのにって、後悔したくないんです。

 例え赤の他人だろうが、誰かが笑ってくれるならいいじゃないですか。それに、家族というものがバラバラになって、俺みたいのを増やすのは嫌ですし。仲があんまり悪くなくても、一緒にいて苦しくないなら、一緒にいれたらいいでしょう」

「──なるほど」


 理解したようにミーミルが呟く。

 これが彼の、前世からの宿業なのだろう。

 話を聞いていたオリヴィエは深い眼差し見つめており、ゾイヤは苦い顔を浮かべている。

 静寂な中、ミーミルだけが言葉を返した。


「つまりは、お前はどうしようもない馬鹿なのだな」

「馬鹿って、いや。馬鹿にされることはありましたが」


 自分でもご高説を垂れたと自覚している扶郎は、悔しそうにしながらも言い返さない。

 そんな彼を見て、ミーミルは鼻を鳴らす。


「そんな馬鹿を俺は既に知っている。そういう者は好きにさせるのが一番だ」


 遠い、誰かを思い出しながら、彼はにやりと顔を笑った。


「いいぜぇ、吠えずらかいてもてめぇの心情を貫けるか試してやるよっ!」





 かんそうが ほし い。

 つ づ け ていいのか ふ あんに なる。


 という訳で、良かったら評価や感想をお願いします。

 そろそろ連日更新無理そう。

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