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第13話 転生者の事情

 また副題変更。0話にもポップ?な話追加。


「私は食いしん坊ではありません。燃費が激しいのです。そのことは誤解なきように」


 と、言った後、落ち着いた音楽が流れる店内で、オリヴィエは運ばれた食事を綺麗な所作で食べる。

 それは食いしん坊ではないのかと扶郎は思うが、二人用テーブルを挟んで、向かい合わせの彼女が注文したのは肉系定食一品と小さなアイスのデザートのみ。それくらいの量なら普通であり、腹の虫がなったくらいで食いしん坊と呼ぶのは失礼だろう。

 空腹に恥ずかしがる彼女はとても愛らしかったので、それだけ胸に秘めた。


「それだけで十分なんですか?」


 食事を終えようとしたオリヴィエにそんなことを尋ねる。

 その一言が、最後の一口を食べる瞬間まで幸せそうだった顔を不機嫌なものに変えた。


「十分です。むしろ胃が満たされ過ぎては集中力が乱れます。というか、ヨツバくんはそんなに私を食い意地が張った女に仕立てあげたいのかしら?」

「そんなつもりはないけど、よく働く人ってよく食べる印象がありましたから……」

「個人によるでしょう。あまり、そんなことを言うと君の分のデザートを食べちゃいますよ」


 メニューが分からなかった扶郎はオリヴィエと同じものを注文しており、彼の手元には手付かずのアイスが残っていた。

 

「どうぞ?」

「いや、冗談よ。それでは私が要求したみたいで、本当に食い意地がはった女に見えるでしょうが……。君が食べてください」

「なら、遠慮なく」


 そうやって食べる扶郎だが量が少ないので、すぐに平らげた。

 

「では、食事も終えましたし、報酬の分配でもしますか」

「報酬の分配?」

「忘れたの? ロムさんから私たちに幾ら頂いたじゃない」

「あぁ……。でも、僕は殆ど何もしていませんから、それはオリヴィエさんだけで貰ってください」

「そうはいかないわ。君もここまでの道中、ロムさんの護衛をしたのだから、十分報酬を資格があります。傭兵になるのだから、少しくらいお金にがめつかないと、いいように扱き使われますよ?」

「……わかりました。なら、遠慮なく」


 有無を言わせない態度だったので、扶郎はオリヴィエが分けた紙幣を貰う。

 ちなみに、この紙幣は世界共通通貨であり、通貨単位は『アウル』である。

 受け取った紙幣を扶郎が懐に入れてあった財布に入れようとした。これは扶郎がこの世界に来たときに持ってこれは品の一つだ。なお、ゼシュテンゼルで着替える前に着ていた服は、ミーミルと合流するまえにコインロッカーに袋へ入れて預けてある。

 扶郎は紙幣を入れた財布を再び懐へ戻そうとしたが、その前に彼はあることを思い付き、財布はその手に持ったまま、オリヴィエに話しかけた。


「オリヴィエさん。せっかくなので、ここは俺が奢りますよ」

「別に構わないわ。私がご馳走してあげる」

「いや、傭兵の手数料やこの服まで今日はオリヴィエさんに出してもらってばっかりだし、ここぐらいは俺が出さしてください。せっかく、報酬を貰いましたしね」


 元々、扶郎は傭兵の仕事で報酬を得られれば、世話になっている彼女に何かご馳走でもするつもりだった。

 ここだけの食事代だけでは到底手数料と衣服代には届かないが、少しずつでもお礼をしたい。

 オリヴィエは気が引けるのか悩ましい顔を浮かべる。


「うう~ん。なら、せめて自分たちの分は自分だけで払うのはどうですか?」

「いえ、男が払うって言ってるんです。なら、女の人は黙って奢られてください」


 扶郎が強気な発言をすると、オリヴィエは目を丸くした。


「……君はそんなことも言うのね。しかも、聞き手によれば差別にも聞こえるわ」

「あぁ……。もしかして、怒りました?」

「いえ。少し驚いただけ。なら、ここはありがたくご馳走になろうかしら」

「えぇ、そうしてください」


 オリヴィエが自分で払うつもりだったので、ここの食事代は辺境の町にしては上質で、その分値が張る。

 だが、受け取った報酬の半分近くは消える扶郎は満足した。

 店から出ると、丁度、扶郎たちは見覚えのある相手に出くわす。


「おや、貴方たちは傭兵の」


 扶郎たちは話しかける必要もなかったが、向こうから声がかかってきた。


「ゾイヤさん、でしたね。お買い物の帰りですか?」

「えぇ、そうです」


 扶郎が応対すると、ゾイヤは頷き、申し訳なさそうな顔した。


「すみません。先程は。人さまの前で見苦しかったでしょう?」


 ロムとゾイヤとの余所余所しいやり取りのことだと察した扶郎は、気にしてないと言わんばかりに微笑む。


「大丈夫です。ご家庭の事情は其々だと思いますから……」

「はい。実は──」

「いや、勝手に話だそうとしているぞ、この人!?」


 いきなり身の上話をしようとしたゾイヤに扶郎は愕然とし、傍にいるオリヴィエも戸惑う。


「私は転生者でしてね。聞いたことがありますか?」

「あ、はい。一応」


 傭兵であったケイラウトを思い出しながら、扶郎は話の流れを断つことを諦めた。


「なら、話は早いですね。つまり、そういうことです」

「? つまり、どういうことです?」


 ここから身の上話が続くと覚悟した扶郎は、突然の幕引きに首を傾げる。

 自分で言っておいてその反応が気に入らなかったのか、ゾイヤは眉間に皺を寄せるも、傍にいたオリヴィエが間に入ってきた。


「彼は転生者のことを知ったばかりで、事情をそこまで詳しくないのです」

「そうなのですか……」

「私の方からは、心中お察しします。それしか言えません」

「そうですよね。いきなり身の上話をして申し訳ありません。誰かに聞いて欲しかったんです。では、ご迷惑をかけました」


 頭を下げて、ゾイヤはそのまま去る。

 

「あの、オリヴィエさん。転生者だから何で親子関係が上手くいかないんですか?」


 困った顔してオリヴィエが見送った後、扶郎が疑問の解消のため尋ねる。

 振り向いた彼女は少し迷うも、扶郎の今後のため、早めに知識を身に着けた方がいいと判断して教えることにした。


「この世界に何も記憶もない状態で生まれるのが新生者。私たちのように前世の時と同じ状態である流生者と違い、記憶を引き続いたまま肉体だけが赤子としてこの世界に生まれた者を転生者と呼びます」

「はい。大体、わかります」

「そこまで分かるなら後は簡単。生まれた子供が自分よりも経験がある存在だと、どうなると思いますか?」

「…………」


 想像してみる。

 母親が産まれた赤子を拾い上げて、自分よりも口が達者だったとしたら。

 幼いと思った相手が、実は中身が成熟した存在であるならば。


「それは、きっと──」

「えぇ、気味が悪いと、そう思う人もいるでしょう」


 扶郎が躊躇った言葉を、オリヴィエははっきりと言った。


「最初から考える頭があるから、手のかからなくていい。中には転生者であることが立派な素質として扱われて、大事に育てられる者もいます。それがケイラウト。

 逆に、転生者であることが汚点だと捉える者もいます」


 それが誰なのか、オリヴィエは何も言わなかった。


「転生者を美点と見ることができない人たちは、いない者として扱うか、最悪生まれた赤子をすぐ捨ててしまう場合があります。施設ならマシ。最悪野に置き去りにされてしまうわ」


 そうなってしまえば、幾ら前世の経験があっても、生れ立ての赤子ならば生きてはいまい。

 いや、本当はそれすらまだ、最下層ではないのだ。

 オリヴィエは説明しないが転生者と分かった瞬間、殺処分される場合もある。


「そういった意味でも、一緒の家に住んでいるだけ彼らは恵まれた部類に入ります。だから、彼らをヨツバくんが気にする必要はないのですよ。君が言ったように、ご家庭の事情は其々、ですからね」

「そうですね……」

「だいたいねぇ、転生者が嫌なら妊娠した時に防ぐ魔法だって幾らでもあるんですから」


 オリヴィエは呆れ気味に語った内容は事実存在した。

 しかし、それは情報が中々届かない辺境では分からない内容である。

 彼女も重々承知の上だが、扶郎が気にしないよう配慮するため、あえて管理の怠慢であるかのように語ったのだった。

 だが、扶郎は彼女の意図とは別の方向に、思考は変化する。


「妊娠した……時? え? もしかして、経験が──」

「? ─────!? な、何を言っているの!?」


 扶郎が何を考えているか察したオリヴィエは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「偶々! 散歩をしていた時に知り合った人に教えてもらった内容! 大体、私は義理の子供はいたけど、未婚なのだから!」

「わ、わかりました! ごめんなさい! 変な誤解をして!」


 新たな衝撃事実を聞いたような気がするが、腹を立てたオリヴィエに扶郎は謝り倒す。

 何度か謝罪を繰り返すと、少し彼女も収まった。もっとも、苛立った気分は残ったままである。


「分かればいいのよ、分かれば。ほら、ミーミルと待ち合わせの時間までそこまで余裕ないし、行くわよ!」

「は、はい」


 熾烈なオリヴィエに困りながら、扶郎はつたつたと歩き出した彼女の後を、慌てて追った。

 

 ❖ ❖


 ミーミルの指定した時間まであと十五分。

 だが、扶郎たちが待ち合わせの場所に行くと、既にミーミルの姿があった。

 彼は二人を見つけると、オリヴィエの様子に気づき、小馬鹿にしたように笑う。


「聖騎士、随分のご機嫌斜めじゃねぇか。新人と痴話喧嘩でもしたのかよ?」

「低俗な思考ですね。痴話喧嘩なんてしていません」

「おぅおぅ、怖い怖い。おら、新入り。てめぇが一緒にいて機嫌悪くしたんだから、ちゃんと面倒をみろよ」

「はい。わかっています」

「なんですか、そのやり取り? 私は不貞腐れた子供ですか?」

「いや、そういうつもりではないです」

「ヨツバくんが謝ることではないわ」


 ため息一つ。呆れたこでオリヴィエの機嫌も平常に戻った。

 そのまま彼女はミーミルに目を向けて、訝しげに尋ねる。


「それより、貴方自身が指定した待ち合わせの時間より早く来ていましたけど、もう調べ物はいいのですか?」

「あぁ、知りたいことは知った。確認もとれたし、こんな町とっとずらかるぞ」

「こんな町って、確かにゼシュテンゼル比べれば便利ではないでしょうが、その言葉はこの町の住民に失礼でしょう」


 三人がいるのは街の入り口近くからか、今は周りに彼しかいない。

 オリヴィエの言葉どおり、先の言葉を住人が聞けば非難の視線が集まっただろう。

 尤も、そうなってもミーミルは気にせず、今のような不遜な態度だったはずだ。


「相も変わらず聖騎士様は気にしいだなぁ、おい。俺は明日にはいなくなるかもしれない連中なんざどうでもいい」

「どういう意味ですか? 私たちに分かるように話しなさい」


 聞き捨てならない言葉にオリヴィエは語気を強めて問い詰める。

 厳しい目を貰ったミーミルは仕方なそうに説明を始めた。


「俺たちを襲ったヤクタ・ロック。あれはこの付近の魔物だが、精人族の依頼者が信じられない顔したように、この町の近い山にはいない連中だ。

 はぐれにしては妙に数が多かった。おそらく、あれは幾つかの群れが集団になったんだろうよ。

 複数の群れが本来の領域から抜け出す場合、だいたいがその場に異物が混じったからだ」

「つまり、あの魔物たちは、何かの自分たちよりも強い生き物から逃げてきた、というわけですか?」


 扶郎がそう発言すると、聞いたミーミルが鼻で笑った。


「その通りだ新入り。なんだよ、少しは考える頭があるんだな」

「ヨツバくんを茶化さず話を続けなさい、ミーミル。それとさっき、貴方が話したこと、どんな関係があるの?」

「お賢い聖騎士さまなら、もう大体察しているだろ」

「認めるのは癪ですが、貴方の方が頭の出来がいいわ。その貴方の意見を私は問うているのです。早く話しなさい」

「俺は頭がいいわけじゃねぇ。物覚えがいいだけだが、まぁいい。新人が言った通り、本来ヤクタ・ロックが根城にしていた場所に異物が現れた。

 図書館でこの辺りの生態系を確認した後、ここにある傭兵組合にも異常がないか話も聞き出した。どうやら、ヤクタ・ロック以外にもある地域にいるはずの生態が、別の場所に出没しているらしい。

 組合がそれを把握したのは、俺が確認したからだけどな」

「貴方は図書館の後、そこまで行ったのですね」


 感心しそうになったがオリヴィエだが、相手を見て、すぐその気持ちは収まる。

 そんな彼女の態度を気にすることなく、ミーミルは話を続けた。


「後詰に、ルーンで編んだ使い魔を異常があった地域に複数飛ばした」

「そんなことまで……すごいですね」


 最早感心しないことを諦めたオリヴィエが、今度こそ感心する。

 初めから素直に感心できなかったのは、ミーミルの態度が日頃から悪いので仕方ない。

 

「んで、飛ばした使い魔は途中でお陀仏。その瞬間、使い魔の目から害魔を目撃した」

「そう、異常は害魔なのね。その害魔の次に狙うのがこの町なわけね」

「そうだな」

「なら、倒せばいいじゃない」


 当然のことのように、オリヴィエは言った。

 彼女は正義感に溢れた女性だ。無辜の民に脅威振る舞う存在ならば、切って捨てるのが通常思考である。

 そんな彼女を見たミーミルは、馬鹿にしたようではなかったものの、苦い笑みを浮かべた。


「簡単に言うじゃあねぇか。俺が編んだ使い魔の最高視認距離は幾つだと思う?」

「……10kmぐらいですか?」

「100kmだ。その使い魔が消える瞬間、ギリギリ見える場所に害魔はいた。()()にな」

「上空、100kmですって!?」


 オリヴィエは愕然とし、扶郎も驚愕する。

 上空100kmとは大気圏付近のことである。地上からでは、あまりにも遠すぎる距離だ。

 次の瞬間、角笛のような大きな音がミニギョムの町に響き渡る。


「角笛───この町の警鐘か。俺の話を聞いた組合がようやく裏を取って、避難誘導するんだろうが、間に合うかねぇ」


 鳴り響く角笛を聞きながら、彼は空を見上げた。


「目撃した害魔は過去にも発見された種類だ。

 個別名称は天より喰らいし物。文字通り、大気圏から地上の生物を食らう化け物だ」


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