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第12話 ルーン


 突如、天空から猛襲してきた巨大鳥の群れ。鳥科魔物のヤクタ・ロック。

 岩肌のような堅い体毛に包まれ、最大100メートルを超す翼を広げながら、鋭い嘴を鉤爪で獲物を狩る危険種。

 魔物とは相互理解できない生物の中でも、より強い個体の総称だ。

 決定的な近いがあるも只人族が猿に近いなら、魔族は魔物に近いとも言われている。尤も、それを魔族相手に言えば侮蔑と受け取られるのが必定だ。

 魔物は害魔と違って、亡骸を生活に利用できるものもあり、放牧や飼いならすこともできる生物である。

 

 だが、それは種類による。

 

 生物の中、人間にとって兎はか弱いものでも、獅子ならば命の危険がある。

 魔物の同様だ。扶郎たちを襲うヤクタ・ロックは同族、時には群れ以外全てを食い物にするので、危険度の中では群を抜いている。

 火力の乏しい魔法へ武器では岩肌の体毛を傷つけることは難しく、ヤクタ・ロックの領域に踏み入れた狩人が襲われる事件など珍しくもない。

 

 扶郎たちの戦力は、彼とオリヴィエ、ミーミルの三名。自衛の手段を持たないロムをオリヴィエが守っており、迎え撃つのは二名。


「っ────!」


 矢を生成し、狙った場所に射る扶郎。手にした星具の恩恵か、昨日同様今迄弓を握っていなかった彼は熟練者のように、飛び交うヤクタ・ロックを射抜く。


「KYOWA!?」


 一匹のヤクタ・ロックに直撃。不壊の矢は岩程度の硬度など諸共せず、翼を貫通させた。

 傷を負ったことでよろめくが、墜落はしない。

 矢を外すことはないが、一矢のみで倒すことは叶わない。何本か刺さってから、ようやく落とせる具合である。

 的が大きいので動き回っても、当てるには苦労しないが、致命傷を狙えるほど自力をまだ扶郎は備わっていなかった。


「新入り。やって来る奴らの牽制だけしろ」


 顔を向けずにミーミルが声だけで扶郎に指示をした。

 この場で尤も戦果を上げているのだった。


「KYOWA!?」

「KYWA!? KYWA!」

「KYOAAAAAA!!」


 獣の悲鳴が連なる。

 ヤクタ・ロックたちの襲うのは青白い無数の鎖。先端が杭のように突起しており、ヤクタ・ロックの体を貫いていた。

 ヤクタ・ロックを襲う鎖は、扶郎の矢のように百発百中ではなく、外れるときも多い。

 だが、外れた瞬間、鎖の先端が途中で消え去り、死角の空間からヤクタ・ロックを再び襲っているのだ。相手からすれば、避けたと思えば別の場所から襲いかかって来るので、堪らないだろう。

 貫く以外にも体に絡みつき、そのまま地面まで叩きつけることも行っている。

 だが、ミーミルの攻撃は、鎖だけではない。


「─────」


 周囲を睨みつけながら、ミーミルは指先で何もない場所に何かの文字を描いた。

 瞬間、彼が文字を描いた場所から炎の弾丸が出現し、ヤクタ・ロックの群れに襲いかかる。

 ミーミルが再び何ない場所に文字を描くと、今度は晴れ渡った天空から一本の稲妻が落ちてきた。


 ルーン魔術。


 この世界では魔法の一種と該当される神秘であり、力を持ったルーン文字を刻むことで様々現象を生み出すのだ。

 オリヴィエが防衛、扶郎が牽制、ミーミルが殲滅と役割分担をし、ヤクタ・ロックの群れはしばらくすると、全滅した。


「ふん」


 ミーミルは辺りに広がったヤクタ・ロックたちの死体を一瞥すると、空中にルーン文字を刻んで形が残っていた亡骸を炎で焼く。

 完全に消し炭になったのを確認してから、そのままミーミルは我先に歩き出した。


「あっ、ちょっと! ミーミル、待ってください!」


 勝利を祝うこともせず、一人で先に行こうとしたミーミルにオリヴィエが声を飛ばした。

 ミーミルは面倒そうな顔をしながらも、一応立ち止まり、彼女に振り向く。


「なんだ、聖騎士」

「いや、何勝手に一人で行こうとするんですか。せめて、共に戦った者たちと互いに労うくらいしてください」

「悪いな。オレァはてめぇらのように戦いに明け暮れた日々をしてねぇから、戦の作法なんざやりたいもの同士やってくれや」


 そう言って、今度こそミーミルは先に向かった。

 案内するロムを置き去りにするという、褒められない行為にオリヴィエは溜息をつく。

 さめて自分や扶郎がいるからこそ、ミーミルは安心して我先に行ったのだと思いたい。


「オリヴィエさん、怪我はないですか?」


 入れ替わるように扶郎がオリヴィエの傍まで駆け寄ってきた。


「えぇ。私とロムさんは無傷よ。ヨツバくんも平気そうね」


「はい。ところで、ミーミルさんって、凄いんですね………」


 呆れ半分、称賛半分でミーミルが去った方角を扶郎は見る。

 その言葉に対し、オリヴィエは苦笑を禁じえ得なかった。


「彼が使ったあの文字の魔法はルーン。刻んだ文字によって様々な力が使えるの。ご覧通り腕は確かよ」

「すごいですね。あと、色々と詳しいそうでしたね」

「聞き出せた話では、前の世界では王様の助言役もしていたみたい」

「想像できませんね」

「横暴な態度を見れば、そう思うのが普通よね。なんでもその王様は自分の甥なので不敬にはならなかったそうよ」


 いくら親族でも普段からあの態度のまま王様に接していれば、問題が起きると思うのだがと扶郎は呆れる。


「正直、私はあの横暴さが極まって罰せられたんじゃないかと時折疑うけど、流石にその手の話を聞くのは躊躇われるわね」

「………そうですね」


 冗談交じりで言ったオリヴィエの言葉だが、それはとても重い内容だった。

 疑われるのは仕方ないかもしれないが、実際にそうなのかと聞くのはあんな態度をする相手でも因循する。

 何故なら、それは死因に関係する話だ。

 扶郎もどうやって死んだか、誰にも尋ねられたくはない。


「彼の話はこれくらいにして、私たちも行きましょう。ロムさん、動けますか?」

「…………あっ、はい」


 そこで黙っていたロニがようやく反応した。彼は目の前で繰り広げられた壮絶な戦いに怯え、終わった途端緊張が解け、少し呆然としていたのだ。

 彼を伴い、扶郎とオリヴィエたちも岩肌の山を下山する。

 途中、彼らを機嫌悪そうに待っていたミーミルと見つけ、我先に行ったのに待つとは律儀だと、扶郎とオリヴィエは微かに笑ったのだった。


 ❖ ❖


 下山の途中、魔物や害魔に遭遇したがヤクタ・ロックほどの戦闘までには発展せず、見敵必殺で無事に目的地のミニヴィズに辿り着いた。


「本当にありがとうございました!」


 到着一番、ロムは安堵の顔を浮かべた後、三人に礼を言った。


「早速ですが、これは報酬の金額です」

「おぅ」


 一度返却した報酬の封筒を改めてロムは渡し、ミーミルはぶっきらぼうに応じた後、もう一度封筒の中身を確認してから懐にしまった。

 報酬を受け取る際、金額の確認は信用していないと思われ失礼だという声もあるが、それを逆手に詐欺を行う事件もあるので、用心に越したことはない。

 報酬を渡したロムだったが、彼は財布からメルティア共和国で流通している紙幣を取り出す。


「これはそちらのお二人に」

「え? 移動の魔法をしたのは彼ですよ?」


 ロムの行動に驚いていたオリヴィエだったが、ロムの方もその反応に驚いた。


「彼に取次してもらい、更に途中の道中護衛もしてもらいました。お礼をするのは当然です」

「……わかりました。そう仰るのなら、ありがたく頂戴します」


 相手の気持ちを汲み取ったオリヴィエは丁寧に紙幣を受け取る。


「本当にありがとうございました。そちらの少年も道中、ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして」


 礼を言われた扶郎だったが、内心苦笑気味だった。

 長距離を移動したミーミルや彼を紹介したオリヴィエと違い、扶郎の活躍は微々たるもの。同じように礼を言われるのは、少し気が引けた。


「では、私はこれにて──」

「待てや」


 そのままロムが去ろうとした瞬間、ミーミルが呼び止める。

 次の瞬間、ミーミルはロムの喉に指を当てて、幾つもの文字をなぞった。


「痛っ!」

「ルーン!? いきなり何を!?」

「落ち着け聖騎士。約束を守ってもらうだけだ」


 恐慌に走ったのかとオリヴィエが驚愕するも、ミーミルは平常通り。

 ルーンを刻まれたロムも一瞬痛みを感じたようだが、今は何ともなそうだ。


「俺の力を口外しないよう、ルーンで刻んだ。直接刻んだから、お前は一生俺の力を誰かに喋ることはできねぇ」

「そんなこともできるのですか………」

「わざわざ、そこまでしなくてもいいんじゃないですか……」


 ミーミルが語った内容に扶郎が驚き、オリヴィエが呆れる。

 ルーンを刻まれたロムは状況を掴んだようで、戸惑いながらも平気そうな態度を示す。


「はは、少し驚きましたが、それならうっかり言うこともありませんね。お気遣いありがとうごいます」

「俺が勝手にやったことだ」

「その通りですよ」


 社交辞令の礼をミーミルが素っ気なく返し、それをオリヴィエが突っ込む。扶郎は苦笑すればいいのか呆れていいのか分からなかった。


「では、改めて、───」

「ロムさん? 帰って来たのか?」


 今度こそ別れようとしたロムに青年が声をかけてきた。

 視線を向けると、耳がロムと異なるが雰囲気は精人族に近い。見た目もロムに似ていることから、親戚の誰なのかもしれない。


「あぁ、君か。今帰ったところだ。何をしに、ここへ? 妻はどうした?」

「あの人は寝ているから、今のうちに買い物ね」

「そうか…………」


 しかし、彼らの態度は互に他余所余所しい。

 二人を見れば血縁関係があると解るのだが、まるで他人と接しているかのように、渇いた空気だった。

 視線に気づいたロムは居心地の悪そうな笑みを三人に向ける。


「すみません。彼は()()、息子のゾイヤです。ゾイヤ、この方々は道中問題が発生した私を助けてくれた傭兵の方々だ」

「あっ、どうもお世話になりました」

「いえ、どうも」


 ぎこちない空気に当てられて、オリヴィエも堪らず堅い笑みを浮かべる。

 そんな態度を察した彼らは気まずそうに顔を曇らせた。


「では、今度こそ。皆さま、ありがとうございました」

「………じゃあ、俺。買い物続きに行くから。では」


 ロムとゾイヤは頭を下げて、別々の方角に歩き去る。


「なんかあるのかな、あの二人」

「興味ねぇ」


 二人が見えなくなってから、心配そうに呟く扶郎と違い、言葉通り興味なさそうにするミーミル。


「そんじゃあ、俺はこっから図書館に行くから」

「あら? てっきりすぐ帰ると思いました。相変らず知識欲が凄いですね」


 どうやら、ミーミルはこの町の図書館に向かうようであり、そういったことはオリヴィエの発言からして珍しくもないようだ。

 彼の知識が豊富なのは、こういったことをしているからかもしれない。


「お前たちはお前たちで勝手にしろ。俺と一緒に帰りたければ一時間後、ここに来い。遅れたら、置いていく」

「貴方が一緒でなければどれだけ時間が、ってもう行っているし!」


 オリヴィエの言葉を最後まで聞かずに、ミーミルは急ぎ足で立ち去る。

 余程、図書館に行きたかったのかと扶郎が不思議に思っていると、オリヴィエは今日何度目になるか分からない溜息をついた。


「だいたい、何も知らない町で何をすれば──」


 キュルルル。


 オリヴィエが文句を言っている最中、鳴き声が聞こえた。

 出何処は、彼女の腹部からである。

 考えてみれば、お昼を食べようとして随分時間がたったと扶郎は思いながら、オリヴィエの様子を窺った。

 彼女は赤らめた顔を明後日の方向に向けており、そのことが彼の幸いになっている。

 もしも、オリヴィエが扶郎の方を見たままであれば、恥じらう顔が可愛いと感じ、自然とにやけた顔がバレていただろう。


「お昼にします?」


 返事はなく、彼女は小さく頷いた。


 4話オリヴィエの挿絵追加。

 雰囲気はあんな感じだけど、もう少し、変えてもいいかもしれない。


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