猫の魔女、マッチ売りの少女を救うのこと
冬の雪の降る夜・・・
みすぼらしい少女が、道行く人にマッチを売っていました。
「マッチは、いりませんかあっ!」
しかし、この文明と経済が発展した昨今・・・
石油ストーブや暖炉には、ライターで火が付けられます。
必要としないものを誰が、買うでしょうか・・・
やがて、夜も更けてきたころ・・・
「寒いな・・・
他の人たち・・・
もうみんな帰ってしまったころだわ・・・」
さすがに、買ってくれる人がいても、夜では誰も通りません・・・
そんな時・・・
ほうきに乗った魔女が、ふわりと舞い降りたのでした・・・
「ようやく見つけたにゃ!」
その魔女は、猫の耳と尻尾を持っています。
「あなたは?」
少女は、遠慮がちに尋ねます。
「私は、魔女ミーニャ。
人の頼みを聞いたり、悪魔を退治したりしている魔女にゃ。
今度のお仕事は・・・
あなたをリメイル伯爵のところに連れていくことにゃ。」
「えッ!?
伯爵様!?」
リメイル伯爵は、この辺りの領主様です。
「十二年前・・・
お家騒動で、伯爵様の娘が誘拐されたにゃ。
伯爵様は、ご自分でほうぼうをさがされたけど、見つからなかったにゃ。
そうしてつい昨日・・・
私がご挨拶にお城にいったとき・・・
ようやく見つけたあなたを迎えに行って欲しいと、お願いされたにゃ。」
「そういえば・・・
私の両親は、私を道端で拾ったって・・・」
「右腕を見るにゃ。」
ミーニャに従って、右腕を見えます。
何やら紋章のようなアザがあります。
「これは、伯爵家の紋章にゃ。」
ミーニャは、少女を連れてお城へ向かった。
「初めまして・・・
伯爵様・・・」
カチコチに固まった少女は、「父」に挨拶します。
「かしこまらんでいいよ。
しかし・・・
捨てられていた子とはいえ・・・
自分の育てた子をこのように働かせていたとは・・・」
伯爵様は、自分の実の娘が働いていたことよりも、娘の「家」の事情が気になったのです。
そう。
伯爵様は、科学者や錬金術師の研究から、よいものを領内に導入して、領を豊かにして尚且つ領民を学校に行かせて、誰もが仕事を持てるようにしているのです。
「さあ。
娘よ。
聞かせておくれ。
お前の住んでいた街は、どうだったか・・・」
やがて・・・
道端で、マッチを売っていた少女は、本当のお父さんのもとで、心のこもったお仕事のお手伝いをして、領地みんなの生活を守っていくことになったそうです。
そうして全てを見届けて・・・
「黒猫の魔女」は、また別の場所に飛び去ったということです・・・