その34の2『まちがいさがしの話』
亜理紗ちゃんがヨーヨーの誤った遊び方を始めたところで、知恵ちゃんは手元の間違い探しへと目線を戻します。ですが、どこか亜理紗ちゃんの姿に違和感を覚え、それを確かめようと再び顔を上げました。
「……あれ?アリサちゃん……髪型、変えた?」
「なんで?」
「おでこ出てるけど」
普段は無造作に流されている亜理紗ちゃんの髪が、珍しく左右均等に分かれて、おでこもキレイに出ています。ただ、知恵ちゃんが買い物から帰ってきた時は、そのような髪型ではありませんでしたので、いつの間にヘアースタイルを変更したのかと知恵ちゃんは気になっています。そう知恵ちゃんに言われて、亜理紗ちゃんはガラスに顔を映しました。
「……ほんとだ!」
「アリサちゃんが自分でやったんじゃないの?」
「戻すね」
「戻さなくていいのに……」
亜理紗ちゃんは整っている髪をくしゃくしゃにして、いつも通りのシャレっ気のない髪型へと戻します。そこへ風が吹き抜け、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんの服や髪をはためかせました。風に目をつむっていた2人が目を開くと、またしてもどこかが変化しているのに勘付きました。
「……?」
「あっ!」
亜理紗ちゃんが車庫の前に走っていき、そこを指さして知恵ちゃんに教えます。
「ちょっとだけシャッターが開いてる!」
「閉まってたんだっけ?」
「ネコさんが勝手に入るから、うちのシャッターはキチンと閉めてあるの」
亜理紗ちゃんの髪が左右に分けられたのに続けて、家のシャッターも開けられてしまいました。ガシャンとシャッターを閉めた亜理紗ちゃんの横を風が通り抜け、知恵ちゃんの髪をなびかせながら逃げていきます。これは誰かの仕業に違いないと、亜理紗ちゃんは風の行方を追いかけました。
「いたずら妖精を捕まえよう!」
「う……うん」
いたずらをしている風を捕まえるべく、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは家と家の間、庭がある場所へと入っていきます。どこへ風が吹いていったのかは、いたずらのあとを見つければ解るはず。2人は普段と違っているところがないかと、庭の中を探してみます。
「ちーちゃん……いたずらされたところを探すよ」
そう小声で知恵ちゃんに伝え、亜理紗ちゃんは中腰になって庭を歩いていきます。花壇にはお花が咲いていて、並べてあるプランターの植物には野菜がなっています。花壇のふちにあるレンガの並びや、木バチの向きなどをつぶさに確かめていきます。しかし、一通り見た限りではいたずらの痕跡は残されておりません。
「あっ」
亜理紗ちゃんはプランターに実っているトマトの1つを指さし、それを知恵ちゃんに見せながら言いました。
「ちょっと食べられてる!」
「それなの?」
トマトの表面には黒い穴が空いていて、それがイタズラ妖精の仕業だと亜理紗ちゃんは訴えます。すると、そんな亜理紗ちゃんの近くを通って風が吹き、庭に刺してある鳥の形の風車を回しました。鳥のクチバシが花壇の正面を向いておらず、鳥は知恵ちゃんの家の方を向いたまま羽をクルクルと回しています。
「アリサちゃん……こっちだったんじゃないの?」
「……そっちだったか」
虫が食べたトマトの穴をイタズラ妖精のせいにしてしまい、亜理紗ちゃんは少し反省しました。
その34の3へ続く






