その34の1『まちがいさがしの話』
「……」
とある休日、知恵ちゃんは家族でデパートに買い物へ来ていました。お昼過ぎ、デパートの1階にあるハンバーガー屋さんで昼食をとっています。ハンバーガーやジュースの乗ったトレーには敷き紙があり、そこに小さな絵で間違い探しが印刷されていました。その中にある間違いが1つだけ見つからず、じっと知恵ちゃんは絵を見つめ続けています。
「ちょっと食べ足りないな」
「ナゲットあげようか?」
「ありがとう」
ハンバーガーを食べ終えた知恵ちゃんのお父さんが、知恵ちゃんのお母さんから鳥の揚げ物をもらっています。お父さんはハンバーガーと一緒にオニオンリングを注文したのですが、想像よりも量がなかったので少しお腹が物足りませんでした。
「知恵。チョコパイおいしい?」
「うん」
「間違い探し?」
「1個、見つかんない……」
チョコパイを食べながらうつむいている知恵ちゃんを見て、お父さんも敷き紙に間違い探しが載っているのに気がつきました。知恵ちゃんはチョコパイを食べ終えるまで探し続けますが、やっぱり間違いの最後の1つが見つかりません。仕方なく敷き紙を持って帰ろうとする知恵ちゃんに、お父さんはこう言います。
「間違い探しが1つだけ見つからない時、お父さんはこうするんだ」
「どうするの?」
「まず、間違いの数が間違ってるんだろうってね」
8つ間違いがあると問題に書いてあっても、それ自体が間違いの1つだと考えれば、絵の中には7つしか間違いがないというお父さんの必勝法です。でも、それでは知恵ちゃんは納得がいかないので、帰りの車の中でも間違いを探していました。
『答えは裏にあるよ』
そう書かれているので、裏の答えが見えないように敷き紙を2つに折って、表の間違い探しだけが見えるようにしています。車が家の前まで来ると、隣の家の前で亜理紗ちゃんがヨーヨーをして遊んでいました。
「あっ、ちーちゃん。どこ行ったの?」
「桜百貨店」
「なにそれ?」
「ハンバーガー屋の間違い探し」
このあとは特に予定もないので、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと外で遊ぶ事にしました。2人で一緒に間違い探しをのぞきこんでいますが、亜理紗ちゃんが探しても間違いは1個だけ見つかりません。耐えかねた亜理紗ちゃんが、答えを見てみようと言い出します。
「答えは?」
「見ちゃうの?」
「見ないの?」
「だって、くやしいし……」
どうしても自分で間違いを見つけたい知恵ちゃんの代わりに、亜理紗ちゃんが1人で正解を見る事にしました。
「……あー」
「解った?」
「……これは多分、ちーちゃんも見つけれない」
「小さい?大きい?」
「おっきい」
知恵ちゃんは亜理紗ちゃんのヒントを頼りに再び、顔を近づけて間違い探しの絵をまじまじと見つめます。しかし、見れども見れども、最後の1つは見つかりません。知恵ちゃんの応援をしながらも、亜理紗ちゃんはヨーヨーの練習を再開しました。
「ちーちゃん。がんばれー!私も頑張るよ!」
「……」
亜理紗ちゃんは落として回したヨーヨーを手元に戻そうとしますが、ヨーヨーは戻らず下で止まってしまいます。何度も試してみますが、どうしてもヨーヨーは手元へは戻りません。ぶらりと伸びきったヨーヨーの糸を、亜理紗ちゃんは頑張って巻きなおしています。
「ちーちゃん。見て見て」
「……?」
間違い探しをしている知恵ちゃんが顔を上げます。亜理紗ちゃんは伸ばしきったヨーヨーの糸をあちこちの指に引っ掛けて、三角のような形にして吊るしていました。
「トライアングル」
「あやとり遊びになってる……」
その34の2へ続く






