その33の1『お金の話』
「ちーちゃん。自動販売機の木って知ってる?」
「なにそれ?」
学校からの帰り道、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに学校で聞いたお話を始めました。
「クラスの友達が言ってたけど、森林公園の奥の方の木が自動販売機なんだって」
「……ちょっと解らないけど、そうなんだ」
「うん。行ってみる?」
「うん」
亜理紗ちゃんの説明では何も知恵ちゃんの頭には入ってこないので、実際に行って確かめてみる約束をしました。それから、2人は小銭しか入っていないお財布をカバンに入れて、再び家の前に集まりました。
「ちーちゃん。何円ある?」
「300円」
「お金持ちじゃん!私、どのくらいあると思う?」
「300円より下でしょ……」
自動販売機と聞いて知恵ちゃんも亜理紗ちゃんもお金を持っては行きますが、木から実際に何か買えるとは思っていないようなので、これは帰りに駄菓子屋さんを見てくる予定の所持金です。森林公園は近所にある木の多い公園で、特に遊具などは置かれておらず、ベンチのようにして切り株が幾つも残されているだけの場所です。今は遊んでいる子どもたちもおりません。
「どこ?」
「たぶん、こっち」
亜理紗ちゃんの案内に従い、公園の奥にあるブロックべいがある場所まで入ります。その一角にはヘビのような形の根をはっている木があり、それを亜理紗ちゃんは指さして言いました。
「これだと思う」
「これ?」
木の幹には上下に1つずつ穴が空いていて、上の穴は根っこに乗っかれば届く高さにあります。下の穴は根っこの間に空いており、自動販売機のジュースが出てくる取り出し口に似て開いていました。それを見て、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが『自動販売機の木』と言っていた言葉の意味を知りました。
「自動販売機みたいな木だ……」
「何か入れたら、何か買えないかな」
「……お金は入れたくないけど」
ただの穴の開いている木だと判断した知恵ちゃんの解釈とは違い、亜理紗ちゃんは実際に何か入れたら、代わりの何かが出てくるのではないかと期待を膨らませています。ただ、実際にお金を入れるのはイヤなので、知恵ちゃんは別の物を入れて確かめてみようと考えました。
「石とか入れてみない?」
「入れてみよう!」
亜理紗ちゃんは手のひらサイズの石を探し出すと、木の根っこに乗っかって背伸びしながら、上の穴へと石を入れました。すると、下の穴でココンと音がしました。ちゃんと石が出てきたか、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは顔を近づけながらのぞきこみます。
「あれ?」
「あれ?」
上の穴から入れたはずの石は落ちてきておりません。その代わり、下の穴からは松ぼっくりが出てきました。それを手に入れながら、亜理紗ちゃんは上の穴に石を入れた成果を知恵ちゃんに報告しました。
「石で松ぼっくりが買えた」
「石と松ぼっくりって、おんなじ値段なんだ……」
その33の2へ続く






