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その32の4『デコレーションの話』

 桜ちゃんがリボンをつけること自体に不安を感じているわけではないのだと、知恵ちゃんは桜ちゃんの気持ちをやっとくみとることができました。その察して知った事実を迷いなく、知恵ちゃんは口に出して伝えます。


 「桜ちゃん……百合ちゃんに好かれたいからリボンつけてるって思われるのが恥ずかしいんだ」

 「……!」


 知恵ちゃんの発言を受け、桜ちゃんは震える手でリボンをテーブルに置きます。そのまま、桜ちゃんはよろよろとベッドに座り込みました。さすがの知恵ちゃんも直接的に言い過ぎたと反省し、桜ちゃんの前に正座しながら謝ります。


 「言い過ぎたので、ごめんなさいでした」

 「ううん……でも、知らなかった」

 「……?」


 今度は桜ちゃんが床に正座して、知恵ちゃんのヒザ下を見つめつつ心からの声を伝えます。


 「私、実は百合に好かれたいって思ってたから、なかなかリボンつけれなかったんだ……」

 「自分でも知らなかったんだ?」

 「ビックリした」


 複雑で率直な気持ちを胸の内で整理すると、2人はテーブルの上に置いてあるリボンを見つめました。リボンと真っ直ぐに向き合うべく、知恵ちゃんが桜ちゃんの背中をなでてあげながら言います。


 「じゃあ、ちゃんと見てあげられてなかったから、リボンにごめんなさいしよう」

 「……ごめんなさいでした」


 リボンに許されたところで、ようやく桜ちゃんはリボンを手に持ち直します。知恵ちゃんは手鏡持ってを桜ちゃんに向けます。百合ちゃんに好かれるためにつけるのではなく、ちゃんと自分が可愛くなるポイントを探して、桜ちゃんはヘアゴムつきのリボンで髪を結わえます。


 「知恵……これで、どうかな?」

 「いいんじゃない?」

 「リボンも、喜んでるかな?」

 「そういうの、アリサちゃんは詳しそうだけど、私は解らない……」


 リボンをつけた2人は両手を繋いで向き合い、お互いの髪についているリボンの位置を確かめあいます。そして、知恵ちゃんが部屋を出て百合ちゃんの家へ行こうしますが、それを呼び止めて桜ちゃんはクローゼットを開きました。


 「知恵。待って」

 「なに?」

 「……服も変える」

 「着替えるの?」


 クローゼットから取り出した服は桜ちゃんが普段は着ないようなブラウスやスカートで、着替えの一部始終を知恵ちゃんはリンゴを食べつつ見学していました。服と髪型を変えただけなのですが、別人のように、おしとやかになってしまった桜ちゃんを、知恵ちゃんは感心した表情で見ています。


 「たぶん、こっちの服の方がリボンっぽいと思うから」

 「うん」


 着替えが終わり、いざ2人は部屋を出ました。出かける前にリビングへ寄り、百合ちゃんの家に行くとお母さんたちに伝えます。その際、お土産としてリンゴを一袋、桜ちゃんのお母さんから受け取りました。


 家の外は天気もよく、白を基調とした桜ちゃんの服装を明るく照らし出します。知恵ちゃんがカバンを持ってきていることに気づき、桜ちゃんは恥ずかしさをまぎらわすようにして話題を振ります。


 「……知恵。今日は紫の石のキーホルダー、つけてないんだ?」

 「あれはアリサちゃんがいる時だけつけてる」

 「……だったら、知恵も私と同じだ」

 「……そうかもしれない」


 百合ちゃんの家は和菓子屋さんを営んでいて、知恵ちゃんと桜ちゃんが店の前に到着した際にお客さんが退店し、ちょうどお店の中にいるのは百合ちゃんの両親だけとなっていました。店の戸口を開きつつ、桜ちゃんは百合ちゃんのお父さんとお母さんに挨拶をしました。


 「こんにちは。これ、リンゴ持ってきました」

 「まあ、ありがとうね」

 「百合ちゃん、いますか?」

 「ええ。奥にいるから呼んでくるね」


 百合ちゃんのお母さんは桜ちゃんからリンゴを受け取ると、店の奥へと入っていきました。その間、桜ちゃんは自分の服におかしいところはないか、キョロキョロと確認していました。一方、知恵ちゃんはお店のお菓子をながめて待っています。数分後、お店の奥から百合ちゃんがやってきました。


 「どうしたの?あっ……」

 「えっと……」


 すぐに桜ちゃんと知恵ちゃんのリボンに気づき、百合ちゃんは嬉しそうに小さな歩幅で走ってきます。桜ちゃんは百合ちゃんとは反対に、ドキドキした様子を隠しながら目を泳がせていました。


 「桜ちゃん。それ、どうしたの?かわいいね~」

 「見つけたから買ってみたんだけど、かわいい?リボン」

 「うん」


 服と髪型、そしてリボンを下から上まで流し見ると、百合ちゃんは桜ちゃんのつぶやきに再度、うなづきながら言い直しました。


 「うん。リボンをつけてる桜ちゃん、かわいいね」

 「……」

 

 百合ちゃんから素直な言葉をもらい、桜ちゃんは何も言えずに体をゆすりつつ、赤面をかくすようにして足元を見つめていました。そんな2人の様子を知恵ちゃんが横から見つめています。桜ちゃんの揺れるリボンが髪の上で揺れ、まるで喜んでいるようにキラキラと輝いていました。


 

                                  その33へ続く

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