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その32の3『デコレーションの話』

 知恵ちゃんのお母さんを見ても参考にならないと知り、知恵ちゃんと桜ちゃんは改めてジュエリーボックスのリボンを観察しています。キラキラしているアクセサリーと、桜ちゃんの容姿を交互に見つめ、知恵ちゃんはリボンをつけるにあたって桜ちゃんに足りない要素を探します。


 「桜ちゃんがリボンつけるのに足りないのは……」

 「たりないのは?」

 「……髪?」

 「しっけいな……髪はあるよ」


 知恵ちゃんは髪の長さが足りないと判断したようですが、それを解りつつも桜ちゃんはサラサラしていない自分の髪を手で押さえています。桜ちゃんの持っているクシを借りて、知恵ちゃんが桜ちゃんの髪をとかそうとします。でも、髪が固いので上手くクシが通りません。


 「桜ちゃんって、髪は伸ばさないの?」

 「長くしたら、横にはねていくから……」

 「短いと、リボンに髪の量が負けちゃうかも」


 桜ちゃんがリボンをつけない理由が、知恵ちゃんの中では判明した様子です。桜ちゃんの髪は長さが足りず、リボンをつけると目立ちすぎるのだと考え、知恵ちゃんは代案を桜ちゃんに差し出しました。


 「百合ちゃんの家って、この近くだっけ?」

 「そうだけど」

 「……私がリボンつけて、百合ちゃんに見せに行く」

 「……そうする?」

 

 せっかくのリボンを百合ちゃんに見せられないのは残念と考え、知恵ちゃんは自分が桜ちゃんのリボンをつけて百合ちゃんに見せに行くと言います。桜ちゃんは知恵ちゃんの髪をほどいて、自分なりにリボンが似合うよう再びコーディネートを始めました。


 「リボン、おでこのところにつけたら可愛い?」

 「可愛いかもしれない」

 「右側につけたらキレイ系かな」

 「そうかも」


 知恵ちゃんはオシャレにうといので、桜ちゃんのセンスに全て任せ、今は飾られることに専念しています。桜ちゃんが普段から雑誌などでファッションの情報を集めているからか、どのようにリボンをつけても知恵ちゃんの髪にはフィットします。


 「いいなぁ……知恵は。なんでも似合うんだ」

 「桜ちゃんが上手なんじゃないの?」

 「知恵の髪……欲しい」

 「怖い……」


 桜ちゃんは知恵ちゃんの後頭部に顔を近づけ、息を落ちつけながらも髪の光沢を目で追っています。ただでも、知恵ちゃんは髪を触られ慣れているので、そこまで友達に触られても嫌がったりはしません。

 

 「知恵は髪、さわられるの嫌じゃないの?」

 「亜理紗ちゃん、うちに遊びに来て、ずっと触ってる時もあるし」

 「……それは遊びに来てるっていうのかな」

 「美容院は行きたくないけど、さわられるのは最近、別にいい」


 20分くらい桜ちゃんが知恵ちゃんの傍で試行錯誤し、知恵ちゃんも文句を言わずに手鏡を見つめていました。桜ちゃんの気が済むのを待って、知恵ちゃんは髪を揺らさないよう静かに立ち上がります。


 「これで完成!」

 「おお」


 様々な角度から手鏡に自分を映し出し、知恵ちゃんが普段とは違う自分の姿を鑑賞しています。見慣れた自分の容姿も、今だけはちょっと澄まして見えます。やっと動けるようになったついで、むいてもらったリンゴを知恵ちゃんは1ついただきます。そして、百合ちゃんの家に行こうと桜ちゃんをさそいました。


 「じゃあ、行く?」

 「……」

 「桜ちゃん?」


 キレイに飾られた知恵ちゃんの姿を少し遠めに見つめ、桜ちゃんは後ろで両手の指を組み合わせながらつぶやきました。


 「やっぱり、くやしい」

 「くやしいんだ……」

 「うん」


 アクセサリーボックスの中に残っているリボンを持ち上げ、桜ちゃんが自分の髪へとあてがってみます。その時、やっと知恵ちゃんは桜ちゃんがリボンをつけない理由に気づきました。


 「あ……」

 「……?」

 「……桜ちゃん」


                               その32の4へ続く


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