その31の5『右か左の話』
先端が2つに分かれているストローの飲み口を見比べ、知恵ちゃんはストローの穴の中をのぞいたり、蛇腹になっている部分を動かしたりしています。その結果、知恵ちゃんが出した答えは、飲み口をまとめていっぺんに吸うという作戦でした。
「これなら絶対に飲める」
「ちーちゃん……それはズルだと思う」
「ズルでもいい……勝ちたい」
そう言って知恵ちゃんはストローへと口をつけ、ゆっくりと飲み物を吸い上げます。ですが、なぜか飲み物は口の中へは入ってきません。それどころか、飲み物はストローの途中で止まってしまい、途中までしか上がってきません。それ以上は吸い続けても成果がなく、知恵ちゃんは諦めてストローから口を離します。
「ほら、ズルしたから……」
「……」
ズルをした知恵ちゃんはストローを寄せ、じかに口をつけてジュースを飲みます。それは少しだけ酸っぱくて、まろやかで甘い飲み物でした。よく口の中で味わってみると、ほのかに牛乳の風味も感じられます。
「ちーちゃん。ストロー借りていい?」
「いいけど……」
亜理紗ちゃんは知恵ちゃんのコップからストローを借り、自分のコップへと追加して差し込みます。普通のストローが1本、先が2つになっているストローが1本、そんなストローだらけのコップの中から1つを選び、2又になっている片方へと口をつけました。知恵ちゃんの時とは違い、スムーズに飲み物は亜理紗ちゃんの口へと運ばれます。
「こっちが当たり」
「このジュース、珍しい味する」
「……むむ……ストロー、ちーちゃんの味しかしない」
「どんな味なの……やめて」
飲み物を飲んだ感想を2人で話し合い、この飲み物は乳酸菌飲料を牛乳で薄めたものだと結論に至りました。次に亜理紗ちゃんが紙袋から箱を取り出し、フタを開けて中のおやきを取り出そうとします。そして、やっぱり不思議なものを見つけた風に声を出しました。
「……んん?」
「今度はなんなの?」
「おやきが1個、多いんだけど」
「そう……」
玄関が2に増えていた一件からの流れを受けて、この展開は知恵ちゃんも予想していたようです。箱の中には3つのおやきが入っていて、その内の1つだけに焼き印が押されています。印のついているものを亜理紗ちゃんがもらい、あとの2つは箱に入れたまま知恵ちゃんに差し出します。
「アリサちゃんのと、こっちのは違うの?」
「私のはピザ味。ちーちゃんは甘いのが好きだからチョコ」
「ピザ味なんてあるんだ……」
1つしかないはずのチョコおやきが2つあることを受けて、再び知恵ちゃんは自分の運が試されていると考えました。じっくりと2つのおやきを比べてみても、見た目には色も形も全く同じです。そんな知恵ちゃんを見つめながら、亜理紗ちゃんが横でつぶやきます。
「2ついっぺんに取ったらズルなので、どっちも消えます」
「……勝手にルール決めないで」
「ハズレをとったら、味がピザ味になります」
「それは別にいいけど……」
その31の6へ続く






