その30の4『おるすばんの話』
立ち見鏡の奥には異世界の様子が透けて見えており、そこを通り抜けて再び知恵ちゃんは城の一室のような場所へと戻ります。コインのない台座を見つめてから部屋を出て、自宅でいうところの洗面所がある場所まで移動しました。
「……?」
通路の曲がり角には見知らぬトビラがあり、その奥からトントンとノックをする音が聞こえます。トランシーバーを耳へあててみるも、すぐ近くで亜理紗ちゃんの声がしました。
「ちーちゃん。いる?」
「ここにいるけど……」
亜理紗ちゃんの声はトランシーバーではなく、トビラの向こう側から聞こえました。トビラは知恵ちゃんがいる方にだけカギがかかっていて、どうやら亜理紗ちゃんの方からは開けないようです。知恵ちゃんが鉄の扉を引っ張ると、ガチャリと音がしてカギが簡単に外れ、トビラの向こうから亜理紗ちゃんが姿を現しました。
「ちーちゃんの家と私の家、やっぱりつながってた」
「ここ、私の家じゃない気がするけど……」
亜理紗ちゃんと知恵ちゃんが再会を祝して手を繋いでいると、またしても知恵ちゃんの家のどこかで金属質の大きな音が鳴り響きます。その音を受けて室内の灯りは急に薄くなり、通路の灯篭に灯っている青くて小さな火だけが残ります。音がした方へと亜理紗ちゃんが走りだし、それを知恵ちゃんも追いかけていきます。
知恵ちゃんの家のリビングと繋がっている鏡が置いてある場所へ戻るも、そこにあったコインが台座からなくなっていました。台座に灯っていた光も消えており、そこにはタヌキの肉球に似たハンコが押されていました。それを見て、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの城のコインが全て取られたと考えました。
「ちーちゃんのコインが、全部なくなったから……これは、ちーちゃんの負け」
「私のじゃないし……」
「……そうだ!このままだと、うちのコインも取られる!」
知恵ちゃんのコインがなくなったのを見て、亜理紗ちゃんは急いで自分の家の方へと戻ろうとします。知恵ちゃんも一緒に行きたい様子ではありますが、留守番を頼まれているので少し考え込んでしまいます。
「でも、ここを通って亜理紗ちゃんの家の方に行ったら、お留守番になるの?」
「家から出てないからいいんじゃないの?」
亜理紗ちゃんの言い分に納得し、知恵ちゃんは地下を通って亜理紗ちゃんの家がある方へと移動します。地下は水路のような場所になっていて、浅い水路に緑がかった水が流れています。通路の先にタヌキの小人を発見しましたが、亜理紗ちゃんの姿を見るとタヌキは階段を上がって逃げていきました。
「ちーちゃん。あと、どこにコインがあるって言ってたっけ?」
「多分、キッチン」
亜理紗ちゃんの家がある方も知恵ちゃんの家と同じでゴツゴツとした石の壁なのですが、やっぱり通路や部屋の配置は亜理紗ちゃんの家と似ています。亜理紗ちゃんの家でいうところのキッチンがある場所へ2人が入ると、そこの台座には虹色に輝くコインが残っていました。
「私、他の部屋も見てくるから、ここ見張っててちょうだい」
「うん」
知恵ちゃんをコインがある場所へと残して、亜理紗ちゃんは別の部屋のコインが残っているか確かめに行きます。知恵ちゃんはコインの輝きを目で追い、次に台座へと視線を移します。台座にはガラス玉らしきものが4つついていて、その内の1つだけが電球のように光を放っています。
「……?」
ふと視線を感じて、知恵ちゃんは室内を見回します。トビラの影、台座の裏、家具やインテリア、知恵ちゃんが目を向けると、茶色い姿がサッと身を隠します。あちらこちらにタヌキがいる。それを知り、知恵ちゃんは誰にともなくつぶやきました。
「囲まれてる……」
その30の5へ続く






