その6の2『石の話』
「……持ってます。これです」
知恵ちゃんはポケットに入れていた宝石つきのキーホルダーを取り出して、そっとテーブルの上に置きました。おばちゃんは知恵ちゃんの目を見ると、声色を少し上げながら続けて聞きます。
「どこか、知らない場所に行けた?」
「行きました。洞窟とか、森とかです」
「そっか!本当だったんだ……それ、聞かせてくれる?」
以前、この石を知恵ちゃんに渡したのはおばちゃんでした。知恵ちゃんの見てきた不思議な世界について聞き、おばちゃんは嬉しそうに話を続けました。
「その石は子供の頃、おばあちゃんがくれたんだ。『この石があれば、どこにでも行けるし、なんでもできる』って。妹の幸子はいらないって言ったけど、私はキレイだったからもらったんだ」
「おばちゃんも、どこかへ行けたんですか?」
「……ううん。私は、どこにも行けなかったよ。おばあちゃんにも『どこにでも行けるけど、どこにも行かない雪子』って言われた」
おばちゃんはテーブルに置かれている宝石を手に取ると、それを知恵ちゃんの手に握らせます。なんだか嬉しそうな、思いにふけるような、ただでも心の底から、おばちゃんは喜ばしい様子で言葉を出しました。
「知恵ちゃんは私の小さい頃に少し似てると思ったけど、私にはなかったものをもってるのかもしれないね」
「……」
「ただいまー」
その時、玄関の方から知恵ちゃんのお父さんの声が聞こえてきました。すると、2人だけの内緒の話は自然と終わってしまいます。改めて受け取った宝石付きのキーホルダーをポケットに入れると、知恵ちゃんはお父さんを出迎えに行きました。
晩ご飯を終えると、おばちゃんの買ってきたお土産をもらって、お父さんたちはお酒のフタを開けることにしました。しかし、おばちゃんのお土産であるブラックペッパーサラミが辛かった事から、知恵ちゃんは一枚だけ食べて晩酌のお供をするのは諦めました。
「お姉ちゃんのお土産って、その辺のスーパーで売ってるようなのばっかりだよね」
「多分、私が美味しいって解ってるからだね」
そんなお母さんたちの会話を聞きつつも、知恵ちゃんは自分の部屋へと戻って宿題を始めました。おばちゃんが言っていた、知恵ちゃんが持っているものの正体が解らずとも、とりあえず今はプリントの空欄が埋まっていきます。
そうしている内、隣の家の方から車の走る音がしました。亜理紗ちゃんが外食から戻って来たようです。それに気づくと、知恵ちゃんは勉強机に突っ伏してしまいました。
続く