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その29の3『破壊神の話』

 亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの持っているプルプルの物体は、ぷかぷかと空中を浮かんで元の四角形へと戻っていきます。しかし、よく見ると最初の時より謎の物体は少しだけ歪んでいて、わずかに四角形の一面が斜めになっています。それが気になる知恵ちゃんは、四角形をなおそうと考え始めます。


 「まがってるんだけど、どうやったらなおるかな?」

 「まがってる分だけ、逆から持ってくれば?」


 亜理紗ちゃんは三角定規で四角形の逆側をスライスし、それを持ちあげて歪んでいる場所へとくっつけました。ただでも、今度は逆側の切った部分が描けてしまい、上から見ると5角形になってしまいます。


 「また壊した……」

 「なおらなくなっただけなの……」


 壊した責任を感じてか、次に亜理紗ちゃんは粘土を持ってきて、四角形の足りない部分に練って擦りつけました。粘土の角をとがらせると形は元に戻りましたが、その部分だけ粘土のままなので緑色です。


 「緑色にしちゃったの?」

 「かっこいいでしょ?」

 「かっこよくはない……」


 色についての論争をしている内、謎の物体は粘土の重みで崩れ始め、大量の四角形となって波のように床へと転がりました。亜理紗ちゃんが落ちた粘土を回収すると、流れ落ちた物体のカケラは元の形へ戻ろうとするのですが、もはや上面の角は丸くなってしまっており、もうどう見ても四角形ではありません。


 「ちーちゃん……任せた」

 「ええ……」


 サジを投げた亜理紗ちゃんに代わり、知恵ちゃんが四角形をなおしにかかります。丸くなってしまった物体の角を指でつまみ、ぐっと引っ張ってみます。今度はおモチのように物体は伸び、引っ張ったところがだらりと垂れてしまいました。触るたびに質感の変わる謎の物体に四苦八苦しながらも、知恵ちゃんは一つの答えに辿り着きました。


 「もういいや」

 「え、ちーちゃんがなおすって言ったのに?」

 「できることはやったから」


 知恵ちゃんは四角形を元に戻す作業を諦め、光る紫色の石をテーブルに置くと、くったりと亜理紗ちゃんのベッドに寝転びました。原型をとどめていない謎の物体の前に立ち、亜理紗ちゃんは難しい顔をして知恵ちゃんと謎の物体を交互に見ています。


 「……」

 「……?」

 「……よいしょ」

 「……うわ。なにしてるの?」


 知恵ちゃんがよそ見をしていると、ガシャガシャと何かの壊れる音が聞こえてきました。そこで、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの方を見つめます。亜理紗ちゃんは両手で謎の物体を押しつぶして、たくさんのバラバラにしていました。


 「ど……どうしたの?アリサちゃん」

 「一回、壊そう。全部」

 「えええ……」

 「ちーちゃん。手伝って」

 「ええ……」


 謎の物体が元に戻るより早く、亜理紗ちゃんが手を動かして壊してしまいます。ただ、見ていると壊しているさまが気持ちよさそうだったからか、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんに便乗して謎の物体に手をかけました。謎の物体がテーブルの下にパラパラガラガラ、プルプルプニプニと転がっています。その場を知恵ちゃんに任せ、亜理紗ちゃんは押し入れからダンボールを引っ張り出しました。


 「どうするの?」

 「箱に入れる」


 なるべく正方形に近いダンボール箱を選んで、その中に入っているオモチャを全て取り出します。亜理紗ちゃんは空になった段ボール箱をテーブルの近くに置くと、手でかき集めるようにして箱の中へと入れていきます。


 テーブルの上の物体を箱に入れ終わると、今度はダンボール箱をテーブルの上に置いて、下に散らばっている謎の物体をひろっていれていきます。数分で足元の物体も全てキレイに箱へと入り、最後に亜理紗ちゃんはダンボールにフタをして上から押さえました。


 「……もう固まったかな?」

 「うん。もういいんじゃないの?」


 知恵ちゃんが言う適当なタイミングで箱のふたを開けてみます。そこには平らな四角形の上面が広がっていました。2人でダンボール箱をひっくり返し、ダンボールだけを引っ張って中身を取り出します。


 「……ちーちゃん!成功した!」

 「おお」


 やや揺れ動いていた謎の物体でしたが、数秒をかけて元のキッチリとした四角形へと戻っていきます。そして、その整った姿を2人に見せると、謎の物体はキラキラと光を残しながら、ゆっくりと姿を消していきました。一連の作業を終えて、疲れたように知恵ちゃんと亜理紗ちゃんはベッドに腰掛けます。


 「……そうだ」


 思い出したように亜理紗ちゃんは立ち上がり、さっきは飛ばなかった大きな紙飛行機を解体します。それの折り線を正しながら作り直していきます。


 「ちーちゃん。いくよ」


 作り直した紙飛行機を亜理紗ちゃんが部屋の端から飛ばします。今度は驚くほど、まっすぐな軌道を描いてベッドの上まで飛んでいきました。


                              その30へ続く


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