その29の1『破壊神の話』
「ちーちゃん、これ見て」
今日も知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの家へ遊びに来ていて、駄菓子屋さんから買ってきたお菓子をそれぞれ2人で食べていました。1個10円で売っているガムを3個くらい口に入れて、亜理紗ちゃんが風船のように膨らませてみせます。
「アリサちゃん、そんなのできるんだ?」
「……」
亜理紗ちゃんはガムの風船を大きく大きく膨らませていきますが、途中で空気が抜けてしまい風船はしぼんでしまいます。それを口の中へと戻し、まだ残っているガムの味をかみしめます。
「本当は、パってしたかったけど縮んだの」
「はじけさけたら顔につきそう」
亜理紗ちゃんはガムを口の中で練り回しながら、今度はグミが入っていたプラスチックのトレーをパチパチと潰し始めます。板チョコレートのような形だったトレーが、凹凸を潰されて平べったくなっています。それを終え、亜理紗ちゃんは何か思うような表情で顔を上げました。
「もっと壊したい……」
「なんで急に……」
物を壊すことに喜びを見出した亜理紗ちゃんは、気持ちのよく壊せそうなものを自分の部屋の中から探します。まずベッド周りを見てみますが何も見つからず、次に学習机の付近へ目を向けました。鉛筆削りの中にたまっている削りカスを発見し、それをテーブルの上にしいた紙に出します。
「それ、どうするの?」
「……」
亜理紗ちゃんが両手で鉛筆の削りカスを握りつぶすと、そのまま手の中でクシャクシャとこすりあわせていきます。鉛筆の先端の面影を残していた木くずは、ほぐされて小さくチリチリになってしまいます。
「ちーちゃんもやる?」
「やらない……」
削りカスのもみほぐしを十分に堪能したところで、亜理紗ちゃんは紙につつんでゴミ箱へと入れました。次なる破壊の対象を探し、再び亜理紗ちゃんが立ち上がります。すると、壁にかかっているカレンダーをめくっていないことに気づきました。
「あ、月が変わってるのにめくってない」
「2か月前からめくってないじゃん……」
これはいいとばかり、亜理紗ちゃんはカレンダーに手をかけます。そして、グッと手に力を入れて、カレンダーの1枚をビリビリとはがしました。
「……あぁー!少し破けちゃってる!」
「別にいいでしょ……」
引きはがしたカレンダーの端っこが破れ、束ねてある部分に少しだけ残ってしまいます。稀に見る悔しそうな亜理紗ちゃんを見て、ちょっと知恵ちゃんは嬉しそうです。今度こそはと、次の1枚に亜理紗ちゃんは手をかけました。
「ちーちゃん。いくね」
「どうぞ」
ゆっくりと慎重に、でもよどみなく、亜理紗ちゃんはカレンダーを引きはがしました。
「あぁー!」
その29の2へ続く






