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その28の4『手袋の話』

 ご飯とケーキを食べ、お風呂にも入り、知恵ちゃんは犬のモモコに寄り添ってテレビを見ています。音楽番組が終盤に差し掛かった頃には、時刻は夜の10時を回っていました。


 「知恵。はい。靴下」

 

 靴下の形をしているお菓子の詰め合わせからお菓子を取り出し、大きな靴下をお父さんは知恵ちゃんに渡します。それを枕元に吊るして寝ると、その中にサンタさんがクリスマスプレゼントを入れてくれます。


 「お父さん」

 「なに?」

 「夜に目がさめて、サンタさんに会ったら、どうしよう……」

 「その時は、ちゃんとアイサツしなさい」


 もしサンタクロースに会ったら、挨拶をすればいいと教えてもらい、知恵ちゃんは歯をみがきに洗面所へ向かいました。廊下は暖房がないのでリビングに比べて寒く、知恵ちゃんはモコモコしたスリッパをはいて足早に移動します。


 「……」


 ふと窓の外へ目をやると、降り続いていた雪が止んでいるのに気づきます。ガラスに結露した水玉越しに見える空には星が点々と輝いており、これならサンタクロースも仕事がしやすそうです。寒い洗面所で歯みがきを終わらせると、知恵ちゃんは自分の部屋に行って着替え、ついでに暖房もつけてリビングへと戻りました。


 「これ、布団に入れて寝るとあったかいから」

 「ありがとう。おやすみなさい」


 お母さんが湯たんぽを作ってくれたので、それを持って知恵ちゃんは自分の部屋へと眠りに行きました。湯たんぽを布団に入れるとあったかくて、暖房は必要なさそうなので知恵ちゃんはストーブをきってから部屋を消灯します。


 「……」


 亜理紗ちゃんとの約束を思い出し、知恵ちゃんは手袋の場所が描かれている地図を見えやすい場所に置きました。布団に入って湯たんぽをさすりながら、じっとして夜の音を聞いています。リビングからはテレビの音も届かず、たまに家の前を通り過ぎていく車の音とライトの光だけ部屋を訪れます。


 これから来るかもしれないサンタさんのことを考えると、落ち着かない様子の知恵ちゃんでしたが、たくさんご飯を食べたので幸せな気持ちが勝って、知らない内にまぶたは下がってしまいました。


 「……」

 

 目が覚めると、すでにカーテンの隙間からは太陽の光がこぼれています。知恵ちゃんは枕元に置いた靴下にプレゼントが入っているのを見つけました。そして、亜理紗ちゃんが描いた手袋の地図がなくなっているのにも気がつきました。プレゼントを持って、すぐに知恵ちゃんはリビングへと走っていきます。


 「お母さん。サンタさん来た?」

 「もう帰ったと思うけど、プレゼントもらったの?」

 「うん」


 時計は朝の7時を指していて、お母さんは朝ご飯を作っています。モモコがいないので、お父さんは散歩に行ったようです。もらったクリスマスプレゼントを知恵ちゃんは開けようとしますが、それをテーブルに置くと部屋へと着替えに行きました。ジャンバーを着て手袋をつけると、知恵ちゃんは少し出かけてくるとお母さんに伝えます。


 「プレゼントいいの?」

 「あとで開けるから。先に近くに出かけてくる」


 家を出て、知恵ちゃんは手袋が落ちている場所へと急ぎます。すると、亜理紗ちゃんが先に同じ場所へとやってきていました。太陽の光で雪の解けたブロックべいの上には、もう手袋は残っていませんでした。


 「ちーちゃん!手袋、なくなったよ」

 「ちゃんと持って帰ったのかな……」


 2人はサンタさんの行方を考えて、青空の彼方を見つめます。それから、少し解けて硬くなった地面の雪へと視線を落しました。そこには犬や猫のものとは違う、ひづめのような足あとと、大きなクツの足跡が残っていました。


                                 その29へ続く

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