その28の2『手袋の話』
「赤いし、大きいし、サンタさんのかもしれない……」
「サンタさんのじゃないと思うけど……」
「警察に持って行ったら、サンタさんも警察に取りに行かないとダメになるし」
交番へ落とし物を取りに行くサンタさんを2人は想像してみましたが、子どもがいない建物には入れないのではないかという結論に辿り着きました。手袋を交番に届けるとサンタさんの手には戻らないと考え、亜理紗ちゃんは別の作戦を考え始めます。
「持って帰って、ベッドの横に置いておいたら持って行くかも」
「盗んだと思われたらイヤなんだけど……」
「……そうだ!」
亜理紗ちゃんは手袋を元あった場所へと戻すと、取り出した学習ノートの最後のページを開きます。筆箱からは鉛筆を取り出し、周囲の様子を確認しながら、一つ一つ線を引いていきました。自宅の前へ到着した頃には、手袋のある位置から家の位置までを記した地図ができあがっていました。
「ちーちゃん。これをまくらのところに置こう。映して」
「わかった」
亜理紗ちゃんの描いた地図を見ながら、知恵ちゃんもノートの後ろの方へ模写していきます。しかし、写し終わった地図を見比べてみると、知恵ちゃん製のものは品質がよくなかった為、亜理紗ちゃんは自分で別の紙に映して知恵ちゃんに渡しました。最後に、地図の端っこに赤ペンで赤い手袋の絵を描き加えます。
「じゃあ、これをちーちゃんも、ベッドのそばに置いて寝てね」
「うん」
そう約束をして、それぞれ亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは自分の家へと帰っていきました。知恵ちゃんの家にはクリスマスツリーが飾られていて、それは昨日の夜に知恵ちゃんとお父さんで飾ったものです。お父さんがターキーとケーキを買ってくる予定なので、それ以外の料理をお母さんがキッチンで準備しています。
「ただいま」
「お帰りなさい。亜理紗ちゃんの家の電飾、見た?」
「なに?」
お母さんに教えてもらって、知恵ちゃんは隣の家の窓をのぞきます。亜理紗ちゃんの家の窓にはイルミネーションが輝いており、色とりどりに光る電球やステッカーがはられています。一方、知恵ちゃんの家の窓は雪がついているだけで、特に飾り気はありません。そこで、知恵ちゃんとお母さんはツリーを少し動かして、窓の外から見えるようにしておきました。
「知恵。ココア飲む?」
「ジュース飲むよ」
「お茶は?」
「じゃあ、ココア飲むよ」
夕方近く、テレビを見ながらソファに座っている知恵ちゃんに、お母さんがココアを入れてくれました。ココアにはお砂糖を少なめに入れ、代わりにマシュマロを浮かべてくれます。ピンク色のマシュマロを知恵ちゃんは、スプーンで押し込んで溶かしています。
「昼寝して、夜に寝れないとサンタさんが困っちゃうからね。ココア飲めば、少しカフェイン入ってるから」
「……今年もサンタさん来るの?」
「来るはずだけど」
お母さんからサンタさんが来ると言われ、知恵ちゃんは忙しそうにスプーンをカップの中で回しています。そして、ちょっとまゆをしかめながらつぶやきました。
「サンタさん来るんだ……緊張する」
「緊張しなくていいでしょ……」
その28の3へ続く






