その28の1『手袋の話』
今日は気温が普段よりもずっと低く、つららも屋根から長く伸びていて、いまにも家の壁に刺さってしまいそうです。でも、雪はチリ程度にしか降っていなくて、風も鋭くは吹いておりません。学校からの帰り道、亜理紗ちゃんは積もった雪を手に取って、おむすびのように両手でにぎっていました。
「ちーちゃん。おむすびに、なに入れますか?」
「ツナマヨ」
「ツナマヨおむすび。お母さんが作ってるの見た事ない」
ツナマヨおにぎりはスーパーかコンビニで買うものと亜理紗ちゃんは思っているので、知恵ちゃんに作ってと言われても作り方が解りません。仕方なく、亜理紗ちゃんは枯れ葉の一枚を雪玉に押し込みます。
「おかかを入れた」
「おかかか……」
亜理紗ちゃんから枯れ葉入りの雪玉を受け取り、知恵ちゃんは手袋越しに雪玉をなでています。積もった雪で車道がせまくなっていて、道路を走る車は擦れ違うだけでも大変です。逆に歩道と車道の間には雪が積もっているので、雪でできたガードレールがあり歩行者は安全です。
「……あ」
自宅のある通りへ2人が入り込むと、そこで亜理紗ちゃんは手袋が雪の上に落ちているのを見つけました。それは赤い毛糸の手袋で、やや厚めに編まれていて手作りなのが見て解ります。でも、右手用のものしか落ちておらず、左手用は近くを探しても見つけることができませんでした。
「片方しかない。ちーちゃん。こういうのって、交番に持っていけばいいの?」
「うん。でも、探しにくるかもしれないし」
「そっか」
2人の家から歩いて数分の場所には交番があり、パトロール中でなければ警察官の人が待機しています。そちらへ持って行っても時間はかからないのですが、持ち主が探しにくるかもしれないという理由から、2人は手袋を目立つ場所に置いていくことにしました。
次の日、学校は終業式を迎え、同時に今日がクリスマスイヴです。学校ではサンタさんからのプレゼントについて、みんなが楽しげに話しております。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんも同じで、学校の帰り道ではサンタさんの話をしていました。
「ちーちゃん。サンタさんに、なにをもらえたら嬉しい?」
「別に何も」
「何もないっていうと、サンタさんが悲しむって、お父さんが言ってた」
「……アリサちゃんは?」
「ホッチキスが欲しい」
「……それでいいの?」
サンタさんの心配をしながら通学路を歩いていると、2人が置いていったままの状態で、赤い手袋がブロック塀の上へと乗ったままになっていました。こうなったら是非とも交番へ届けなければならないと、亜理紗ちゃんは足取りも軽く手袋を交番へ運びます。
「……あ」
「……どうしたの?」
赤い手袋を持ったまま立ち止まり、亜理紗ちゃんは手袋の観察を始めます。そして、ちょっとビックリしたような顔をして、内緒の話をするように知恵ちゃんへと言いました。
「これ、サンタさんのだったら、どうしよう……」
「……え?」
その28の2へ続く






