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その27の4『川下りの話』

 「ちーちゃん。なんの曲、かけるの?」

 「桜ちゃんが好きだって言ってたのをかけるけど」

 「アニメ?」

 「ドラマの歌の人たちの他の歌も入ってるやつ」


 人気ドラマの主題歌が収録されているアルバムをお父さんが持っていたので、それを知恵ちゃんは借りて部屋で聞いていました。ベッドわきに置いてある機械のボタンを押すと、シュルルルというディスクの回る音がします。まず始めに、学校でも誰もが知っている有名な曲が流れ始めました。


 「これ、私も知ってる!あれでしょ?」

 「うん」

 「スーパーで5時半くらいになると、かかる歌だ!」

 「そうなんだ……」


 亜理紗ちゃんがお母さんと一緒に買い物へ行くと、いつも5時半には同じ歌が流れています。ここ数年、スーパーの放送で流れる曲は変わっていないので、同じスーパーに買い物へ行っている人は、この歌を歌えるくらいには知っています。


 「きらきらって見てる~♪」

 「ちらちらじゃないの?」

 「おまめのくちびる~♪」

 「なに?おまめのくちびるって……」


 小声で歌っている亜理紗ちゃんの歌詞が著しく間違っており、それが気になって知恵ちゃんは眠れません。そんな亜理紗ちゃんも2曲目のバラードが始まると、忘れていた眠気を思い出したかのように静かになりました。亜理紗ちゃんの寝息を聞いている内、知恵ちゃんも次第に瞼が降りてきました。


 ザーザーと雨の音が聞こえています。シャカシャカと音楽が鳴っています。湿った水のにおい。ほのかに漂う樹木の香り。紫色の空。散りみだれた影から覗く月。ぼんやりとした視界を広げ、ゆっくりと知恵ちゃんは目を覚まします。


 「……」


 ベッドと布団の感触を手で確かめます。仰向けに寝たまま、真上にある空の色と、空を縁取っている木の枝葉を見つめます。ザブザブという水の揺れる音が聞き、知恵ちゃんは布団から体を起こして周囲を見回します。


 「……」


 ベッドの左右には影絵にも似た暗い森があり、ベッドは細長い川の上をゆっくりと流れています。沈む様子は見て取れません。ベッドは2人を乗せて流れていきます。


 「アリサちゃん。起きて」

 「……」


 知恵ちゃんが亜理紗ちゃんを起こそうとしますが、亜理紗ちゃんは幸せそうな寝顔で布団に潜り込んでしまいます。森の中からは、知恵ちゃんが寝る前に流した音楽が聞こえています。森の隙間から見える紫色の空には、くるくると月が回っています。


 「……」


 知恵ちゃんはベッドが何に乗っているのか確認します。ベッドの下にはイカダらしきものがあり、それはシワシワの樹皮に覆われた木を組んで作られていました。川は知恵ちゃんや亜理紗ちゃんでも陸へ飛び移れるほどにせまくて、ちょうどイカダが進めるくらいの幅しかありません。

 

 青い水の底にはキラキラとした石が転がっており、沈みようがないくらい浅いのが見て取れます。知恵ちゃんは布団をかぶり直すと、先程よりも深く亜理紗ちゃんに寄り添って、寝転がったままマバタキながらに夜空を見つめていました。


                              その27の5へ続く

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