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その27の1『川下りの話』

 今日は土曜日です。次の日は学校がお休みなので、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家にお泊りにくる約束をしていました。夜の7時頃になり、知恵ちゃんの家の電話が鳴ります。それを知恵ちゃんのお父さんが取り、短めに会話をした後に知恵ちゃんへと伝えます。


 「知恵。今からアリサちゃんが来るって」

 「わかった」


 そう言うと、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんを迎えるため、玄関で待機を始めます。外は強く雨が降っていて、屋根を叩く音がザーザーと聞こえています。家のインターホンが鳴り響くと、リビングからやってきた知恵ちゃんのお父さんが玄関を開きました。


 「すみません。今日は、うちの子をよろしくお願いします。こちら、召し上がってください」

 「いえ、お気遣いなく。亜理紗ちゃんは、もう晩ご飯は食べたの?」

 「食べました」


 傘をさしてやってきたのは亜理紗ちゃんと、亜理紗ちゃんのお父さんでした。亜理紗ちゃんのお父さんは手土産として、ビニール袋に入ったリンゴを差し出しています。それを申し訳なさそうに受け取り、知恵ちゃんのお父さんは亜理紗ちゃんを家に迎え入れました。


 「アリサが、知恵ちゃんと一緒にお風呂に入ると聞かなくて」

 「お気になさらず。明日の朝、お家に帰る時には、ご連絡いたします」


 お父さん同士の会話は長引きそうなので、先に知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは家の中へと入ります。亜理紗ちゃんは知恵ちゃんのお母さんにもアイサツをして、それから2階にある知恵ちゃんの部屋に荷物を置きに行きました。


 「ちーちゃん。すぐお風呂に入る?」

 「入るけど?」

 「これ、持ってきたんだ」


 亜理紗ちゃんはバッグの中からボートのオモチャを取り出し、それをテーブルの上に置いて知恵ちゃんに見せます。ボートのオモチャは亜理紗ちゃんの手に乗るくらいの小さなもので、その船底には人間のような2本の足がついています。側面についているネジを回すと、その足は水をかくように忙しく回り始めます。


 「今日は、これで、ちーちゃんと遊ぶ」

 「どうやって遊ぶの?」

 「もう1個、おんなじ船があるから」

 「レースするの?」

 「戦わせる」

 「戦わせるの?」


 亜理紗ちゃんはバッグからバスタオルなどを引っ張り出し、知恵ちゃんと一緒にオモチャを持ってお風呂場へ行きました。まだお風呂のお湯は湯船に半分しか入っていないので、2人は先にシャワーで体を洗い始めました。


 「あ、ちーちゃんの頭、洗ってあげる」

 「ええ?いいよ……」

 「せっかくだから遊ばせて」


 ついアリサちゃんは遊びたい本音が出てしまっています。知恵ちゃんも恥ずかしそうにしながらも亜理紗ちゃんの前に座ります。知恵ちゃんの髪は亜理紗ちゃんの髪よりも長く、泡をつけて触ると、好きな形に整えることができます。横に広げてみたり、縦に伸ばしてみたり、あれこれ動かして遊んでいますが、知恵ちゃんは泡が入らないように目をつむっているので、どんな髪型にされているのか自分では解りません。


 「ちーちゃん。流すね」

 「んん」


 一通り遊び終わって満足すると、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの髪についた泡をシャワーで流します。シャンプーに包まれていた髪は次第に滑らかさを取り戻し、知恵ちゃんの髪はシャワーを止めた後も水が流れ続けているように光沢を含んでいました。


 「アリサちゃん、終わった?」

 「……おお」

 「アリサちゃん?」


 もう目を開けていいのか知恵ちゃんは聞いていますが、亜理紗ちゃんはビックリした様子で声をもらしていました。洗い終わった後の知恵ちゃんの髪を触りながら、今度は亜理紗ちゃんが知恵ちゃんに言います。


 「もうちょっと、さわってていい?」

 「なんで?」

 「だって、知恵ちゃんの髪、すごいキレイだから」


 今まで、多くの時間を過ごしてきた2人でしたが、こうして知恵ちゃんに髪を亜理紗ちゃんが、しっかりと触るのは初めてのことでした。自分の髪とは全く違う、指をすりぬけるような感触を知り、亜理紗ちゃんは物珍しそうに、何かを確かめるように、知恵ちゃんの髪をなでていました。


 「アリサちゃん……もういい?」

 「……うん」


 知恵ちゃんが顔を真っ赤にして言うので、亜理紗ちゃんは名残惜しそうに髪から指を離します。つやのある細い髪を見つめ、亜理紗ちゃんは雨の音に隠すように、一つ一つつぶやきました。


 「ちーちゃんの髪……」

 「なに?」

 「細くて長くて……」

 「……」

 「そうめんみたいで好き……」

 「……そうめん」

 

                                その27の2へ続く 


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