その26の3『階段下、謎のトビラの話』
「危なそうだったら帰るから」
「そうしよう」
いつでも帰り道が後ろにある安心感からか、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に地下通路の先へ行ってみることにしました。石でできた大きな門を抜けた先にはポツンと灰色の丸い玉が置いてあり、他には何も見当たりません。亜理紗ちゃんは落ちている玉を持ち上げ、その重さを計るようにして右手と左手に持ち替えています。
「重いの?」
「軽いけど」
灰色の玉は手のひらに乗る程度の大きさで、亜理紗ちゃんが頑張らなくても持てる軽いものでした。ひび割れのような模様が浮かんでいますが、指で力を入れて見ても割れる様子はありません。玉を観察している亜理紗ちゃんの横で、知恵ちゃんは正面に何かが浮かんでいるのを見つけます。
「アリサちゃん。あれなに?」
「どれ?」
2人の目の前には、距離感の掴めない白い空間が広がっています。その中に謎の黒い丸が浮かんでおり、それを知恵ちゃんは不思議そうに指さしています。亜理紗ちゃんが黒い丸に近づこうとしますが、すると丸いものは小さくなってしまいます。
「アリサちゃん……もどってきて」
どこまでも黒い丸を追いかけていってしまいそうだったので、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんを呼び戻しました。亜理紗ちゃんが駆け戻ってくるのに合わせて、向こう側にある黒い丸も揺れ動きながら膨らみます。そして、じっと2人は黒い丸を見つめ、それが逃げ出さない内に走り出します。でも、やっぱり黒い丸に追いつくことはできませんでした。
「あの黒いの、足が速い」
「……足?」
やや息を切らしながらも、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの言葉に疑問を返します。どう見ても黒い丸に足はないのですが、どうしても追いつくことができません。そんな中、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの持っている灰色の玉が気になりました。
「……それ、なんなんだろう」
「わかんないけど」
亜理紗ちゃんは玉を地面に置いてみたり、背伸びしつつ天にかかげてみたりします。それと同じ動きで、黒い丸も移動しています。知恵ちゃんが振り返って門の上側を見つめると、そこから眩い光が降り注いでいるのを見つけました。
「あの黒いの、影なんじゃないの?」
「これの?でも、私たちの影ないけど」
2人の影は部屋のどこにも映っていなくて、でも黒い丸は玉にあわせて動きます。亜理紗ちゃんが門へと近づき、玉を光にかざしてみます。そうすると、黒い丸は一気に大きさを増して、その中には無数の階段が縫い合わされるように上へ下へと伸びていました。
「影の中に部屋がある!」
驚いた拍子に亜理紗ちゃんが灰色の玉から手を離すと、玉は重さもなく宙に浮かんだまま制止しました。2人で影の中にある階段をのぞきこみます。上に登り階段があったり、下に下り階段があったり、はたまた階段が横向きについていたり、そこは階段だけでできている迷路のような場所でした。
「ちーちゃん。地図を見て」
「どう見るの?」
「横にして見るんじゃないの」
「……この地図、横から見た地図だったんだ」
部屋や通路を上から見た地図だと2人は思っていましたが、カメラの写真と階段を比べてみると、それが断面的に横から見た地図だと解りました。階段を降り始めた亜理紗ちゃんの後ろで、知恵ちゃんはドアがついてきているか気になり振り返ってみます。
「あ……アリサちゃん」
「なに?」
「……ドア、転んでる」
少し離れて2人についてきていたドアが、今は白い地面に倒れ込んだままもがいています。知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは急いで引き返し、力をあわせてドアを助けました。
その26の4へ続く






