その25の2『嘘の話』
亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは自分の部屋からお財布を持ってきて、中身を確認しながら家の前に戻ってきました。知恵ちゃんのお財布には1000円ほど、亜理紗ちゃんのお財布には300円くらい入っています。
「亜理紗ちゃん。300円で何を買うの?」
「ホッチキスが欲しい」
「買えないでしょ……佐藤商店、今日はやってるっけ?」
「火曜日だから、結構やってると思う」
「ウソじゃない?」
「ほんと」
2人が行こうとしている場所は家の近くにある個人経営のお店で、そこはおばあさんが毎日一人で店の番をしています。たまにお休みの場合もありますが、週の始めは開店していることが多いと常連の亜理紗ちゃんは知っています。
「おばあちゃん。こんにちは」
「はい。こんにちは」
家から歩いて3分かからず、2人はお店へと到着しました。お店の戸を亜理紗ちゃんが開き、亜理紗ちゃんがおばあさんに挨拶している内に知恵ちゃんが戸を閉めます。
お店の中は広くなくて、奥の壁まで見渡せる高さで棚に商品が並べられています。文房具の他に、少しだけパンや雑貨も置かれていて、そちらを亜理紗ちゃんはまじまじと見つめています。
「ちーちゃん。一緒にチョコパン、買わない?」
「今はいい……」
パンを半分ずつのお金で買う作戦でしたが、知恵ちゃんは乗り気ではありません。知恵ちゃんは実用的な消しゴムやペンを見に行き、亜理紗ちゃんは少し変わった文房具を手に取っています。棚の商品は子どもたちが触ったままになっていて、あまりキレイには並んでおりません。
「ちーちゃん。これ見て」
「なに?」
「チョコのにおいがするペン」
「まだパン、食べたいの?」
チョコの香りがついたペンで誘惑しても、知恵ちゃんはパンになびきません。そうして2人が自由に商品を見ていたところ、今度は小声で亜理紗ちゃんが知恵ちゃんを呼びました。
「ちーちゃん」
「なに?」
「あそこ、なんかいた」
亜理紗ちゃんが指さしているのは消しゴムの入っている箱なのですが、そこだけは他の商品と違ってキチンと整頓されています。しかし、知恵ちゃんが見た時には、すでに何も生き物はいませんでした。
「ウソ?」
「ほんとだよ」
「何がいたの?」
「小さい石ころみたいなのがいて、消しゴムを並べてたの」
再び、知恵ちゃんは消しゴムの箱をのぞいてみます。やっぱり、そこには生き物らしいものはいなくて、消しゴムがキレイに並べられているだけでした。今日の亜理紗ちゃんは嘘をつく約束なので、これも嘘だと考えて知恵ちゃんは先程まで見ていた棚へと戻りました。すると、そちらの文房具も乱れずに片付けてありました。
「アリサちゃん……並べた?」
亜理紗ちゃんは首を横に振ります。そんな2人を見て、お店のおばあちゃんは思い出したように言いました。
「たまにネコが入ってくるから、気にしないで」
「……ちーちゃん。ネコいるって」
「ネコ……」
「じゃあ、さっき消しゴムを並べたのもネコだ……」
「……それは違うと思うけど」
その25の3へ続く






