その3の2『探検の話』
「ちーちゃん!らくがきだ!」
「大きい落書きだ」
岩模様をした灰色の壁には金色の線が幾重に引いてあり、それは空を飛ぶ鳥の絵ともとれるものです。また、地を行くライオンにも似て見え、海を進むクジラにも亜理紗ちゃんの目には映りました。
「あっちにも、なにかあるよ」
「ちーちゃん。行ってみよう」
小さなライトを揺らしながら、二人は壁伝いに足を進めます。その先の壁には四角い形のブロックが規則正しく埋め込まれていて、チェック柄にも似て白と黒を散りばめてあります。
「ちーちゃん!パズルだ!」
「パズルじゃないよ?」
亜理紗ちゃんが黒い石を押してみたり、横へ動かしてみようとしますが、やはりビクともしませんでした。すると、亜理紗ちゃんは何も言わずに暗闇を見つめ、その中にあった小さな光を指さしました。
「……ちーちゃんのキーホルダーだ!」
「どこ?」
ライトで照らした先には石のついたキーホルダーがあり、積もった砂に埋まりかけています。細かい砂を手先で退け、知恵ちゃんは石を取り出しました。
「テーブルの上に置いておいたのに、こんなところにある」
「ちーちゃんから逃げたのかもしれない」
キーホルダーの石にライトを当てると、それは光を閉じ込めるようにチラチラと輝きます。それを観察している内、ふと部屋の蛍光灯が明るくなり、2人は亜理紗ちゃんの部屋の真ん中へ戻ってきていました。そんな二人を見て、亜理紗ちゃんのお母さんが不思議な顔をしています。
「部屋、暗くしてなにしてるの?」
「お母さん。ちーちゃんと探検ごっこだよ!」
「そっか。いちごババロアできたけど食べる?」
「やった!ちーちゃん、行こう!」
「うん」
少しだけ残っているカステラと牛乳を持って、2人はリビングへと呼ばれていきます。知恵ちゃんはキーホルダーを一度はテーブルへ置きましたが、戻ってきてスカートのポケットへとしまい込むと、急いで隣の部屋へと戻っていきました。
その6に続く