その25の1『嘘の話』
放課後、知恵ちゃんが学校の図書室で本を選んでいます。この学校には図書委員がいないので貸し出しはできませんが、あまり使っている生徒もいないので、目当ての本を先に取られてしまう心配もありません。
新しく発売された本は滅多に入ってこないのですが、まれに古い本が追加されていることがあり、知恵ちゃんが手に取った本も古びて変色しています。亜理紗ちゃんがクラスの友達と会話し終わるまで、こうして知恵ちゃんは図書室で時間をつぶしているのです。
「ちーちゃん。帰ろう!」
10分くらいして、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんを迎えにやってきました。知恵ちゃんは本の序章だけを読み終え、そこにヒモのしおりをはさんで閉じました。本を元あった場所へと戻すと、2人で図書室を出ました。
「ちーちゃん。なに、読んでたの?」
「探偵の話」
「探偵……じゃあ、今日は、ちーちゃんが探偵やって」
「……なに?」
亜理紗ちゃんが変な遊びを思いつき、そのルールが解らずに知恵ちゃんは聞き返します。
「私が、たまに嘘を言うから、嘘だったら嘘って言って」
「わかった」
「じゃあ、今日の朝ご飯はシチューだった」
「嘘なんでしょ?」
「え……」
学校の玄関を出た先で、最初の嘘が簡単に見破られてしまい、ビックリして亜理紗ちゃんは足を止めました。どうして嘘だとバレたのか、逆に亜理紗ちゃんが推理を始めてしまいます。
「やっぱり、ワンちゃんを飼ってると鼻がよくなるの?」
「アリサちゃんだし……始めて最初に、本当のことは言わないでしょ……」
「それだけ?」
「うん」
知恵ちゃんの考えを聞いて、亜理紗ちゃんは納得したようにうなづいていました。その後、帰り道の途中で、ヘイの上に寝ているネコを見つけます。
「この子、桜ちゃん家のネコ」
「桜ちゃんの家、ハムスターいなかったっけ……」
「……バレたか」
2人が広い歩道を歩いていると、車道を一台の車が通っていきました。それを指さして、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんに言います。
「あれ、アメリカの車」
「うちのと同じだけど……」
「あっ……よく見たら、そうだ」
「アリサちゃん、アメリカ好きなの?」
このゲームを始めてしまった以上、亜理紗ちゃんは嘘を考えることに精いっぱいで、何を言っても嘘になってしまいます。家に帰るまでの間に10問ほども知恵ちゃんに出題しましたが、最後の方になると『今日はお正月』くらい嘘が大雑把になっていました。
「アリサちゃんって、嘘つけないよね」
「嘘つける。あ……このあと、文房具、佐藤商店に見に行こう」
「いいよ。アリサちゃん、お金あるの?」
「お金ある」
「ウソ……」
「ほんと……」
その25の2へ続く






