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その23の1『雲と太陽と星と月の話』

 ある日の放課後、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは近所の公園へ遊びに来ていました。2人で並んでベンチに腰かけると、駄菓子屋さんで買ってきたお菓子を一緒に食べ始めます。知恵ちゃんはカラフルなグミとお金の形をしたチョコレートをいくつか、亜理紗ちゃんは棒状の長いスナックとヒモのついた大きなアメを一個ずつ持っています。


 「ちーちゃん。交換しよう」

 「そっちは一個ずつしかないんだから、交換できないでしょ」

 「アメ、先になめていいよ」

 「それはイヤ……」

 「こっちをあげる。はい、あーん」


 一つのアメを2人でなめる案は断られた為、亜理紗ちゃんは棒状のスナックの一口目を知恵ちゃんにあげます。その代わり、知恵ちゃんはグミを何個か亜理紗ちゃんに渡しました。


 「これいい。ちーちゃんと同じのにすればよかった」

 「なんで、めんたいこのスナック買ったの?」

 「めんたいこってなんなのか解んなかったから。めんたいこって、なんなの?」

 「知らない」


 亜理紗ちゃんの買ってきたスナックは明太子味のものだったのですが、どちらも明太子を食べたことがないので本物を知りません。でも、このお菓子を食べてなんとなく、ちょっと辛いものだと解ったようです。


 大体のお菓子は食べ終わり、亜理紗ちゃんはアメをなめつつ、それについているヒモを口から出しています。公園には小さい子どもを連れて散歩に来たお母さんがいて、子どもと手をつないだまま他の女の人とお話をしています。今日の天気は晴れ晴れとしていて、小さな雲はありますが雨が降る気配はありません。


 「ちーちゃん」

 「なに?」

 「雲って、どんな味なの?」

 「……なに?」


 亜理紗ちゃんは空に浮かぶ雲をながめており、その味を知恵ちゃんにたずねています。ただ、そんなことは知恵ちゃんも知らないので、ひとまず質問の意図を聞き返していました。


 「だって、ほら。わたあめみたいじゃない?」

 「味はしなさそう……」

 「雪は味がしないから、雲もないかもしれない……」

 「雪は汚いから食べないで……」


 亜理紗ちゃんが雪を食べた事実はさておき、この場では答えが出ないとみて2人は問題を保留としました。そうしている内、何気なしに亜理紗ちゃんは空へと手を伸ばしてみます。知恵ちゃんは食べ終わった駄菓子の入れ物を一つにまとめ、グミの袋の中へと押し込んでいます。


 「あ……」

 「……?」


 亜理紗ちゃんの声を聞き、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの方を見つめます。引き戻した亜理紗ちゃんの手には白い綿が握られていて、さっきまで雲のあった場所には霧状のものしか残っておりません。知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが何をつかんでいるのか、少し考えたのちに理解しました。


 「ど……どうしよう。取っちゃった」

 「なにしてるの……」

 「ちーちゃん……食べる?」

 「もどして」

 

 亜理紗ちゃんはサラサラとした雲の質感を確かめるように触っていましたが、雲を空の元あった場所へと戻しました。しばらくは目の前を漂っていた雲も、次第に空の青色へとなじんでいきました。周りの誰にも雲をつかんだのがバレていないのを確認すると、知恵ちゃんは食べ終わった駄菓子の入れ物を持って立ち上がりました。


 「雲について調べるから、帰って理科の教科書を見てみよう」

 「あの……ちーちゃん」

 「なに?」

 

 家に帰ろうとする知恵ちゃんを呼び止めると、亜理紗ちゃんは太陽の方を指さして言いました。


 「今なら、あれも取れるかもしれないけど」

 「絶対、やけどする……」

 「……じゃあ、やめよう」

 「……うん」


 

                                 その23の2へ続く


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