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その22の3『心の話』

 「きっとアメリカだ」

 「私の夢に出てくるのはアメリカなの……?」

 「だって、広いから」


 知恵ちゃんの机の上に貼ってある世界地図を指さしながら、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんが夢で見た場所はアメリカなのではないかと推測しています。ただ、亜理紗ちゃんも知恵ちゃんもアメリカに行ったことなんて一度もなくて、映画の場面場面で部分的に見ただけの知識しかありません。


 「アメリカではないと思う……」

 「じゃあ、私も見てみたい」

 「え……」


 さっき、実際に行ったと伝えてしまった為、探せば行けると亜理紗ちゃんは考えました。すると、もう興味がないといった素振りを交えつつ、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんのゲームの続きを始めました。


 「やめよう」

 「なんで?」

 「見ても、あんまり面白くないよ」


 亜理紗ちゃんに借りたゲームのステージ2は敵の乗り物が強く、少し油断すると一気に攻め込まれてしまいます。亜理紗ちゃんはゲームをしている知恵ちゃんの横に来くると、ゲームで隠している知恵ちゃんの顔をのぞきます。


 「なんで?探してみようよ」

 「だって、行ってもつまんないし」

 

 亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの協力を得られないと見るや、ベッドから降りてクローゼットの前に立ちました。その取っ手に手をかけると、知らん顔でゲームをしている知恵ちゃんに聞きました。

 

 「ここ、開けるよ」

 「……いいよ」


 亜理紗ちゃんがクローゼットを開いてみますが、中には知恵ちゃんの服しか入っておりません。その中を少しだけ確認して閉めると、今度は知恵ちゃんの机の大きな引き出しに手をかけました。


 「開けていい?」

 「うん」


 引き出しの中には使わなくなった教科書やノートが詰まっています。そこにも世界の入り口はないと判断し、次に亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの部屋のドアノブへと手をかけました。


 「この部屋じゃないところなの?」

 「……」

 「あ……」


 知恵ちゃんが何も言わないのを見て、亜理紗ちゃんは扉の先に知恵ちゃんの見つけた世界があるのに気づきました。


 「あ、ここなんだ」

 「……」

 「開けちゃうね」

 「まって……」


 亜理紗ちゃんが廊下へ出る扉を開こうとしたのを見て、すぐに知恵ちゃんは亜理紗ちゃんを止めに来ました。止めに来たはずなのですが、ドアを開こうとしている亜理紗ちゃんが、知恵ちゃんの夢に出てくる場所に興味津々なのを知ると、恥ずかしそうな顔をうつむかせて言いました。


 「……いいよ」

 「じゃあ、開けるね」


 亜理紗ちゃんが扉を開きます。その向こうには知恵ちゃんが描いた絵と似た色の景色が広がっていて、すぐに亜理紗ちゃんは草原へと踏み出そうとしました。でも、それを知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの袖をつかんで引き止めます。


 「本当に面白くないから」

 「そんなことないよ」


 そう言って、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんと一緒に不思議な世界へと歩み出ました。無機質に青く光っている空と、地面の形が解らないくらい緑の豊かな原っぱがあります。どこまでも見果てない景色が、2人の周りに延々と広がっています。


 「キレイじゃん」

 「そうかな……」

 「うん」


 何もないように見える風景から何か読み取るようにして、ずっと亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは遠く遠く目をこらしていました。そんな2人が気づかないくらいに、ゆっくりと、空の色は少しずつ赤く変わっていきました。


                                      


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