その22の2『心の話』
「はい」
『……あ、ちーちゃん。今、ひま?』
知恵ちゃんが電話の受話器を取ると、電話の向こうからは亜理紗ちゃんの声が聞こえてきました。亜理紗ちゃんにヒマかと問いかけられますが、家にいなくなると帰ってきたお父さんとお母さんが心配する為、知恵ちゃんは午前中の間は家にいると昨日の夜に両親と約束をしていました。
「今、お父さんとお母さんがいないから……」
『遊びに行ってもいい?』
「それならいいけど」
家から離れられないことが解ると、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家に遊びに来ると言いました。その後、何を持って行くかだけ話して電話は終わり、10分後に亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの家へやってきました。
「ちーちゃんのお父さんとお母さん、どこ行ったの?」
「ごあいさつ」
用事について両親からは『ご挨拶に行く』としか聞いておらず、朝方から出かけることとなった為に知恵ちゃんは家に残されていました。他の部屋へ寄ることなく、すぐに2人は上の階にある知恵ちゃんの部屋へと向かいます。ただ、知恵ちゃんは自分の部屋を開ける際、ちょっとだけドアの向こうを確認しました。
「どうしたの?」
「……ん。別に」
ドアは知恵ちゃんの部屋に繋がっており、知恵ちゃんは安堵の息を吐いてから亜理紗ちゃんを自室に迎えました。亜理紗ちゃんはバッグからゲームを取り出すと、いつものように知恵ちゃんと一緒にベッドへ寝転んで遊び始めました。
「ねえ。これ見て」
「なにこれ?」
「お父さんに借りた」
亜理紗ちゃんの持ってきたゲーム機には見慣れないゲームが入っており、それは戦車や飛行機が敵味方の軍に分かれて戦う内容のものです。可愛らしいキャラクターが全く登場しないゲームを珍しがり、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんにほほがつくくらい近づいて、小さなゲームの画面をのぞきこみました。
「アリサちゃん……今、負けてない?」
「でも、人は多いけど」
亜理紗ちゃんは歩兵ばかりを出動させる為、敵軍の空飛ぶ爆撃機を倒す方法がありません。あれよあれよという間に敵の戦車や兵隊が領地を占拠していき、成す術もなくゲームオーバーとなってしまいました。ただ、くやしがる様子もなく、でも負けた理由が解らないとばかりにつぶやきながら、亜理紗ちゃんは同じステージを再び遊び始めます。
「ん~……ちょっと、どういうゲームか解んないけど……」
「飛行機を作れば?」
「どれが飛行機」
「これ」
よくルールの解っていない亜理紗ちゃんに代わって、知恵ちゃんがゲームの進め方を考えてあげます。すると、今度は相手の戦車も倒すことができ、飛行機を追う形で味方の兵隊が敵の領地へと辿り着きました。
「あれ?クリアした?」
「まだ最初の面だし」
「なんで勝ったの?」
「相手のところを全部、とったからじゃない?」
「そっか」
どうして勝ったのかも解らないまま亜理紗ちゃんは最初のステージをクリアし、そのままゲーム機を知恵ちゃんに渡しました。そして、近くにあったぬいぐるみをおなかに乗せて遊び始めましたが、ふと亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの鞄についている紫の石を見つけると、何を探るでもなく漠然と質問を投げかけました。
「ちーちゃん。最近、変な世界に行った?」
「なんで?」
「なんとなく」
「……うん」
「どんなところ?」
どのような場所なのかと聞かれ、知恵ちゃんは朝に見た草原や空を適当な紙に色鉛筆で描いて見せました。とはいえ、空と原っぱ以外に描くものはない為、ものの1分で絵は完成しました。
「……なにこれ?」
「空と原っぱしかないんだけど、よく夢でも見る場所なの」
「う~ん……」
知恵ちゃんの上手でない画力も相まって何が描いてあるのか解らず、亜理紗ちゃんは絵にグッと顔を近づけます。そして、何秒か考えた末、顔を上げて一つの答えを出しました。
「……アメリカかもしれない」
「なんでアメリカ……」
その22の3へ続く






