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その21の2『色の話』

 放課後になり、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に通学路を歩いています。その道の途中、知恵ちゃんは図画工作の授業であったことを話していました。


 「桜ちゃんがポピーの絵を描いてて、でも本物と色が違ったんだ」

 「へぇ。ポピーって何?」

 「お花の名前」

 「……そうだ。私のも見る?」

 

 自分も授業で絵を描いていた事を思い出し、亜理紗ちゃんはランドセルの中から画用紙を取り出しました。まだ描きかけの絵なのですが、画用紙は小さく四つ折りにされています。でも、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが割と絵が得意なのを知っているので、あえて完成するまで見ないでおくことにしました。


 「今日、ちーちゃん遊びに来る?」

 「なにする?」

 「マンガ描く?」

 「読むんじゃなくて?」

 

 今日の亜理紗ちゃんはイラストを描きたい気分のようで、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんの部屋で落書きをして遊ぶ事にしました。知恵ちゃんは自分の家に帰るとランドセルを部屋に置き、私物の入っているバッグや、筆箱などを持って亜理紗ちゃんの家を訪ねました。玄関のインターホンを鳴らすと、少しして亜理紗ちゃんが家から出てきました。


 「ちーちゃん、なに持ってきた?」

 「エンピツと消しゴムくらいだけど……」


 そのような話をしながら廊下を歩いていると、どこからか水の流れるような音が聞こえてきました。知恵ちゃんは音の出どころを探してみますが、近くには洗面所もお手洗いもありません。そんな知恵ちゃんの様子に気づき、先を歩いていた亜理紗ちゃんが戻ってきます。


 「どうしたの?」

 「さっき、水みたいな音しなかった?」

 「……」


 2人で周りをぐるりと見てみます。廊下の角には額に飾ってある大きめの絵が置かれていて、それ以外には天井で電球が光っているだけです。亜理紗ちゃんには水の音が聞こえなかったようでしたので、知恵ちゃんも気のせいにして亜理紗ちゃんの部屋へと向かいました。


 「じゃあ、私は、ウサきち描くから、ちーちゃんもなんか描いて」

 「うん」


 亜理紗ちゃんは部屋に飾っていたキャラクターの人形をテーブルに持ってくると、そちらを見比べつつ小さなメモ帳にキャラクターを描き始めました。知恵ちゃんも別のキャラクターを色鉛筆で描いていくのですが、すぐに失敗したようでメモ紙を裏返しにして再びチャレンジしています。


 「ちーちゃん。なにそれ?」

 「魚のカナちゃん」


 亜理紗ちゃんから見ても知恵ちゃんの絵の正体は解らず、目の前に見本があるにも関わらず何を描いているのか尋ねていました。その後、キャラクターの輪郭が描き終わった頃、急に知恵ちゃんは手元から視線をあげて、やはり気になるとばかり亜理紗ちゃんに話しかけました。


 「……さっきの絵、見に行ってもいい?」

 「さっきの絵って?」

 「廊下にあったやつ」

 「いいけど」


 絵を描いている内に先程の水の音を思い出し、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に玄関近くの廊下を見に行きました。すっと耳を澄ませてみます。すると、今度は亜理紗ちゃんにも水の流れる音が確認できました。


 「あ、ほんとだ。水の音がする。どこからだろう」


 2人で絵を見つめてみます。油絵具で描かれた絵には黄色い花と緑の草むら、それと青々とした川が映っています。しかし、そこに咲いている花は、しおれて枯れそうに下を向いていました。


                               その21の3へ続く



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