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その19の3『冬と砂漠の話』

 水筒の中には、まだ半分くらいお茶が残っています。それをコポコポと揺らしながら、知恵ちゃんは次にどこへ行くか考えていました。


 「アリサちゃん。次、どこに行く?」

 「駐車場は?」

 「うん」


 2人は立ち上がると、家の前にある歩道を真っ直ぐに進んでいきます。亜理紗ちゃんの家から歩いて20秒の場所には幼稚園の駐車場があります。今日は休日なので一台も車が止まっておりません。そこならば踏まれていない雪があると予想し、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは雪の様子を確認しに行きました。

 

 駐車場は幼稚園の職員が普段は使用しているのですが、面積が広いので余ったスペースを雪捨て場として開放していました。いつもは砂利が敷き詰められている駐車場には、スキーが出来そうな高い雪山が作られています。


 「ちーちゃん。雪がスゴイ!」

 「雪だらけだ……」


 捨てる雪を運ぶために引いたソリのあとが続いていて、あちらこちらには大人の大きな足跡が残っています。ここがダメならば、他にキレイな雪が残っていそうな場所はありません。少しずつ強まってきた風と雪を見上げながら、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに諦めようと伝えした。


 「ダメそう……もう帰ってマンガ読もう」

 「でも、駐車場の奥はキレイかもしれない……」

 

 積もっている雪は知恵ちゃんの足首あたりま高さがあり、歩いている内に靴の中が雪だらけになってしまいそうです。駐車場の右奥にある草むらになっている場所ならば、まだキレイな雪が残っているかもしれないと亜理紗ちゃんは言いますが、知恵ちゃんは寒さに耐えかねています。


 「もし、冬クツが雪の中でなくなると困るし」

 「……」


 そう言って知恵ちゃんが家の方へと振り返り、亜理紗ちゃんは名残惜しそうに駐車場を見つめています。すると、重たげに空を覆っていた雲の間から、真っ赤な太陽が顔を出しました、


 太陽の強い光を受け、駐車場の雪は一斉に白い輝きを放ちました。まぶしさが止んで亜理紗ちゃんが瞳を開くと、そこには雪の白さは一つも残っておらず、駐車場の雪は全て茶色い砂の粒へと変化していました。


 「……ちーちゃん!砂漠だ!」

 「……?」

 

 たっぷりと積もっている砂に足を乗せてみると、それは雪とは違い沈み込みながらも亜理紗ちゃんの足を受け止めました。太陽の光も冬の寒さをかき消してしまう程に熱く、2人の冷えた体をポカポカと温めてくれます。


 「行こう!」


 雲が太陽を隠してしまう前に、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの手をとって走り出しました。天から降り注ぐ光の粉は次第に雪の綿へと変化していき、砂漠の砂も亜理紗ちゃんと知恵ちゃんが一つ踏むたびに元の姿を取り戻していきます。そして、2人が駐車場の奥に辿り着いた頃には、すでに砂漠の砂は雪の白さを取り戻していました。


 「あった!」


 駐車場の奥には、まだ誰も踏んだあとのないキレイで平らな雪が残っていました。しかし、その汚れない雪を見つめる間もなく、2人は転がるようにして雪の上へと倒れ込みました。太陽の熱で温まった体に、雪の冷たさが染み込んでいきます。


 「転んじゃった……ちーちゃん。ごめんね」

 「えっと……うん。いいよ」


 仰向けに倒れ込んだ二人に見送られるようにして、太陽が雲の中へと戻っていきます。降り続いていた雪は止んでいて、ふわふわの雪だけが今は地上に残っています。


 2人は立ち上がると、自分たちが倒れ込んだあとをながめてみました。周りには足あとの一つもない場所に、2人のいた影だけが大きく残っていました。



                              その20へ続く



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