その19の1『冬と砂漠の話』
さらさらと雪が降り続いています。知恵ちゃんのお父さんは早朝から家の外で除雪をしており、それをしない事には知恵ちゃんは玄関から外に出られないほど、大量の雪が家の周りには積もり積もっていました。窓の外にも雪の山ができあがっていて、隣の家の庭を覆いつくすほどでした。
「となりは融雪のヒーターが入ってていいなあ」
「これだけ積もると、溶けるのも時間かかるんじゃないの?」
知恵ちゃんのお父さんが雪まみれになって家の中へと戻りつつ、隣にある亜理紗ちゃんの家の融雪機をうらやんでいます。しかし、地面に埋め込まれたヒーターが温かくなるには少し時間がかかるので、雪かきで除けた方が早いと知恵ちゃんのお母さんは言っています。
お父さんの雪かきを知恵ちゃんも手伝いに出ようとしたのですが、ブルドーザーが道路の雪を押しのけていった後だったので、知恵ちゃんの背丈ほどもある雪が車道に沿って詰んでありました。普通に歩く事すらままならない状態であった為、そのまま知恵ちゃんは家のコタツで待機していました。
幸い、今日は休日ということもあり、外に出なければ出なくても知恵ちゃんは困りません。なので、録画したテレビ番組を家族で見ながら過ごす予定だったのですが、朝と昼の境目あたりの時刻になると知恵ちゃんの家のインターホンが鳴りました。知恵ちゃんはコタツから出ると、部屋の壁についている画面つきの機械のボタンを押しました。
「……はい」
『ちーちゃん!あそぼう!』
いつもならばインターホンの鳴り方で誰が来たのか解る為、すぐに知恵ちゃんも玄関へ出ていくのですが、今日は曇り空に加えて雪も降っており、外に出るのも億劫になるほどの寒さでした。そこで、知恵ちゃんは家の中にある画面から玄関の様子を確認してみたのですが、どう見ても亜理紗ちゃんは雪で遊ぶ事を前提とした服装で知恵ちゃんの家を訪れていました。
「外で遊ぶの?」
『あそぼう』
「知恵……遊んできなさい」
寒さを理由に友達の誘いを断ろうとしている娘と、そんな娘に声をかけにきた友達を不憫に思ったのか、お父さんは遊んでくるよう知恵ちゃんに言いました。知恵ちゃんも本当に亜理紗ちゃんの誘いを断わろうという様子ではなく、さっき脱いだばかりの防寒着をすぐに着直しました。
「行ってきます」
「気をつけて遊ぶんだよ」
お父さんに一声かけると、知恵ちゃんは顔を覆うマスクまでつけて完全防備で家から出ました。そんな知恵ちゃんとは対照的に亜理紗ちゃんはマフラーすらせず、手袋も軍手と見間違えるような薄いものをつけていました。
「ちーちゃん。なにして遊ぶ?」
「……うう」
家の外の気温は非常に低く、冷たい空気に肌が触れた途端、知恵ちゃんの白い頬が赤くなりました。何をして遊ぶか質問された知恵ちゃんは、手袋越しに両手をこすり合わせながら考えていましたが、いいことを思いついた様子で返事をしました。
「雪ふみ」
「なにそれ?」
「まだ綺麗なままの雪のところを探して踏む」
「面白そう!やろう!」
亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの考えた遊びに賛成しています。そこで、今日は知恵ちゃんたっての希望にのっとり、走ったり投げたりしない楽な遊びをする事となりました。
その19の2へ続く






