その16の1『待ちあわせの話』
「ちーちゃん。今日はお菓子、買いに行く?」
「行く」
学校から帰る途中で、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは放課後の予定を話し始めました。今日は晴れてこそいないながらも空気に湿気がないので、雨は降らないと見て2人は家に帰ってから駄菓子屋へ行こうと決めました。
「アリサちゃん、夜のアニメ撮る?」
「そうだ。予約してこよう……あっ」
家の前まで来て、知恵ちゃんがアニメのことを亜理紗ちゃんに尋ねます。すると、亜理紗ちゃんは急に何かを思い出した様子で立ち止まり、ちょっと申し訳なさそうに知恵ちゃんに向き合いました。
「静江ちゃんにアニメ返さないとダメだ……そのあとにお菓子、買いに行っていい?」
「静江ちゃんの家って、どこだっけ?」
「静江ちゃんの家は美容院の横」
亜理紗ちゃんは同じクラスの静江ちゃんからアニメを録画したディスクを借りていたのですが、それを返す約束をしばらく忘れていました。静江ちゃんの家の場所は駄菓子屋を通り越した場所にあるため、道のりが往復になってしまい歩く距離が延びてしまいます。
「そうだ。ちーちゃん。アニメ返したら公園に行くから、そっちで待ってて」
「一緒に行ってもいいけど」
「ちーちゃんが大変だから、私だけで行く」
知恵ちゃんは一緒に行ってもいいというものの、亜理紗ちゃんは一人で行くとゆずりません。こうなると亜理紗ちゃんが頑固なのを知恵ちゃんは知っているので、公園で待ち合わせをすると決めて家の前で別れました。
「知恵、どっか行くの?」
「亜理紗ちゃんと、お菓子屋さんに行ってくる」
「あんまり車こないけど、気をつけてね」
知恵ちゃんの家から駄菓子屋さんまでの間は車通りが少なく、空き地を通り抜けて行けば事故にあうことはほとんどありません。駄菓子屋さんへ行く事を伝えると、知恵ちゃんのお母さんは200円だけ財布に入れてくれました。
知恵ちゃんのカバンには小銭しか入らない小さな財布がしまってあり、念のためについている防犯ブザー、それとおばさんにもらった紫の石がついたキーホルダーが下がっています。カバンを肩から下げると、知恵ちゃんは忘れ物がないか確認してから家を出ました。
亜理紗ちゃんは静江ちゃんの家へ行く為に先に出かけていて、公園まで知恵ちゃんは一人で歩いていきます。それほど距離はないため、顔見知りのおじいさんと出会った他には誰ともすれ違わず、ものの数分で知恵ちゃんは公園へと到着しました。
「……」
公園には遊んでいる子供たちがいて、すべり台や鉄棒の周りを楽しそうに走り回っています。まだ亜理紗ちゃんは来ていないようです。公園にはベンチが並ぶように設置されていて、その端っこの方に知恵ちゃんは腰かけて待つことにしました。
亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの家は近いので、待ち合わせをしたことはほとんどありません。なので、知恵ちゃんは慣れない仕草でベンチへと座っています。それから少しすると、知恵ちゃんの座ったベンチの隣のベンチへ、高校の制服を着た細身の女の人が座りました。知らない人が来た事に緊張しつつ、知恵ちゃんが女の人を横目でうかがいます。
「……」
「……」
知恵ちゃんが女の人の顔を盗み見ると、同時に女の人も顔を上げたので、不意に2人は視線が合いました。すぐに知恵ちゃんは目線を自分のヒザ元へと落とし、女の人も学生カバンから取り出した文庫本を広げて読み始めました。
その16の2へ続く






