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その99の15『旅の話』

 裏返した地図を開きます。すると、夜の闇は色をひそめ、代わりに目を襲うほどのまぶしさが窓に映し出されました。丘から見た遠くの空には宝石に似たものが大きく浮かんでいて、そのギラギラとした光を帯びた世界は、まるで銀紙で作られたような質感でした。


 「あれ?ちーちゃん。木は?」

 「いなくなった」


 部屋の横に並んでいた森の木々はいなくなっており、どこに行ったのかと探しながら亜理紗ちゃんは部屋の向きを回転させました。沼地の向こうに森や大樹が見え、彼らは陽の光を浴びて満足して帰ったのだということが解りました。


 「今日は、どこ行く?」

 「日付は変わってないけど……」


 夜が明けたので、亜理紗ちゃんは翌日になったような気持ちですが、地球時間では日はまたいではおりません。そんな一新した心持ちで、次の目的地を決めていきます。地図の中央や右上にある場所は大まかにも探検しましたが、まだ左上と左下に描かれている場所には行っていません。


 「あ……アリサちゃん。またシカさんだ」

 「またカバさんになってる」


 地図の左下へ向かおうと、亜理紗ちゃんは地図に指をつけて方向を変えています。その一方で、知恵ちゃんは窓の外に生き物の姿を発見しました。湖で見かけたとシカさんと同じ生き物らしく、水を大量に含んで体はカバのように丸々となっています。そのおしりを追いかけて、亜理紗ちゃんが部屋を進めていきます。


 「追いかけよう」

 「また追いかけるの?」

 「毛の色が違うから、別の生き物かもしれない」


 カバのようなシカさんは金色の毛並みをなびかせていて、湖で見かけた生き物とは少し姿が異なっています。どこへ向かっているのか気になり、その鈍い歩みについていきます。


 「……?」


 丸い生き物は、のそのそと洞窟へ入っていきます。洞窟の入り口はせまいですが、強引に進んでみたところ、無事に中に入ることができました。短い洞窟を抜けた先に、陽の光が差し込んでいるせまい場所がありました。


 「虹色の花が咲いてる」


 亜理紗ちゃんが言います。洞窟の奥の行き止まりへ行き着くと、そこには花畑にあったものとは違う大きな虹色の花が一輪だけ、背を曲げて咲いていました。生き物はツノの先から水を出し、お花に振りかけています。しかし、金色の花とは違って、こちらのお花には実がつきません。


 2人がお花を観察している内、水を出して体が小さくなった生き物は、ごろごろと寝転がって地面に体を押しつけ始めました。どうしたのかと、亜理紗ちゃんが不思議そうに見ています。


 「なにしてるんだろう」

 「体がかゆそうなときに、モモコも、たまにやってる」


 生き物の仕草から見て、知恵ちゃんは犬のモモコと同じく体をかいているのだと考えます。地面には虹色の花びらが落ちており、それがシカさんの毛にくっついています。起き上がった生き物の姿は金色の毛並みに虹色が生えて、とても美しくなったと同時に、地面にこすりつけたせいで毛並みもカールしています。


 「キレイな飾りがついた」

 「ちょっとよごれたようにも見える……」


 花びらだらけになった生き物を見て、知恵ちゃんは汚れたと思っていますが、見方によっては飾りつけたとも考えられます。お花に水を与えて、代わりに花びらをもらったようです。そうして、シカさんは洞窟を出ていきます。引き続き、シカさんの動向に亜理紗ちゃんは目を向けています。


 「今度は、どこ行くのかな」

 

 金色のシカさんは洞窟の近くにある小さな池に近づき、ジッと水の中をのぞいています。水を飲む姿勢ではあるのですが、一向に口をつけはしません。もう少しだけ部屋の窓をシカさんに近づけて、2人は様子をうかがってみました。


 「……?」


 水面にはシカさんが映っており、ポーズを変えながら自分の姿を確かめています。体を一回りさせると、シカさんはフッと一つ息を吐いて、また別の場所へと歩き始めました。そこでやっとシカさんの目的を理解し、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに伝えました。

 

 「おしゃれシカだ!」

 「おしゃれなのかな……」


 亜理紗ちゃんから見るとオシャレなのですが、知恵ちゃんからすると汚れたようにしか見えず、やや評価に困ったような表情でシカさんの後ろ姿をながめていました。


その99の16へ続く

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