表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
350/367

その99の8『旅の話』

 地図が描かれている紙の裏側、その黒い面を広げると、窓に映る島の様子が夜景へと変化しました。部屋の向きを少し上向きにしてみれば、遠く輝く小さな月の光が、うっすらと部屋に差し込みます。


 「……あっち、なにか光ってるよ」


 亜理紗ちゃんが部屋の方向を山から背けると、森を抜けた先に街の灯りのような、キラキラしているものが見えました。まばらな木々の間を抜けて、そちらへと部屋を進行させます。まだ地面には、雪のカタマリがごろごろしています。


 「……」


 地図から指を離し、ふと亜理紗ちゃんは部屋の動きを止めました。現在地を示す印は地図上で白く光っており。そちらを知恵ちゃんはのぞいていましたが、なぜ止まったのかと気にして窓へと視線を戻します。目の前をさえぎっているものなどは、特にありません。

 

 「アリサちゃん。どうしたの?」

 「なんか、そこで光ってたんだけど……」


 亜理紗ちゃんは窓から少し身を離しながら、怖々と部屋の外をうかがっています。知恵ちゃんも暗い森の中に目をこらしますが、どこにも光っているものは発見できません。


 「……何があったの?」

 「なんか……光ってて、ふわふわしちるのがいたんですけど……」


 亜理紗ちゃんの説明は漠然としているのですが、しりすぼみになっていく亜理紗ちゃんの声を聞いて、知恵ちゃんは光っていたものに目星をつけます。


 「……きっと幽霊だ」

 「ちーちゃん……見てきて」


 変な生き物や見た事もない場所には臆せず接していくのに、なぜか亜理紗ちゃんは幽霊や妖怪だけは怖いのです。亜理紗ちゃんから地図をもらい、知恵ちゃんは指をつけて慎重に部屋を発進させます。


 「……」


 知恵ちゃんが運転を始めると、急に部屋が真上に向いてしまいました。もやか雲のかかった空が、どこまでも澄み渡って広がります。しかし、さすがに空へは進んでいけないので、どんなに進行しようとしても、ぐらぐらと窓の外の風景は揺れるばかりです。


 「……」


 なんとか上向きから体勢を立て直しますが、そのまま部屋は引っ繰り返ってしまいました。知恵ちゃんの部屋の中の重力はそのままに、窓の外の風景だけが逆さまになって映し出されています。逆さまに見た雪山は、まるで空から生えているかのようです。


 「ちーちゃん……私がやるよ」

 「お願い……」


 知恵ちゃんは部屋の運転が上手くないのだと再確認し、地図は改めて亜理紗ちゃんへと返されました。紙を広げ直し、亜理紗ちゃんが指を押しつけます。部屋の向きを正しく直すと、その窓の外を何かが通りすぎていきました。


 「アリサちゃん。いた。幽霊だ」

 「……目をつむっておくから、ちーちゃん見て」


 声を震わせている亜理紗ちゃんに頼まれ、知恵ちゃんは窓へと近づきます。光っているものをまじまじと観察したところ、それは丸くてふわふわしていて、まるで風船のように浮きながら漂っているのが解りました。人魂のようにも見えましたが、光には細長いヒモがついてました。それを目で辿って、知恵ちゃんは視線を地面まで下げます。


 「……」


 小さな2つの光が、地面の間際に浮かんでいます。次第に光っている部分以外の形もハッキリと目視できてきます。丸く光っているのがシッポの先で、2つの小さな光は目です。シッポが長く、毛がぼさぼさした四つ足の生き物がいます。


 「幽霊じゃなかった」

 「そうなの?」


 幽霊でないと知り、亜理紗ちゃんも変な生き物を観察します。しっぽの光る生き物は2人に気づかず、のそのそと前足と後ろ足で歩いていきます。亜理紗ちゃんは生き物のあとをおうようにして、ゆっくりと部屋を前に移動させていきます。


 「……」


 生き物は光るシッポで前方を照らし、のそのそと土や雪を踏みしめています。そんなシッポのまわりに、白いちょうちょがやってきました。


 「わ……虫だ」

 「キレイな、ちょうちょだ」


 ちょうちょは2匹……3匹と集まってきます。それを見て、亜理紗ちゃんは虫を集めているのだと予想しました。


 「……食べるのかな?」

 「虫を食べるとか……」


 光で虫をおびきよせて、そこを食べるつもりなのではないかと、亜理紗ちゃんは動物の動向に注意しています。シッポの光る生き物は、ひらひらと光の近くを飛んでいる虫を見上げています。いつ牙をむくのか、2人は息をのんで見守っています。


 「……ぎっ……ぎっぎっ」


 生き物は鳴き声にあわせてシッポを振り、ちょうちょを振り払いました。そして、雪にまじって生えている草を口に含ませました。またちょうちょが集まってきてしまい、それをぶんぶんと追いはらっています。その内、生き物は諦めたようにして、しっぽの光を消してしまいました。


 「……」


 頃合いを見て、また生き物はシッポの光を再燃させます。すると、やはりちょうちょが集まってきて、また生き物は追い払うようにシッポを振り始めました。


 「ぎっ……ぎっ……」

 「ちーちゃん……すごい戦ってる」

 「戦ってるね」


 本人はイライラしているのですが、見ている分にはキレイで可愛いので、しばらく2人は生き物とちょうちょの戦いを見守っていました。


その99の9へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ