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その98の5『かくれんぼの話』

「見つかんないなぁ……」


 なかば諦めている知恵ちゃんとは違い、亜理紗ちゃんは元気にひよこを探しています。リビングで見つけた茶色いひよこも、黄色いひよこと同じく学習机のすきまに入れてきたので、いなくなってしまう心配はありません。でも、まだピンクのひよこだけは発見できておりませんでした。

 

 「アリサちゃん。そろそろ帰った方がいいんじゃないの?」

 「あ……はい」


 お母さんに言われて部屋の時計を見ると、もう時刻は午後5時を過ぎていました。全部のひよこが見つかっていないながらも、もう亜理紗ちゃんは自分の家に帰らなくてはなりません。ひとまず、勉強机のスキマにつめた黄色と茶色のひよこを取り出し、その2羽を持って家から出ました。


 「ちゃんと家に帰るんだよ」


 そう言って、亜理紗ちゃんが茶色いひよこを足元に置きます。知恵ちゃんも黄色いひよこをそっと寝かせました。死んだふりをしていた2羽はもぞもぞと起き上がって、2人の顔を見上げています。結局、見つからなかったピンクのひよこについて、亜理紗ちゃんは少し心配しています。


 「ピンクのひよこ、どこにいったんだろう」

 「先に帰ったんじゃないの?」

 「そうかなぁ……」


 見つからないということは、もう家の外に出てしまったのだとも考えられます。そうした心残りを抱きつつ亜理紗ちゃんは手を振って自分の家へと帰り、知恵ちゃんもひよこにおじぎをして家に入りました。


 「……」


 知恵ちゃんはリビングへ向かいます。その途中、何気なく物陰や天井に目を向けてみました。知恵ちゃんは物を探すのが苦手なので、1人では見つけられそうな気配もありません。ピンクのひよこの件は置いておいて、知恵ちゃんはリビングでテレビを見ていました。


 「知恵。宿題は?」

 「宿題は出てないから大丈夫」


 今日は宿題もありません。あとは寝るまで自由時間です。家の外は段々と暗くなってきました。


 「ただいま」

 「お父さんだ」


 夜になり、お父さんが帰ってきました。お父さんの声を聞いて犬のモモコが走り出し、知恵ちゃんも玄関に向かいます。


 「……お。どうした」


 お父さんを迎えに行ったモモコが、そのまま玄関から顔を出します。お父さんはモモコが家を出て行かないように押さえており、どうしたのかと知恵ちゃんも家の外へ視線を向けました。


 「あ……」


 持ち出した黄色と茶色のひよこが、玄関の外で待っているのを見つけました。お父さんがドアを閉め、モモコをつれてリビングへ歩いていきます。知恵ちゃんは考え込むようにして、玄関で立ちつくしています。その後、玄関の電気をつけたまま、2階の自分の部屋へと向かいました。


 「……う~ん」


 自分の部屋のベッドの下、机の中、クローゼット。目につく限りの場所をじっくりと、時間をかけて探していきます。今度は、ろうかに出て視線を落とします。すると、階段の下からお母さんの声がしました。


 「知恵。ごはんにするよ」

 「うん……」


 夕食は中華料理でした。いつもより少しだけ早くごはんを食べ終えて、食器を片付けながら知恵ちゃんはお父さんにお願いをします。


 「お父さん。家の部屋、いろいろ入っていい?」

 「いいけど、なにか探してるの?」

 「うん」


 2階にある自室以外の部屋に入る許可をもらって、また知恵ちゃんはひよこ探しを始めました。お父さんとお母さんの部屋。洗面所。お風呂場。家の部屋を1つずつ見ていきますが、どこにもピンクのひよこはいません。やっぱり、1羽だけ先に帰ったのだろうかと考えながら、最後に知恵ちゃんはリビングへと戻ってきました。


 「……」


 お父さんとお母さんが不思議そうな顔で知恵ちゃんを見ています。それも気にせず、知恵ちゃんはリビングの中を見て回ります。結局、捜索ははかどらないまま、夜の9時になってしまいました。今日は外で遊んできたので、疲れもたたって段々と眠気が襲ってきます。


 「知恵。何か見つからないなら、お父さんたちで探しておくけど?」

 「んん……」


 お父さんは、そう言ってくれます。でも、家にひよこがいるなんて言って、信じてくれるかは解りません。そもそも、もう家の中にはいないのかもしれません。これだけ探して出てこないなら仕方ないと、知恵ちゃんはお父さんたちの提案に、首を横に振って見せていました。


 「……?」


 ベッドにいたモモコが急に立ち上がって、知恵ちゃんに体を押しつけてきます。そして、鼻をもぞもぞと動かします。知恵ちゃんの手のにおいをかいで、それからモモコはリビングのドアの前に立ちました。


 「出るの?」


 リビングから出ると、モモコはにおいを辿るようにして玄関へと歩いていきました。クツを入れる下駄箱の前で立ち止まって、知恵ちゃんの顔を見ています。まだ玄関は探していなかったと気づいて、知恵ちゃんは下駄箱の戸を横に引きます。


 「あっ……いた」

 「ぴぴぴ……」


 やっとピンクのひよこを見つけました。死んだふりをしているひよこを下駄箱の中から取り出します。知恵ちゃんはモモコが家から出ないようにガードしつつ、小さく玄関のドアを開いてひよこを外に出しました。


 「ぴぴぴ」

 「ぴぴぴ」


 外で待っていた茶色と黄色のひよこが、ピンクのひよこに駆け寄ります。仲間の声を聞いて、ピンクのひよこも顔を上げました。これで全員、家から出ることができました。


 「ぴぴぴ」


 一度だけ知恵ちゃんの方を見てから、ひよこたちは夜空に向けて飛び立っていきました。その3つの小さな毛玉が見えなくなると、知恵ちゃんはモモコをつれてリビングに戻りました。


 「お父さん。見つかった」

 「そうか。それならよかった」


 知恵ちゃんが何を探していたのかは知りませんが、これでお父さんとお母さんも安心です。知恵ちゃんもモモコをなでてあげてから、歯をみがきをしに洗面所へと向かいました。


 次の日の朝、亜理紗ちゃんからピンクのひよこについて尋ねられました。やっぱり亜理紗ちゃんも、ひよこの事が心配だったようです。


 「あのリンリンみたいな見つからないひよこさん、あのあとどうなったの?」

 「うん。モモコが見つけてくれた」


 昨日のかくれんぼでは、最後まで誰も凛ちゃんを見つけてあげられませんでした。そこで、亜理紗ちゃんはかくれんぼの必勝法をあみ出します。


 「次、リンリンとかくれんぼをする時は、モモコちゃんをつれていったらどうかな……」

 「……それでも見つかるかな」

その99へ続く

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