その98の3『かくれんぼの話』
1回目のかくれんぼは凛ちゃんが優勝したので、すぐに2回戦の準備を始めます。
「ちーちゃんは、さっき鬼だったから今度はかくれる方ね」
「うん」
都合よく知恵ちゃんは鬼から除外され、今度は明確にルールを決めてかくれんぼを再スタートしました。範囲は公園の中だけ。知恵ちゃんはかくれるのも苦手なので、鬼の桜ちゃんに数秒で発見されます。
「アリサ、見つけた」
「また見つかった……」
「なんでアリサちゃん……同じところにかくれたの?」
先ほどと同じ場所にかくれた事が敗因で、亜理紗ちゃんも簡単に見つかります。数分後に百合ちゃんもつかまったのですが、やっぱり凛ちゃんが見つかりません。4人がかりで公園をひたすら巡回し、また30分が経過します。
「……もう!なんで気づかないの!」
「お……出てきた」
しびれをきらせて、凛ちゃんが自分から出てきてしまいます。ここまでくると、もうわざと見ないふりをしているのではないかと不安になり、凛ちゃんはみんなを問い詰めます。
「なんで見つけてくれないの!?こういうの、いじめって学校では言うのよ!」
「だって見つからないんだもん」
桜ちゃんから正直な返答をもらいますが、それでは凛ちゃんも納得しません。そこで、別の切り口で知恵ちゃんに迫ります。
「わかった。みんな、私に興味ないんでしょ!もっと、私を見て!チエきち!私の一番、いいところ言って!」
「かくれんぼが得意なところとか……」
「……そ……そうよ」
ちゃんと知恵ちゃんが良いところを引き出してくれたので、これで凛ちゃんも安心しました。かくれんぼにおいて凛ちゃんを攻略するのが不可能なので、かくれんぼはおしまいとなります。みんなで駄菓子屋さんに寄ってお菓子を買い、それぞれお別れをして自分の家へと帰りました。
「ちーちゃん。今、何時?」
「午後4時半」
2人で歩く帰り道、亜理紗ちゃんから時間を聞かれ、知恵ちゃんがカバンについた時計を見ます。5時には家に帰るとしても、まだ少しだけ時間があります。せっかくお菓子を買ったので、それを知恵ちゃんの家で一緒に食べることになりました。
「お母さん。ちょっとアリサちゃんと部屋にいていい?」
「いいよ」
知恵ちゃんが先に家へと入り、お母さんの許可をもらって亜理紗ちゃんをまねき入れます。リビングへは向かわず、そのまま2階にある知恵ちゃんの部屋へ移動しました。
「アリサちゃん。お皿いる?」
「たぶん、大丈夫」
「……あ」
知恵ちゃんはドアを開き、自室の中へと目を向けます。カーテンが半分ほど閉まっていて、室内には浅く光が入っています。部屋の電気をつけます。すると、テーブルの上で何かが動いているのが発見されました。
「……アリサちゃん。なんかいた」
「なに?」
「……ピピピ?」
部屋の中央にあるテーブルの上に、小さな毛玉のようなものが集まっています。ピンクと黄色、それに茶色。ひよこに似た3羽の鳥です。
「ピピピ!」
電気で部屋が明るくなったことにビックリして、ピンクと茶色のひよこが知恵ちゃんたちの方に走ってきました。とっさに道を開けてしまい、そのまま2羽のひよこは知恵ちゃんの足元を通って、どこかへと姿をくらましました。
「……」
出て行ったのは2羽だけなので、黄色のひよこは、まだ部屋に残っているはずです。亜理紗ちゃんが先に部屋へと入り、どこへかくれたのかと探していきます。
「あっ……ちーちゃん。こっち」
部屋の中央まで進み、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんに手招きをしました。ひよこに気づかれないよう小声で話しつつ、亜理紗ちゃんは勉強机にあるスキマを指さします。本だなと天板の間にある空間に、黄色い毛玉が詰まっているのを知恵ちゃんも見つけました。
「……」
黄色いひよこは亜理紗ちゃんに取り出されますが、抵抗するでもなく体をブルブルと震えさせています。ドキドキという、小さな心臓の音が手に伝わってきます。どうやら、2人のことを怖がっているようです。
「アリサちゃん……鳥は死んでるの?」
「がんばって生きてる」
外に逃がそうか。何か食べさせようか。亜理紗ちゃんはナデナデしながら黄色いひよこを観察した末、その子を元のスキマへと戻しました。
「あ……戻すんだ」
「戻しといた」
スキマに入れたら黄色いひよこの震えがおさまったので、ひとまずは2人も、それでいいことにしました。
その98の4へ続く






