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その98の2『かくれんぼの話』

 かくれんぼの最中にあって亜理紗ちゃんにはげまされ、折れかけた知恵ちゃんの心は復活しました。中断していたかくれんぼを再開します。もしも、みんなが公園の外に隠れているとしても、知らない家の敷地に入るとは考えられず、身を隠すに都合のいい場所だって、そう多くはありません。とりあえず、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは公園の周囲を歩いてみることにしました。


 「……」


 キレイに切りそろえられたヤブの中へ、そっと知恵ちゃんが視線をくぐらせます。その草かげには灰色のネコがおり、身をかがめながら知恵ちゃんを見つめ返していました。一方、知恵ちゃんの後ろを歩いている亜理紗ちゃんは別の方向を見つめています。


 「……ちーちゃん。あそことか怪しいんじゃないかな?」

 「どっち?」

 

 公園の名前がかいている石が設置されており、そちらを亜理紗ちゃんが指さしています。石は後ろに隠れられるだけの大きさはあり、知恵ちゃんはグルリと石の周りを確認します。


 「いや……誰もいなさそう」

 「いそうなんだけどなぁ……」

 「……そうかな」


 石の裏まで念入りに確かめてみますが、やっぱり人の姿は見当たりません。諦めて別の道へと歩き出してしまった知恵ちゃんを呼び止めつつ、亜理紗ちゃんは立ち位置を少し変えながら告げます。


 「いそうなんだけど……」

 「う~ん……」


 そこまで言うのならばと、知恵ちゃんは石の上側まで細かく探します。でも、どうしても見つけられません。亜理紗ちゃんの視線は露骨に石の近くにある木の後ろへと向いていて、そちらにいる百合ちゃんとも既に目が合っています。知恵ちゃんは物を探すのが苦手な子なので、どうすれば見つけてもらえるのかと逆に亜理紗ちゃんが悩み始めました。


 「……そうだ。ちーちゃん。私が見つけたら、見つけたことにしていいの?」

 「いいよ」

 「百合ちゃん……いいって」


 このままでは百合ちゃんが木の後ろから出て来られないので、ルールを追加して亜理紗ちゃんが百合ちゃんを見つけたことにしました。こんな近くにいたのに気づかなかったのかと、知恵ちゃん本人も困った顔をしています。


 「もしかして、百合ちゃんは、かくれんぼの名人なの?」

 「ちがうけど……」

 「ちーちゃんは……よく物もなくすし……」

 「私の部屋、ブラックホールあるし……」

 

 ものをなくすのはブラックホールのせいにできますが、1メートルの近さまで接近して百合ちゃんを見つけられなかったことは言い訳できません。むしろ、あれだけの近さで気づかなかった事に百合ちゃんの方が驚いており、かくれんぼが終了するのかが心配になります。そこで、百合ちゃんは早めに次の1手を打ちました。


 「あ……私、桜ちゃんの居場所、知ってるけど」

 「どこ?」


 駐輪場のそばにある自動販売機の横へ、自発的に百合ちゃんが案内してくれます。桜ちゃんは体も大きいので、その後ろの方に隠れている桜ちゃんのことは知恵ちゃんにもすぐに見つけられました。


 「百合……教えちゃうのはありなの?」

 「ありなの……」


 これで、残りは凛ちゃんだけです。知恵ちゃんの探索能力については知れているので、みんなで手分けして凛ちゃんを探します。そうしてグルグルと、公園の近辺を何度も見て回るのですが、どうしても凛ちゃんは見つかりません。30分ほども探した後、桜ちゃんが途方に暮れた様子で、空を見上げながら言いました。


 「……1人で帰ったのかな?」


 凛ちゃんは割と自分勝手な部分こそありますが、何も言わずに帰るとは思えず、知恵ちゃんは隠れられそうな場所を見つけてはのぞいています。それでも、どうしても凛ちゃんの居場所は解りません。ついには、百合ちゃんがリタイアを宣言します。


 「えっと……降参はあり?」

 「私はいいけど……アリサちゃん。いい?」


 このまま隠れさせておくのも申し訳ないとして、亜理紗ちゃんもうなづいて見せました。降参の意思を込めて、亜理紗ちゃんが凛ちゃんの名前を呼んでみます。


 「りんりーん。もう出てきてー」

 「え?なんでー?」


 すぐ近くで凛ちゃんが声がして、頭に葉っぱをつけた凛ちゃんが現れました。隠れていた場所は、かくれんぼを始める前に知恵ちゃんがカウントをしていた場所の後ろです。そんなところにいるはずがないといった様子で、知恵ちゃんは凛ちゃんに尋ねます。


 「そ……そこにいたの?」

 「ずっといたわよ」


 公園内は、桜ちゃんも百合ちゃんも、亜理紗ちゃんも、じっくりと探しました。でも、今に至るまで凛ちゃんは見つからずにいたのです。それをしっかりと理解した後、知恵ちゃんが再び凛ちゃんに声をかけました。

 

 「い……いつから?」

 「ずっといたけど?」


 特にやましさもないのに、凛ちゃんは知恵ちゃんから目を背けます。そして、衝撃的なことに気づいたといった様子で、今度は凛ちゃんが亜理紗ちゃんに聞きました。


 「えっ……もしかして、私って」

 「……?」

 「……影、うすい?」

 「りんりん……そんなことな……ないよ」


その98の3へ続く

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